子供服のファミリアが神戸旧居留地に「ファミリア神戸本店」を開業。食や教育、リラクセーション、医療までカバーし、百貨店の屋上にあった“遊園地”のような印象。その背景にある社長の危機感とは?
子供服大手のファミリアは神戸元町本店と大丸神戸店を閉店。2018年9月8日、体感型ショップの集大成となる「ファミリア神戸本店」を、神戸旧居留地に開業した。
新しい神戸本店では従来から展開するベビー服や子供服の販売に加え、食や教育、リラクセーション、医療の施設も用意。子供と家族の可能性を広げる提案型空間にすることでブランド力を高め、海外進出にも弾みをつけたいという。年間来店客数は約40万人、年間売り上げ10億円を目指す。



赤ちゃんの人形を使って沐浴、体験コーナーが充実
ファミリア神戸本店は旧居留地にあるビルの1~2階で、延べ床面積は2131平方メートル。1階がカフェとスタジオ、クリニック、ライブラリー、2階は同社初のレストラン、リラクセーションサロン、スタジオ、託児ルーム、授乳室のほか、ベビー・子供服と出産準備品の売り場、食器や沐浴の体験コーナー、ものづくりに触れられるアトリエ、撮影スポットで構成されている。
ストアコンセプトは「COLORFUL 子どもの個性を豊かにはぐくむ。」。衣食住プラス医と学び、癒やしのコンテンツを集積し、出産前後のファミリーをターゲットに、ワンストップサービスを提供する。
従来の店舗と大きく違うのは、体感型サービスが充実している点だ。同社がショールーミングと呼ぶ体感型ショップは16年の代官山店を皮切りに、横浜元町と名古屋にも出店。神戸本店では、そのノウハウを結集した。
例えば、2階の沐浴コーナーでは赤ちゃんの人形を使って沐浴や肌着を着せる体験ができる。離乳食カウンターでは持参した離乳食をファミリアの食器を使って食べさせることができ、質感や使用感を体験。さらに、ファミリアのものづくりを体感できる初の常設コーナー「アトリエ」では、デザイナーとパタンナーの作業風景を間近で見学でき、端材の布を使ったワークショップも無料で受けられる。ほかにも、妊婦向けのマタニティーヨガやプレパパセミナー、ソーイングレッスン、出産後のベビーマッサージ、離乳食レッスン、パパママフォトレッスンといった有料イベントも用意されている。
こうした店づくりやものづくりの基本になっているのが、「for the first 1000days」のコンセプトだ。母親が妊娠してから子供が2歳の誕生日を迎えるまでの1000日間が子供のその後の人生に大きく影響するという考えで、キーワードは本物を体感すること。同社の岡崎忠彦社長は「『最初の1000日間』のサービス力とコンテンツ力で、世界のどの会社にも負けない企業を目指す」と意気込みを見せる。







ママが子供を預けてゆったり過ごせるスペースも
妊婦と3歳までの乳幼児を対象とした教室「ファミリア・キッズラボ」も開講。同社は15年、東京・白金台にプリスクールを開設して以降、保育事業に取り組んできた。現在、4つの保育園を運営するほか、横浜元町店と名古屋ラシック店にファミリア・キッズラボを展開している。プリスクールのスタッフによる有料託児ルームも用意。最大3時間まで預かってもらえるので、安心してゆっくり買い物を楽しめそうだ。
さらに、子供を預けている間、ママに自分の時間を過ごしてもらおうと、コミュニティースペースや癒やしの空間も用意。蔦屋書店が本をセレクトしたライブラリー(無料)では、コーヒーを飲みながら本を読んだりスマホを閲覧したりとゆったり過ごせる。産前産後に特化したリラクセーションサロン 「ピオニー」では、妊娠0週から利用可能なフェーシャルやフットトリートメント、妊娠16週からのボディートリートメントコースが用意されている。
ほかには、食育を取り入れた同社初のレストラン「カラーオブタイム」、子供や妊婦も安心して飲めるドリンクなどを提供するカフェ「ホワイトベアーカフェ」、小児科と皮膚科を備えた「ファミリアメディカル神戸クリニック」を併設。クリニックの診察室は、子供が怖がらないようにと、自宅のリビングのような内装に仕上げてあるのが印象的だ。









街のランドマークを目指す
店内に入って最初に目に飛び込んでくるのが、神戸本店のシンボルとも言える大階段だ。階段のあちこちに、寝転んだり、積み木で遊んだりする「ファミちゃん」(ファミリアのキャラクター)を配置し、子供の成長ステップを表現したという。店内のカフェで買ったドリンクを階段に座って飲むことも可能だ。
大階段の役割について、岡崎社長は店を半パブリックな場所にするためという。「大階段を設けることで外から入りやすくするだけでなく、店内の回遊性を高められる。通りを歩くいろんな人に立ち寄ってもらい、ここを起点に街の活性化につなげたい。将来的にはイベントも行い、新しいカルチャーを発信するメディアになれば」と話す。
長年親しまれてきた直営店を移転した理由について、岡崎社長は「楽天、ヤフー、アマゾンジャパンの国内ネット通販大手3社の売り上げが百貨店全体の売り上げを超える時代。マーケットが進化し、消費者の買い方も変わりつつある中、デジタルだけでなく、それ以上にアナログに力を入れないといけない。いろんなアイデアを実現し、発信していくための実験の場として、フラッグシップストアを作る必要があった」と話す。
ファミリアの創業は1950年。岡崎社長の祖母に当たる坂野惇子さんら4人のママたちが子供のために立ち上げたベンチャー企業だ。ただ、近年は子供服の老舗ブランドというイメージが定着し、新しいことにチャレンジしづらい企業体質に陥っていたという。
そこで2011年からは、ネットとリアルを融合したオムニチャネルサービスや体感型ショップ、海外事業、保育事業など新たな成長戦略に取り組んできた。その結果、オムニチャネル(ネット注文後の店頭受け取りと取り置き、ネット通販も含む)の比率が約12%に上昇。モノを売るだけでなく、体験を売る場、コミュニティーを作る場へと、リアル店舗の役割が変わりつつある。
16年にはNHKの朝ドラ(連続テレビ小説)「べっぴんさん」のモデル企業として注目を浴びた同社。創業の原点と思いを社員全員で共有できたことが、新本店プロジェクトへとつながったという。「当社は子供服メーカーから、子供の可能性をクリエイトする企業へと、時代の変化に合わせてアップデートしていこうとしている。そのために開発したさまざまなコンテンツとサービスを見て体験してほしい」と岡崎社長は力を込める。
岡崎社長はグラフィックデザイナー出身で、朝ドラのタイトルバックを手がけた清川あさみ氏ら多くのアーティストと親交がある。同店のデザインを監修した名和晃平氏も、世界から注目される彫刻家の一人だ。同社ではこれまでもさまざまなアーティストとコラボし、アート作品を発信してきた。「本物のアート作品に触れられるのも魅力。子供たちのための施設を作りたいという呼びかけに対し、多くのアーティストが応えてくれたから実現できた」と岡崎社長は振り返る。
ファミリア神戸本店はかつて百貨店の屋上にあった遊園地の存在に近い。デジタル時代に求められるリアル店舗のあるべき姿をさまざまな企業が模索する中、体感型サービスを結集した神戸本店の取り組みは注目に値する。


