自民党総裁選は先ほど開票が行われ、各種メディアの事前観測通り安倍晋三首相が石破茂元幹事長を破って3選を果たした。だが99%の国民は今回、投票権がない。Twitterでは、安倍対石破、どちらが優勢だったのか? 見えてきたのは壮絶なディスり合い。インターネット選挙の成熟には時間がかかりそうだ。

自民党総裁選は、同党国会議員の議員票405票と、全国100万人超の党員・党友の得票を405票に割り振った計810票で、過半数を得た候補者が当選となる。つまり国政選挙において1億人を超える18歳以上の有権者のうち、99%は投票権を持たない部外者であるのが今回の総裁選だ。
そんな部外者の声があふれるTwitterでは、安倍対石破、どちらが優勢だったのか?
Yahoo! JAPANのリアルタイム検索で、「安倍 総裁選」と「石破 総裁選」の過去1カ月のツイート数推移を比較したのが上のグラフだ。安倍首相が8月26日に立候補を正式に表明して以降、水色の「安倍 総裁選」ツイートが、オレンジ色の「石破 総裁選」ツイートをほぼ全日上回った。
桜島を背景にした立候補表明が不評
安倍ツイートが伸びたのは、立候補表明翌日の27~28日にかけて。26日の立候補表明が鹿児島・桜島をバックにした構図で、同日夜のNHK大河ドラマ「西郷どん」が「薩長同盟」の回だったことから、「便乗だ」「会津に宣戦布告か」などと不評を買った。
また、27日夜に安倍氏のTwitterとFacebookに投稿された、筑前の志士・平野国臣の短歌「我が胸の燃ゆる思ひにくらぶれば煙はうすし桜島山」が、「自分の熱い思いに比べれば桜島の煙など薄いもの」という、薩摩への失望を歌ったものだとの指摘も相次いだ。
ツイート数が伸びた8月27~28日の投稿は、ポジティブな内容かネガディブな内容かを判別するYahoo! リアルタイムの判定でも、27日のネガティブ率が64%、28日が同56%と高い数字が出ている。上は、「安倍 総裁選」投稿と「石破 総裁選」投稿のネガティブ率の推移グラフだ。
本来、ポジティブ投稿率もグラフにして比較すべきところだが、両者ともにポジティブ率が0%から最大でも2%と極端に低かったため、ネガティブ率のみの推移を掲載している。ポジでもネガでもないニュートラルな投稿は、ニュースサイトの記事見出しを転載したものが多い。つまり、意見・感想が記された投稿は、批判的な内容が大半と言える。Twitter上では壮絶なディスり合戦が展開されていた格好だ。
過去1カ月間の平均ネガティブ率は、「安倍 総裁選」が52%、「石破 総裁選」が46%で、Twitter上での評判は、石破氏の辛勝だった。好印象というより、「ディスられ度が安倍氏ほどではなかった」のが実態だ。
ちなみに、「安倍 総裁選」ツイートでネガティブ率が最も低かったのは9月10日(37%)。ロシアを訪問していた時だった。

石破氏の取り組みでニュースになったのが、YouTubeで全47都道府県に向けて公開した47本のメッセージだった。地方創生大臣の経験があり、鉄道オタク、グルメ好きという一面を持つ石破氏だからこそ語れるコンテンツと言える。
党ネットメディア局長の平将明衆院議員の発案によるもので、特に台本もなかったという。各県にまつわる自身の思い出話を皮切りに、名産品や産業、祭りなどを挙げつつ地方から日本を元気にする思いを滔々と語っている。各県5分前後から10分を超える県もある力作だ。
2013年7月の参院選からインターネットを使った選挙活動が解禁されたが、選挙期間中も投稿を控える必要がなくなっただけで、候補者の選挙活動が変化した印象はあまりなかった。それだけに全47都道府県に向けて候補者が語りかける動画は、意欲的な取り組みだ。9月6日に北海道で大きな地震が起きた際には、翌7日にお見舞いメッセージを新規に収録、投稿している。
もっとも、ニュース記事でも取り上げられたにしては、再生回数は伸び悩んだ。9月1~3日に公開した都道府県向け動画47本の合計再生回数は、4万回にも届いていない。
都道府県別の再生回数ランキングの1位は沖縄県だった。これは沖縄県向け動画の中で石破氏が、沖縄の基地集中の要因について「日米が本土の基地反対運動を恐れたから」との見解を示したことが問題視され、当該部分をカットして前後をつないだ動画を再アップしたことで注目されたためだ。
3位の静岡県は、沼津が舞台の人気アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』について石破氏が言及していることがアニメクラスターの間で話題になって再生が伸びた。4位の茨城県も同様に、大洗が舞台の人気アニメ『ガールズ&パンツァー』に言及したことが影響した。
議員票は安倍氏が固めたが、野党勢力も含めた国民の人気は石破氏に分がある――。そんなアンケート調査や報道がこの総裁選期間中、散見された。だが、ネット上から「石破人気」の痕跡を探すことは難しかったと言わざるを得ない。
また、ネット選挙活動は総じて落選運動に向かいやすく、ポジティブな取り組みが評価されて効果を発揮するには、まだまだ時間がかかりそうだ。