山形県鶴岡市で街づくりに取り組むベンチャー企業・ヤマガタデザインは、2018年9月19日、建築家・坂茂氏設計のホテル「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」と全天候型児童遊戯施設「KIDS DOME SORAI」をオープンした。客室数は143室で、木造の客室を持つホテルとしては日本最大級だ。
周囲を水田に囲まれた立地に浮かぶように設計されたSUIDEN TERRASSEは、基礎部分など以外は木造とし、田園風景に調和する2層の建築。坂氏が世界で初めて設計したホテルだ。ホテルは、ロビーやレセプション、レストラン、ライブラリーなどがある共用棟、3棟の宿泊棟、そして、天然掛け流しの温泉を提供する温泉棟から成る。
共用棟は木造による大スパンを実現したのが特徴だ。屋根をジャバラのようなギザギザ状にすることで強度を持たせ、柱を減らした開放的な空間を実現した。共用棟とガラス張りの渡り廊下で結ばれた宿泊棟は、山形を代表する霊山である出羽三山(月山、羽黒山、湯殿山)にちなみG棟、H棟、Y棟と名付けられている。建築の基礎や廊下、エレベーターといったコア部分は耐火基準を満たすためにコンクリート製だが、客室はすべて木造建築。木の柱や梁が見える作りに加え、家具やカウンターなども木製で、温もりのある空間となっている。
坂氏は、紙管を建築の構造材として使用することで知られている。特に復興支援活動に熱心に取り組み、東日本大震災では、紙管と布を使い体育館などの避難所でプライバシーを確保する仕組みを提供するなど、被災地での生活の質の向上に紙管を効果的に利用してきた。客室でも紙管をへッドボードや椅子、照明器具などに使用している。
SUIDEN TERRASSEに隣接して同時にオープンしたSORAIは、豪雪地帯である鶴岡でも、冬場、子供たちが伸び伸び遊べる空間を作り出す。上層の「アソビバ」は中央に高さ6mの巨大ネットジャングルがそびえ、そこに斜面やクライミングゾーンが連なる。下層の「ツクルバ」は各種の画材や工具、素材、ミシンから3Dプリンターまでを備えた子供たちのためのものづくりの場だ。
これらの施設は、いずれもサイエンスパークの中にある。慶應義塾大学先端生命科学研究所を核に、これまでバイオベンチャーが6社生まれており、外部から人を呼び寄せる求心的な役割を果たしている。「外から来た人と地域の人が、もっと交流を深められる場を作りたい」(ヤマガタデザインの山中大介社長)。この施設にはそんな思いが込められている。
(写真/55 Co.,Ltd.)