次に注目されるテクノロジーは何だろうか、来年ヒットするサービスは何だろうか、どんなテーマでどう作れば売れる本になるだろうか。そんなことを繰り返し考えているうち、「大当たり」を引く人は何を考えているのか、何を見ているのかを知りたくなり、手掛けたのが、『エンジェル投資家』という本だ。

 次に注目されるテクノロジーは何だろうか、来年ヒットするサービスは何だろうか、どんなテーマでどう作れば売れる本になるだろうか。

 本の編集者である私は、いつもそんなことばかり考えている。しかし、いくら考えても、自信があっても、発行した本がさっぱり売れずに落ち込むこともある。そうかと思えば、期待以上にベストセラーになって調子に乗ることもある。そしてまた、落ち込む。

 ああ、どうすればベストセラーを自由自在に出せるのか。そんなことを繰り返し考えているうち、「大当たり」を引く人は何を考えているのか、何を見ているのかを知りたくなり、手掛けたのが、『エンジェル投資家』という本だ。

『エンジェル投資家』ジェイソン・カラカニス(著) 日経BP社 1944円(税込)
『エンジェル投資家』ジェイソン・カラカニス(著) 日経BP社 1944円(税込)

 エンジェル投資家とは、スタートアップのごく初期の段階に私費で出資する投資家のこと。シリコンバレーでは起業に成功して資産を築いて有望なスタートアップに投資する人から大富豪まで、エンジェル投資家と呼ばれる人たちがいる。少しずつ増えてきているものの、日本ではまだあまりなじみがない仕事だ。

 シリコンバレーの中でも、『エンジェル投資家』の著者、ジェイソン・カラカニスはめちゃくちゃすごいエンジェル投資家だ。ジェイソンの名前を有名にしたのは、配車サービス、ウーバーへの投資。企業価値が500万ドル(約5億円)だった創業直後に2万5000ドルを投資して全株式の0.5%を得た。現在のウーバーの企業価値は7兆円を超えており、0.5%は約400億円に相当する。ウーバーはまさに特大の大当たりだが、決してまぐれではない。何しろ、6年間でウーバーを含めて6社のユニコーン(10億ドル企業)に投資をし、1000万円を1000倍の100億円にした。

ツイッターにダメ出しして50億円の投資ミス

 こんなすごい人が自分の投資実績を踏まえて書いた本、日本語版を出したい!と意気込んだ。しかしここで、自分の中の慎重派な人がささやく。売れない理由がふつふつと思い浮かぶ。

「日本にエンジェル投資家って何人いるの?」= 市場が少ない
「シリコンバレーと日本で事情が違うことも多い」= ニーズが小さいかもしれない

 しかし読んでみると、身も蓋もないというか、率直すぎるというか、ジェイソン節が実に面白い。出だしから、「この本の目的はたったひとつ。現代の世界で大金を稼ぐ方法を伝授することだ」ときた。さらに、エアビーアンドビーやドロップボックスを輩出してシリコンバレーでその名をとどろかす起業家養成スクール、Yコンビネーターについては、「Yコンビネーターの創業者たちに会うと、その要求の尊大さと厚かましさに驚かされた」と切り捨てる。アップルについても、「スティーブ・ジョブズが亡くなったあとのアップル最高の作品が、新しい本社ビルでいいのだろうか?」と時価総額1兆ドルの企業にも容赦ない。

 それにジェイソンは、自慢もするが、失敗も隠さない。ツイッターの共同創業者から投資を求められたのに、断ったうえに説教までしたという。起業家としてブログの会社をつくり、売却したばかりだったジェイソンは、「ブログで大事なのは中身。ツイッターはタイトルだけ送っているようなもの。オレはツイッターのような意味不明なものには投資しない」と言い放った。これは5000万ドル(約50億円)の投資ミスだったという。

 そこでジェイソンが学んだのは、「どのプロダクトが成功しそうかなど、私には絶対に予測できない。だから私は、どの人間が成功しそうかを判断する努力をしなければならない」ということだった。そして、「人が重要なのではない。人がすべてなのだ」と断言する。

 そして創業者との会話を通して、10億ドル企業をつくる人なのか、妄想を抱いている人なのか、単なるウソつきなのかを見抜くすべを具体的に教えてくれる。これはエンジェル投資家にならなくとも、ビジネスの相手を選ぶ際にも非常に参考になるはずだ。

金のために働く連中は、稼げる方法が見つかるとやめてしまう

 では本書から、ジェイソンが創業者に投資するか見送るか、判断する際に創業者に必ず聞く4つの質問を紹介しよう。

(1)あなたは今、どんな仕事をしていますか?
(2)あなたはなぜこれをやっているのですか?
(3)なぜ今なのですか?
(4)あなたの不当なまでの優位性は何か?

 この中でも特に重要なのは、(2)だろう。創業者が事業を選んだ理由のうち、「お金もうけのため」と「(成功している会社の名前を挿入)がまだやっていないから」が最悪な答えだとジェイソンは言う。なぜなら、「金のためにスタートアップを始めた連中は、将来もっと早く確実に稼ぐ方法が見つかるとやめてしまう」からだ。スタートアップには困難がつきもの。金のためだけに取り組んでいたら、途中で放り投げてしまう。また、成功した会社がいずれ手を出す事業だというだけで始める大きな問題は、「ビジョンがないこと」と断言する。どちらからも、事業や会社ではなく、人を見ていることが分かる。

人が重要なのではない、人がすべてなのだ

 そして勝手な毒舌ばかり言っているようで、憎めない人のいいジェイソンの人柄が伝わってくるのも本書の魅力の一つだ。ジェイソンは、リスクをとって挑戦している創業者たちを応援している。それを実感したのが、ジェイソンにアドバイスを受けたり、投資を受けたりした日本人の創業者が、本書の発行に当たって積極的にプロモーションをサポートしてくれたときだ。著者が自分の本を宣伝するならともかく第三者がこれほど手伝ってくれることはほとんどない。おかげで、当初の私の心配をよそに、本書は順調に増刷を重ねている。

 本書の販促に協力してくれている創業者にその理由を聞くと、「ジェイソンには非常にお世話になったから、彼の本が売れるなら何でも協力したい」と言う。忙しいスタートアップの創業者をそこまで動かすジェイソンの人柄があってこそ、投資が成功しているのだと実感した。そう、「人がすべてなのだ」。