ランチタイム、気になるラーメン屋に行くと、券売機の前には長蛇の列が。「今日は諦めよう……」。こんな経験を持つ人は少なくないだろう。この行列に並ぶことなく、席から直接スマートフォンを使ってラーメンを注文できる。そんな取り組みが始まった。

(写真/Shutterstock)
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 「らーめん食堂 あの小宮」大崎ガーデンタワー店は2018年7月27日、券売機に並ばずに座席からスマホで注文できるサービスを始めた。ラーメン業界としては極めて珍しい取り組みだ。ランチタイムといった混雑時にできる券売機前の行列を解消し、機会損失を防ぐことを狙う。

 「あの小宮」はスマホによる注文を導入することで、来店者と店舗双方の課題の解消を狙う。課題として挙げられるのが混雑時の券売機の行列だ。席は空いているのに券売機の前に行列ができ、座席数に余裕があっても並びを避ける客が他店に流れてしまい、機会損失を生んでいた。あの小宮 大崎ガーデンタワー店は、オフィスビルのレストラン街にある。そのため書き入れ時の昼食時に売り損じが生じると、その後の集客が見込みにくく売り上げへの影響が大きい。

 この課題の解消を狙い、座席から注文できるサービスを導入した。利用者は、券売機に並ぶことなく座席からスマホでラーメンを注文できるようになる。決済もアプリ上で完了できる。キャッシュレスかつスムーズな受け取りを可能にしようとしたのである。

店外からの「事前注文」に対応しないワケ

 これを実現するために導入したのが、店舗のデジタル化を支援するShowcase Gig(東京・港)の事前注文・決済プラットフォーム「O:der(オーダー)」だ。

 O:derの仕組みは、至ってシンプル。利用者はO:derのアプリから利用したい店舗を選択し、商品を事前に注文・決済する。商品が出来上がったら、アプリに通知が届くため、来店して受け取るだけで並ばずに済む。また、購入ごとにアプリ上にスタンプがたまる。スタンプをすべてためれば、店舗からお得なクーポンが進呈される。あの小宮はこの仕組みを使って、座席からラーメンを注文・決済できるようにした。

「お席にご着席後、ご注文ください」と注意書きをして、店内での注文を徹底する
「お席にご着席後、ご注文ください」と注意書きをして、店内での注文を徹底する

 だがラーメンは麺の伸びや硬さが味に大きく影響する。O:derの特徴である店外からの「事前注文」では、来店するまでに味が落ちてしまう恐れがあった。そこで、あの小宮は店内の座席に着席した後に注文してもらう利用方法に限定している。

 O:derのアプリの「あの小宮」店舗ページに「お席にご着席後、ご注文ください」と大きく記載することで注意を促している。さらに、メニューを選択した後にも店内からの注文であるかどうかを確認する承認ボタンが表示される。少し手間はかかるが、このような方法によって、ラーメン屋での「スマホ注文」を実現したのだ。

従業員の労働の効率化も実現

 スマホでの注文の導入から1カ月以上が経過した現在、「あの小宮」では2つの効果を実感しているという。1つ目の効果として、スマホ注文の利用者のほうが顧客単価がおよそ1.5倍になるということだ。

トッピングやサイドメニューが自然に目に入る導線設計で、アプリから注文する顧客の単価は1.5倍に
トッピングやサイドメニューが自然に目に入る導線設計で、アプリから注文する顧客の単価は1.5倍に

 「あの小宮」では、ラーメンを1杯750円で提供している。トッピングなどをする顧客はそう多くない。一方、スマホ注文を利用した場合、「2人の会計で2000円を超えるケースが多い」(店舗を運営するKOMIYA THE SECOND CHALLENGEの吉永貴之取締役)と明かす。これは、行列に急かされることなくじっくりメニューを検討できることから、トッピングやサイドメニューを注文しやすくなったことが要因だと考えられる。実際にサービスを利用してみると、メニューの一つひとつに商品写真が添えられており確認しやすい。また、ラーメンを選択してからトッピング選択までの導線を自然にすることで、追加注文しやすい導線設計になっている。

 2つ目の効果は、店舗オペレーションの負荷の軽減だ。O:derから注文すると、厨房に設置されている小型のプリンターから1枚のレシートが出力される。そのレシートには、ラーメン、サイドメニュー、トッピングなどの組み合わせが1枚にまとまっているため一目で確認できる。注文間違いなどのミスも減り、スムーズなオペレーションにつながるという。従来の券売機による注文の場合、ラーメンやトッピングの券が1枚ずつ分かれて発券されるため、確認に手間取っていた。

 一方、新たな注文方法のため、厨房で確認が漏れる恐れもあった。それを防ぐために、厨房にはタブレット端末が据え付けられている。注文が入るたびに、電話のベルのような音を鳴らすことで注文忘れを防止している。

厨房にタブレット端末を据え付けることで、注文忘れを防ぐ
厨房にタブレット端末を据え付けることで、注文忘れを防ぐ

 業務効率が上がったことで、あの小宮では、O:der導入後から混雑時の従業員を2人減らすことに成功した。効果を実感する吉永氏は「いずれは券売機を無くしたい」と話す。

 事前注文導入は「あの小宮」にとって、プラスの方向に進んでいると捉えて疑いようはない。だが、課題もある。例えば、売り切れ商品に対する表示切り替えができず、体験を損なう恐れがある。また、アルコールの注文などは従業員を通さなければならない。こうした課題の解消が、さらなる利便性向上に求められそうだ。

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