大量の位置情報を提供することで、企業などのマーケティングを支援するクロスロケーションズ(東京・渋谷)が、企業のマーケターなどが自分自身で位置情報データを簡単に分析・活用できるソリューション「Location AI Platform」を、本日9月12日から、クラウド経由で、最低で月額10万円からという価格で提供し始めた。位置情報を使ったマーケティングを廉価で検討・実施したいと考えているマーケターには朗報だ。

 クロスロケーションズが「Location AI Platform」で提供するデータは、主にスマートフォン向けアプリから入手した国内約4000万MAU(月間アクティブユーザー)の位置情報データと、国内パートナー企業から入手あるいは購入した、UU(ユニークユーザー)換算で1000万弱の位置情報データなどを合わせたものだ。

 実はクロスロケーションズは、シンガポールに拠点を置き、位置情報を活用した広告配信事業を世界中で進めている企業であるNearの日本事業を、現在の経営陣や株主がNearと共に出資する形で昨年秋にスピンオフして設立したベンチャー。そのため、国内約4000万MAUデータの収集には、定評のあるNearの独自技術を応用している。スマホ利用者が規約に同意した広告配信先のアプリが、広告枠に広告の配信を要求する「ビッドリクエスト」というデータを利用し、位置情報やスマホ利用者の性別・年代、デバイスごとの広告IDといった情報を取得するというものだ。

 また、同社の株主でもある、位置情報に基づくターゲティング広告などを手掛けるアドインテ(京都市)や、O2O向けアプリの開発などを主に手掛けるアイリッジなどを国内パートナー企業と位置付け、そこからも位置情報データを得ている。

ユーザー企業の持つ会員情報などとひも付け可能

 位置情報やビッグデータの分析などについて専門知識がないマーケターでも、簡単にデータを分析して施策を立案できるように、データを生で提供するのではなく、あらかじめ機械学習の手法を使って複数のソースの位置情報データを統合加工し、使いやすくしてある。

 また、ユーザー企業が保有する位置情報データを、APIなどを経由する方法で「Location AI Platform」に取り込んで分析することができる。それだけではない。会員情報などユーザー企業の持つ顧客関連データなどを、「Location AI Platform」が抱える位置情報と関連付けて分析することもできる。後者の場合は、ユーザー企業の持つデータの形式などに合わせて、APIで接続したり、接続する仕組みを新たにつくったりして対応するという。

 マーケターは、自らのニーズに合わせて、「Location AI Platform」の管理画面を操作し、位置情報データの分析や、自社の顧客関連データとひも付けた分析の結果や、その結果を踏まえての「Location AI Platform」からの施策の提案を、画面上に表示できる。例えば「Location AI Platform」には位置情報に基づいて広告を配信する機能が付いており、分析結果に基づいてセグメントしたユーザーに対して、スマホ向け広告などの配信が提案される。もちろん、最初からマーケターが広告配信を考えており、そのための効果的なセグメントなどを分析するという使い方もできる。

 この施策の提案の際には、「Location AI Platform」が過去の施策をAI(人工知能)で分析し、マーケターの求める成果(KPI:重要業績評価指標)を上げるのにふさわしい施策を提案する仕組みだ。

潜在的な顧客が大勢いるエリアを抽出して表示も

東京・新宿の小売店について来店客の多いエリア、少ないエリアを図示
東京・新宿の小売店について来店客の多いエリア、少ないエリアを図示

 利用に当たっての具体的なイメージはこんな具合だ。例えば東京・新宿のある大型小売店について、一定期間に来店している客が、どのエリアから来ているかを、位置情報データを使って解析できる。上図の中、赤で示したエリアが来店客の多いエリア、青で示したエリアが来店客の少ないエリアだ。この結果に基づき、来店客が少なかったエリアという基準でセグメントしたユーザー層に広告を配信したり、逆に多かったエリアという基準でセグメントしたユーザー層に情報を配信してリピート来店を促したり、といった使い方ができる。

AIがエリアごとの潜在的な顧客数などを示すため、施策を検討しやすい
AIがエリアごとの潜在的な顧客数などを示すため、施策を検討しやすい

 また、小売店が持つ会員情報とひも付け、会員の居住地と購入頻度、購入金額と、位置情報が示す来店客の多寡を示すデータを掛け合わせて分析もできる。その結果、潜在的な顧客数や推定売り上げが多い割に、実際の来店客数や売り上げが少ないエリアの抽出が可能になったりする。この抽出結果に基づいたマーケティング施策を展開し、PDCAを回しながら施策を素早く改善していくこともできる。

中堅の小売業などを狙って販売する考え

 課題は、ベンチャーらしく、営業と顧客サポートが必ずしも十分ではないところだ。「Location AI Platform」は顧客企業に対して、それなりに説明が必要な、営業や顧客サポートに手がかかるソリューション。導入する顧客企業が増えれば増えるほど、“指南”役が必要になる。クロスロケーションズは、9月末にレンタルオフィスを出て自前のオフィスを構え、今後も人員採用を強化していく計画だが、導入を希望する顧客企業が想定以上に増えたとき、限られた人員で対応が追いつくかどうか。

 クロスロケーションズは、位置情報をビジネスに活用したいが自力ではデータ収集や活用が難しい中堅の小売業や、顧客の動向を分析したいメーカーなどを中心に、またかつてNearと取引のあった企業や現在の株主企業と取引のある企業を軸に、「Location AI Platform」を、最低で月額10万円から、という価格で販売していく考えだ。