あらためてヨーカ堂での役割を教えてください。

 営業本部の本部長補佐という役割です。明確にこれをやるということが決まっているわけではありません。狭義のマーケティングを超え、どんなことができるのかなということをいろいろな部署の方と話したりしながら描いているところです。

以前の記事でおっしゃっていた「自分は振り幅がより大きい選択肢を選ぶ」という意味でいうと、西友からドミノ、そしてヨーカ堂と最近はわりと近い業界や業態に転職されているイメージがありますが。

 痛いところを突いてきますね(笑)。実は入る前の時点でヨーカ堂にはマーケティングの部署がなかったんですよ。そこで、マーケティングでできることがまだたくさんあることに武者震いを覚えたという感じですかね。

西友のときもマーケティング機能がない状態で入られて、一から作り上げたと聞いています。

 マーケティング本部という部署はあったんですね。ただ実態としてやっていたことは消費者コミュニケーションのうちの広告と調査くらいだったんです。でもマーケティングってそれにとどまらない範囲でいろいろできる。それをちょっとずつ広げていきました。

 さらに、自分が西友のときにマーケティング的な眼鏡を通して見てこなかったことで、実はマーケティングが役に立つのではと思うことが後からかなり出てきているんです。例えば、ドミノで実店舗にお客さんが来店すると、スタッフが逃げていっちゃう。これまで宅配だけだったので、実店舗での接客に慣れていないんですね。そこでマーケティング=コミュニケーションをする相手の認知制御や態度変容を促すことだと定義すれば、お店の人のマインドセットやそこに対するメンタルモデルをどうやって作るかが重要だと分かる。このポイントって、西友のときにはなかったんですよね。

「西友では自分がやれることをやりきった」とおっしゃっていましたが。

 思っていたんですよ。でも、ドミノに入って店舗スタッフと話をしてみると、現場のディテールって本当に大事だよなと思うわけです。総合スーパーで考えてみると、同じ食品売り場でも加工食品、グローサリー、生鮮などのスペースがあります。さらに違う階に行ったら、洋服や家具の売り場もあります。それぞれの売り場を魅力的に作り、メンテナンスしていくノウハウって、売り場ごとに結構違うんです。

 ただ、そういうノウハウが言語化されていることってほとんどないんですよね。現場にすごく優秀な担当者がいて、その人はすごくきれいにやるんだけど、その人がいなかったら、そこそこの売り場になる。一般的な常識としては、それが大半だと思うんです。ですので、現場作りも言語化して再現性を高くして、売り場の魅力を最大化していくことができるんじゃないかと思っています。

 GMSは業態としてカテゴリーキラーに負けたといわれるじゃないですか。でも、本当かなと思っています。個別の最適化の追求がカテゴリーキラーよりも後手に回っただけだったら、そこさえ改善すれば、すぐには勝てなくても今より全然良くなる可能性はありますよね。

GMSという形でできることはまだあると。

 あると思います。GMSって何でも売っていますよね。家具とか家電とか洋服とか。だから、接客が必要なものなんです。接客によって、ものすごくパフォーマンスが変わるはずなんですよね。カテゴリーキラーは豊富な品ぞろえと価格が武器。接客をできるだけ排除し、お客さんに自分で見て選んでもらうというバイイングプロセスが多い。それと同じモデルに突き進んでいくとよろしくない。なぜならば、品ぞろえなら相手が勝っているから。これは相手の土俵で相撲をしているのと同じです。そうじゃない形で勝機を見いだすために、例えば接客にフォーカスする。

 接客スキルというのは、一般的には商品に詳しくなることを言うんですよ。お客さまが欲しいのはとにかく商品知識だからと。でも、本当にそうかなと思うんですよね。ご自身でクルマや家みたいな高額な商品を買ったときのことを考えてほしいんですけど、買い手の「これ、買ってもいいんだろうか」という疑問を解消してあげるとか、「この商品がおうちにあったらこんなことができますよ」と夢が語れるかといったことが大事。それって商品知識ではなく、対人スキルですよね。そういうことがすごく大事になってくると思います。

 GMSの売り場スタッフって、同じ食品でも加工食品担当の人もいれば、鮮魚担当の人もいる。加工食品の人がなすべきことと、鮮魚の人がなすべきことは同じ食品でも全然違うんですよね。さらにそれが家具になると、全く違う。でも実際にはストアのスタッフという感じで、十把ひとからげになってしまう。本当は個別具体的に、どの売り場ではどんなメンタルモデルが必要で、どういう行動が望まれるのかということがちゃんと議論されて、個別に指導されるべきだと思うんですけど、そうなっていない。

 GMSという業態を突き詰めるということは、良い商品を調達して安く売るみたいなことの他に、今言ったようなこともあると思うんですよね。そういうのを全部調和させる。「GMSは死んだ」とかいうようなことはまだ言わなくていいんじゃないかと思います。

ワンストップで買い物できる便利さは価値として変わらないですし。

 そのはずです。ただ、ワンストップだけだとGMSに来る理由にならないですよね。だから何かしらGMSのほうがいいということを言う必要があって、一見非常に厳しい競争環境に見える家具みたいなところも、例えば接客という勝機があるんじゃないかというのがさっきの話ですね。そんな感じで加工食品は加工食品なりの強み、鮮魚には鮮魚なりの強みを作っていくことによって、新たな強みの集合体としてのGMSが完成していって、それは結果的にワンストップ2.0みたいな話になるのかなと思うんですね。