先日開催された欧州最大の家電見本市「IFA2018」に、蔦屋家電エンタープライズで家電製品の調達を担う若きバイヤー、木崎大佑氏が参加。IoT家電の最新動向から、本格化し始めた働くロボット、スタートアップ各社による斬新なガジェットまで、IFAで見えてきた家電トレンドをバイヤー目線でレポートする。

欧州最大の家電見本市「IFA2018」の会場
欧州最大の家電見本市「IFA2018」の会場

 ドイツのベルリンで2018年8月31日~9月5日に開催された欧州最大の家電見本市「IFA2018」。これから訪れるクリスマス商戦を前に、世界中の有力メーカーが新製品を携えて参加する他、スタートアップ各社によるマニアックなガジェットも出そろい、最新の家電トレンドを把握できる展示会として知られている。

 この注目の展示会に毎年参加し、海外のデザイナーズ家電やキラリと光る先端製品をいち早く見いだして日本で紹介してきたのが、「二子玉川 蔦屋家電」の立ち上げに携わり、現在は蔦屋家電エンタープライズで家電製品の調達を担う木崎大佑氏だ。日経クロストレンドのアドバイザリーボードの一員でもある木崎氏が、IFA2018を訪れてバイヤー目線で見つけた「ヒットの芽」をリポートする。



蔦屋家電エンタープライズ 商品企画部 商品調達Unitの木崎大佑氏
蔦屋家電エンタープライズ 商品企画部 商品調達Unitの木崎大佑氏

「つながる家電」はもう珍しくない!

 最初にIFA2018全体の感想を述べさせてもらうと、昨年まではAmazon Alexa(アレクサ)やGoogleアシスタントといった音声AI搭載機器と各種家電が連係する「ホームネットワーク」が、もうすでに未来の提案ではなく、当たり前になっていました。もちろん個々の性能によってIoT化していないプロダクトも多数存在しますが、特にキッチンやリビング空間においてはごく自然にネットワークとプロダクトのつながりを表現していたのが印象的です。

 欧州では、LGエレクトロニクスやサムスン電子といったパワーのある企業の製品が、多くの家庭に受け入れられています。両社は白物家電のIoT化については、日本のメーカーよりもずいぶん前から積極的に提案し続けています。現にベルリン市内の家電量販店を視察すると、とても大きなブースで先進的なホームネットワークの提案を行っていました。実際の家電売り場に落ちている事実からも、IoT家電の分野は欧州ですでに導入期を越えて成長期に突入しており、消費者が自然に受け入れているという印象を持ちました。日本においてもスマートスピーカーの普及で徐々に認知は広がっていますが、対応する家電があまり増えていないため、同じレベルの意識に到達するまでにはまだ少し時間がかかりそうです。

独Boschが提案するスマートキッチン。冷蔵庫や調理家電などが「HomeConnectアプリ」と同期して、リモートで設定を制御できる世界を描く。欧州の食品配送サービスEismannや、レシピアプリのKitchen Storiesなどとのパートナーシップも訴求
独Boschが提案するスマートキッチン。冷蔵庫や調理家電などが「HomeConnectアプリ」と同期して、リモートで設定を制御できる世界を描く。欧州の食品配送サービスEismannや、レシピアプリのKitchen Storiesなどとのパートナーシップも訴求
サムスンの展示。冷蔵庫の中身もスマホでチェックできることをアピール
サムスンの展示。冷蔵庫の中身もスマホでチェックできることをアピール
ハイアールのブース。Googleアシスタントと連係して、各家電がネットワークにつなげられている
ハイアールのブース。Googleアシスタントと連係して、各家電がネットワークにつなげられている

ロボットが働く世界も当たり前に

 今年のIFAの展示の中でも、LGのブースはとても衝撃的でした。労働ロボットの具体的なプロダクトイメージを大々的に展開していたからです。この労働ロボットは工場で働くようなタイプではなく、ホテルのルームサービスを届けたり、荷物を運んだり、店舗のガイドをしてくれるものまでありました。また、人に装着することで重い荷物を運んだりできるパワードスーツも展示。来場者は皆、興味津々で写真撮影をしていました。

 一方で、現在これらのロボットが担う仕事に就いている人から見ると複雑です。人間の仕事の一部はロボットに置き換えられていくという現実を、こうやって具体的に目の当たりにすると、ワクワクするのと同じくらいにある種の気味の悪さも感じてしまいます。我々も今から「準備」をしておかないといけないのかもしれません。今年はLG以外にも、コンシューマー向けも含めてロボットの提案企業が確実に増えていました。きっと来年は、一家に一台ロボットがある時代を想定した提案が増えていくかもしれません。

LGが展示していたロボットシリーズ「CLOi」。左写真が各種サービスを担うロボット、右写真はパワードスーツ
LGが展示していたロボットシリーズ「CLOi」。左写真が各種サービスを担うロボット、右写真はパワードスーツ
米国のRoboteamが展示したロボット「temi」。音楽を流したり、写真撮影をしてくれたり、家庭教師もするなど、多彩なスキルが特徴
米国のRoboteamが展示したロボット「temi」。音楽を流したり、写真撮影をしてくれたり、家庭教師もするなど、多彩なスキルが特徴
中国のUBTECHが展示していた「Cruzr」。接客できるロボットとのこと
中国のUBTECHが展示していた「Cruzr」。接客できるロボットとのこと

スタートアップ発のキラ星製品も

 今年で第2回を迎える「IFA NEXT」は、主にスタートアップの商品を展示しているブースです。バイヤー心をくすぐられる面白い製品がたくさんあったので、その一部を紹介します。今後新たなトレンドを生みそうかどうか、私見ですがブレーク予測を5つ星で示してみました。

【次世代マスク R-PUR】
ブレーク予測 ★★★

 フランス発のバイクや自転車に乗る人向けのマスクです。0.04ミクロンの粒子まで捕集できる高いフィルター性能と防水機能が備わっているそうです。デザインもこなれていますし、日本は世界屈指のマスク多用文化を持つ国ですから、「Myマスク」としてはやるかもしれません。

【睡眠導入ロボット Somnox】
ブレーク予測 ★★★★

 抱きしめると「呼吸」をするオランダ発のロボット。動物の赤ちゃんを抱っこしている感覚に近くて、心地よかったです。抱きしめているうちに無意識に呼吸が整い、睡眠障害を解消してくれるとうたっています。その他、ユーザーが設定した音声やライトの点灯で、起床のサポートをしてくれる機能も。世界で2番目に睡眠時間が短いといわれている日本でも、睡眠の質の向上をテーマに「睡眠家電」という新たなカテゴリーが数年前から注目を集めています。Somnoxの価格は約700ユーロ(約9万円、1ユーロ=129円換算)と少々高額なものの、日本でも受け入れられる素地はありそうです。

【排せつ予測デバイス D-Free】
ブレーク予測 ★★★★★

 こちらは日本のスタートアップ発の製品。超音波センサーでぼうこうの大きさの変化を捉え、排尿タイミングを知らせるというものです。排せつ予測デバイスというと、一瞬「え?」と思うかもしれませんが、特に介護の現場では本当に重宝されるでしょう。日本は「老人の国」といわれるくらい高齢化が進んでいますから、介護については国民一人ひとりの問題。こういった商品にはとても注目しています。

 そして今年のIFA NEXTに参加して最も驚いたのが、アマゾン・ドット・コムのブースです。昨年に引き続きの出展ですが、明らかに提案性が上がって、規模が大きくなっていました。下の写真は、Alexa搭載の家電が展示されているブースを示すMAPです。すでに2万種類を超えるデバイスに搭載されていて、このMAPを見るだけでも家庭のIoT化はどんどん進んでいることが確認できます。

アマゾン・ドット・コムのブース
アマゾン・ドット・コムのブース
Alexa搭載製品を展示するパートナー企業のMAP
Alexa搭載製品を展示するパートナー企業のMAP

 最後に少し、電動モビリティを紹介したいと思います。皆さんはセグウェイと聞くと何となくイメージが浮かぶと思いますが、こんなラインアップがあることをご存じでしょうか。「Loomo」という新型モデルは、乗って移動できるだけではありません。乗っていない時には移動式ロボットとしてユーザーを認識しながら追従し、会話機能やカメラ機能なども搭載されているのです。

Segway Roboticsの新モデル「Loomo」
Segway Roboticsの新モデル「Loomo」

 一時期は日本でも大変話題になったセグウェイですが、法規制の問題で公道を走ることができず、コンシューマー向け市場への浸透がいまひとつ進みませんでした。一方、米国では、州によってですが一般道で使用できるなど、新しい技術を受け入れる器が大きい。ドローンにおいても同じような規制の理由で、日本のコンシューマー市場はなかなか盛り上がらないままです。こうなってくると国外のメーカーも日本での展開を積極的に行わず、流通を避けていくでしょう。欧米諸国と比較して、このままではどんどん“ガラパゴス化”してしまいます。日本のものづくりに元気がなくなったといわれる昨今ですが、今の常識を捨てて未来を受け入れてこそ、国内からも新しいイノベーションが生まれていくのではないか。そんな危機感を覚えた今年のIFAでもありました。

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