パルコは、店舗内に設置したカメラで撮影した来店客の画像を分析してリピート客であるかどうかを判定するデータ分析を開始する。200台以上のカメラを導入済みの東京・上野の店舗で2018年10月からトライアルに着手する。顧客情報管理の精度を向上させ、テナントの売り上げ増を促進する狙いがある。

カメラ画像の解析により来場者の属性を把握できる(画像データは解析後に破棄している)
カメラ画像の解析により来場者の属性を把握できる(画像データは解析後に破棄している)

 2017年10月に開業した「PARCO_ya(パルコヤ)」で実施する。約60のテナントが入居しており、館内にはすでに合計で約230台のカメラを設置している。

 カメラは2種類あり、テナントへの来店者数を計測するための「カウントカメラ」と、顔認識により来店者属性(年齢・性別)を把握する「属性推定カメラ」だ。カウントカメラは各店舗の入り口数に応じて複数台、属性推定カメラは各店に1台ずつ設置している。

カウントカメラ(左)と属性推定カメラ
カウントカメラ(左)と属性推定カメラ
製品名はそれぞれ「Brickstream 3D」と「AXIS P5514 PTZネットワークカメラ」

 カメラで捉えられた画像は、AI(人工知能)ベンチャーで提携先のABEJA(東京・港)が開発したディープラーニングプラットフォームの「ABEJA Insight for Retail」で解析する。画像データは数値化し、各店舗では1時間後にその結果をWeb画面で確認することができる。

 個人情報保護法の観点から、映像データは解析後に削除し、数値データのみを保持する。これらの仕組みは、パルコヤの開業当初からテナント向けサービスとして無償で提供されているものだ。

 「各テナントでは、曜日や時間ごとの来店客数を正確に把握して店員の増減を考えることができるようになったほか、年齢層に合わせた品揃えができるようになり、カメラ画像による解析サービスはおおむね好評」(パルコ 都心型店舗グループ本部CRM担当部長の野中健次氏)だ。

カウントカメラによる分析結果
カウントカメラによる分析結果

顔画像の特徴を数値化し、リピート客を特定

 購入客の場合はPOS(販売時点情報管理)レジにより通過人数や属性(ハウスカードがある場合)は把握できるが、来店しても何も買わなかった客の行動や属性は目視でしか把握できない。この課題を解決する方法としてカメラ画像の解析サービスは定着し始めている。

 課題もあった。解析後に映像データを削除しているため、属性に関しては年齢・性別しか把握できず、特定の人物に着目してその行動を解析することはできなかった。

 これを解決できる機能が18年5月、ABEJAのサービスに搭載された。来店客の顔画像より特徴量を数値化(個人識別符号に変換)し、個人識別符号がマッチした人物をリピート客と判断する機能である。性別で約95%、年代は80~90%の精度で認識できているという。

 数値化後、画像データそのものは従来と同様に消去する。18年3月30日に経済産業省、総務省、IoT推進コンソーシアムが公表した「カメラ画像利活用ガイドブックver2.0」に盛り込まれた「リピート分析」の内容に対応したものだ。

CRMの精度向上を期待、アプリとも連係

 この定義に基づき、パルコとしては特定人物の特徴量データ(個人識別符号)を6カ月間保持して、その期間のリピート分析を行うことにした。

 まずは、単一店舗のパルコヤで18年10月からトライアルを始める。同一人物であるということが分かれば、実施したキャンペーンと結びつけて分析し、どれに反応して来店したかを把握でき、その顧客の嗜好性を把握できる。頻繁に来店しているけれども買っていないとか、しばらく来店していなかったが、この販促に反応して来店したといったことも分かる。こうしたリピート分析により、「CRM(顧客関係管理)の精度はこれまでに比べて格段に向上するだろう」(野中氏)と、期待は大きい。

顧客の来客状況を分析している画面
顧客の来客状況を分析している画面

 パルコは各テナントからの売り上げに応じて一定比率のテナント料を徴収している。そのため、カメラ画像による分析サービスにより各テナントの売り上げ増につなげることがパルコの増収に直結している。データ活用がマネタイズそのものだ。

 ゆくゆくはパルコの他の店舗での展開を想定している。多店舗展開する際にカギを握るのが、14年10月にサービスを始めたスマートフォンアプリ「POCKET PARCO」との連動だ。「15年3月から全店舗に展開しており。ダウンロード数は約90万」(パルコのグループICT戦略室高森敦史氏)。

 お得なクーポンが届くほか、買い物額に応じてコインがたまるだけでなくパルコ館内を歩き目標歩数に達するとコインを獲得できる。全国のパルコのショップから新商品情報や最新コーディネート情報も届く仕組みだ。ブログ機能や「いいね!」をこのアプリと連動することにより、リピート分析により特定した人物の行動特性や嗜好に合わせて、最適な情報を届けることを見据えている。イベント会場に顔パスで入場できるようにするといったアイデアも出ている。

 リピート分析との連係の具体的な手段については検討中だ。例えば、スマホアプリに顔写真を登録してもらい、顧客本人から許諾を得たうえで管理している個人識別符号とマッチングするといったことを考えているという。

 パルコでは米アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカー「Amazon Echo」を活用した顧客向けの案内サービスも18年4月から池袋パルコで開始しており、名古屋店にも展開している。対面による館内案内を代替するのが目的だ。家庭向け製品であるAmazon Echoを業務用途で使う取り組みは珍しい。AIをはじめとした新しいデジタル技術の特性を見極め、リアル店舗に積極的に取り入れていく考えだ。

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