「燕三条 工場(こうば)の祭典」(以下、工場の祭典)は、日本有数の金属加工品の産地である新潟県燕三条地域の企業が一斉に工場を開放し、来場者がものづくりの現場を見学・体験できるイベントだ。6回目となる今年は、過去最大の規模で開催された。

JAPAN HOUSE LONDONでの展示の様子。近藤製作所の鍬は、北のものから南のものへ、地域順に並べられている ©「燕三条 工場の祭典」実行委員会
JAPAN HOUSE LONDONでの展示の様子。近藤製作所の鍬は、北のものから南のものへ、地域順に並べられている ©「燕三条 工場の祭典」実行委員会
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 今年は「工場」93社に加え、農業を営む8社が「耕場」として、そして、工場で作ったアイテムを販売する8社が「購場」として参加した。MGNETは、工場の祭典に合わせて、廃工場をリノベーションするかたちで、燕三条ものづくり発信拠点施設「FACTORY FRONT」をリニューアルオープンした。同社は、精密金型加工の武田金型製作所を親会社として持ち、その技術を生かした自社ブランド製品を企画、開発、販売している。代表の武田修美氏は「地域で増えている廃工場を負の遺産とするのではなく、地域資源と捉えて活用していく」と話す。

2018年9月29日に開店した「FACTORY FRONT」。施工のコーディネートはgift_labが担当した。自社ブランド「FOR」の金属製名刺入れの他、燕三条で人気の商品をセレクトして販売している(写真提供/MGNET)
2018年9月29日に開店した「FACTORY FRONT」。施工のコーディネートはgift_labが担当した。自社ブランド「FOR」の金属製名刺入れの他、燕三条で人気の商品をセレクトして販売している(写真提供/MGNET)
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燕三条の職人、世界へ

 イベント規模の拡大に伴い、今年は欧州での展示も話題となっている。英国にある日本文化の発信拠点「JAPAN HOUSE LONDON」では、工場の祭典とのコラボレーションによる企画展「Biology of Metal:metal craftsmanship in tsubame-sanjo 燕三条 金属の進化と分化」を9月6日~10月28日に開催。燕三条地域のものづくりの歴史などを解説する展示と同時に、職人が現地に赴いて実施するワークショップやトークイベントが話題になっている。

 出展企業の一つ、農耕用の鍬を専門とする鍛冶工場の近藤製作所は、日本各地で使われる鍬を展示。鍬は地域色が強く、土地によって全く違う形状のものが用いられており、現在も各地の依頼に合わせて作り続けているそうだ。

 代表の近藤一歳氏は、職人3人によるトークイベントに参加した。英国では、主にスコップ形状のものが農業に用いられてきた歴史があり、鍬という道具になじみがない。そのため「何に使う道具なのか」という質問から始まったそうだが、近藤氏が、種類が増えてきた理由や、腕力がなくても耕しやすい鍬の利点を説明したところ、質問者も深く理解していたという。

 工場の祭典は、今年11月にスイスで開催される「Designers’ Saturday」にも招待出展する。これまで地域に根付いたイベントとして続けてきたが、「開け、KOUBA!」のコピーの通り、世界に扉を開いている。開催1年目から年々規模を拡大し、海外進出も果たした工場の祭典。短期的に人を呼ぶことに執着し過ぎず、街に根付いた新しいブランドとして、若手クリエイターたちと共に作り上げてきた点にも、成功の秘密がありそうだ。

鎚起銅器の「玉川堂」によるワークショップの様子。職人が指導しながら進められた ©「燕三条 工場の祭典」実行委員会
鎚起銅器の「玉川堂」によるワークショップの様子。職人が指導しながら進められた ©「燕三条 工場の祭典」実行委員会
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