知識創造に注目した「内生的経済成長理論」

 ローマー氏が提唱しているのは、「知識イノベーションがもたらす長期的成長」に関する理論である。アダム・スミスの頃から、技術革新が経済成長に大きな影響を与えることは認識されていた。にもかかわらず、新古典派のマクロ経済研究では、新技術の創造(=イノベーション)をモデル化できず、人口成長率(という外生的要因)で経済成長率が決定されるとしてきた。

 新古典派の理論に従うと、例えば、発展途上国の人口成長率を(ほぼ)同じだと仮定すると、各国の経済成長率は一定水準に落ち着くはずである(=ほとんど同じ水準になる)。しかし実際の経済成長は人口とは関係ない要因によって、高くなったり低いままだったりする。

 そこで、技術的な変化を成長要因として考慮に入れた理論として、80年代に登場してきたのが内生的理論である。新古典派の理論では採り入れていなかった、企業の研究開発などで生み出される人間の知識やアイデアを、経済成長を左右する変数として採用したのだ。

 ローマー氏は90年の論文で「知識は、使用してもなくならない」という特性に着目。企業内の個人や組織が生んだアイデアや革新的技術が、社会的資本として共有され、他の企業にも伝搬することで、それが最終的にどのように国家の生産性を向上させるのかを明らかにした。

 また知識は、研究開発に投じられる人員(人的資本)と、蓄積された知識の量によって増加していくが、それを応用した技術革新(イノベーション)が、どのようにして製品や事業の開発に結びつくかは国家の政策などにも依存する、とした。

 しかし、P.ドラッカーの著作を引くまでもなく、これだけなら、いわば常識的な洞察である。

知識イノベーションをめぐる3者の関係
知識イノベーションをめぐる3者の関係

 ローマー氏が優れていたのは、例えば単に新技術だけを見るのでなく、社会や企業がその新技術について有効なルールを発見し、それをどう適用(実用化)するのかという能力が成長の要因になるとした点である。

 例えば特許や知的財産戦略を考える際には、規制のためのルールでなく、新しい特許などを生み出す意欲を高める制度設計をするというバランスが必要で、特許を軸に企業や人々の相互作用を生み出す社会的規範、ルールこそが重要とした。

 80年代から進んだアイデアのグローバルな流れ(知識の流通)は経済を発展させ、世界を変化させてきた。そのハブになったのは建物の集まりとしての都市や、産業の集積としての都市ではなく、人々のアイデアや知識が交わる「場」としての「都市」であった。

 それは個人の欲求、人的資本、社会的関係資本を結びつける場であり、いわゆるコワーキングスペース、フューチャーセンター、イノベーションセンター、リビングラボのような場が、イノベーションを生み出すのである。

 こうした考えからローマー氏は、「チャーター(憲章)都市」という構想を打ち出し、ニューヨーク大学で「都市化プロジェクト」を立ち上げている。これはルールに基づく知の場としての「経済特区」を創設し、発展途上国の政策者が都市の成長による経済的機会を享受できるように、社会改革を支援するプロジェクトである。