サントリー食品インターナショナルは2018年7月、自社商品専用のコーヒー豆焙煎工場「サントリーコーヒーロースタリー 海老名工場」(神奈川県海老名市)を稼働させた。02年3月に立ち上げた大山厚木工場(神奈川県厚木市)に次ぐ新工場で、一度に約300kgを焙煎できるイタリアの高機能焙煎機を日本で初めて導入。これまでの焙煎機では難しかった、熱風の量を自在にコントロールして焙煎温度を細かく制御できるのが特徴だ。
「これまで職人の勘に頼っていた焙煎を機械にも任せられるので、さらなる品質の向上が期待できる」とサントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部ブランド開発事業部の柳井慎一郎事業部長は話す。
焙煎はコーヒーの生豆に熱を加える工程で、豆の品種や焙煎によって全く異なる香味(香りや苦味、酸味など)が生まれる。大山厚木工場では作られた香味はおよそ10万通りだったが、海老名の新工場ではその3倍の30万通りの香味が作れるという。この焙煎機を2台設置することで、既存の大山厚木工場と合わせて年間1万7000トンのコーヒー豆を生産する。ショート缶(185g入り缶コーヒー)に換算すると17億本分だ。


クラフトボス好調も工場は「ショート缶向け」
新工場の投資額は約20億円。「飲料メーカーで自社焙煎工場を保有するのは珍しい」(サントリー広報)という。それほどの額を投じて生産を強化するほど、サントリーのコーヒー飲料は好調ということなのだろうか。
ここで思い浮かぶのが17年4月に発売したペットボトル入りのコーヒー「クラフトボス」だ。同商品はこれまでボスブランドが得意としてこなかった若年男性層と女性層の支持を集め、好調な売れ行きが続いている。18年6月に投入した新フレーバー「クラフトボス ブラウン」の勢いを受け、18年上期(1~6月)の販売数量は1200万ケースを突破した。リキャップできるという利点を生かし、「『ちびだら飲み』の需要をさらに獲得していく」と柳井部長は話し、年間2000万ケースの出荷を目指す方針だ。
だが、新工場はクラフトボスのために作られたわけではないという。柳井部長は「自社工場で焙煎した豆は、当面はショート缶用として利用する。ショート缶はトレンドではないが、いまだに市場の約6割を占めている」と話す。サードウェーブコーヒーの登場などでコーヒーが多様化する中、ショート缶もヘビーユーザーを意識しつつ、今の時代に寄せた味に変えなければユーザーとのずれが生じてしまうということだろう。
コーヒー飲料の市場は横ばいだが、サントリーはコーヒー飲料の新領域への参入と並行して、ショート缶ヘビーユーザーの維持に焦点を当て、リニューアルや新商品の投入を行ってきた(関連記事「缶コーヒー『BOSS』新シリーズ なぜ今ショート缶?」)。その結果、18年上期のBOSSシリーズの出荷数は前年比109%の5140万ケース。また、コンビニ、スーパーマーケットでの販売本数でも32%と競合を抑えてシェアトップに立つ。18年中にはBOSSシリーズとして初めて年間1億ケースの出荷を目指す。
大山厚木工場で焙煎できるのは年間およそ1万トン。また、現状では自社工場が稼働できなくなった際のリスクヘッジの目的もあり、焙煎専門業者に委託した豆を併用している。だが、より大量かつ安定的な生産ができる体制を必要とし、新たに立ち上げたのが海老名工場だった。
「自社工場」をブランド戦略に活用


ショート缶のターゲットは「働く男性」。ヘビーユーザーをキープし続けていても、長く飲み続けていた人が退職したり20~30代の新規ユーザーが入ってきたりと、少しずつ世代交代も起きている。単に生産量を増やすのではなく、ユーザーの嗜好の変化に合わせた多種多様な香味を用意できる工場が同社には必要だったのだろう。
さらに、サントリーが巧みなのは、その新工場をBOSSシリーズのブランド戦略としても活用している点だ。
18年9月4日に発売する「ボス THE CANCOFFEE(ザ・カンコーヒー)」は、海老名工場で焙煎した豆のみを使用しているのが売り。また、18年8月にはサントリーコーヒーロースタリーのロゴをパッケージ中央に大きく配置した「ボス サントリーコーヒーロースタリーズ」2商品も発売している。
生鮮食品と同様、RTD業界でも産地や品種、「ひきたて」「搾りたて」などの鮮度を売りにした商品が増えている。そのなかで、「工場」ブランドもポイントの一つになりそうだ。
「18年上期のショート缶の出荷数は前年比109%の5140万ケース」としておりましたが、正しくは「18年上期のBOSSシリーズの出荷数は前年比109%の5140万ケース」でしたので、修正いたしました。[2018/08/31 17:55]