ソフトバンクの傘下にある半導体設計大手の英アームは、IoTに取り組む企業向けに、新たなIoT基盤サービスを8月22日から国内を開始したと発表した。既存のソリューションに、8月に約6億ドル(約666億円)で買収したばかりの米トレジャーデータのデータ管理機能を統合した。これにより新サービスは、一つのソリューションで、各種デバイスや端末をさまざまなネットワークで安定的につなぎ、それらのデバイスや端末を制御しながら、デバイスや端末から収集したデータを統合的に管理・分析できる。今後はIoT経由で収集するデータをビジネスに生かせるかが、企業の成長を左右する。アームが提供する新サービスを導入すれば、企業は家電、自動車、住宅など自身がユーザーに提供する各種デバイスから、IoT経由でさまざまなデータを収集・分析し、いち早くビジネスに生かすことができる。

 約240億ポンド(約3兆3000億円)という巨額を投じてソフトバンクが買収した半導体設計大手の英アーム。スマートフォンや家電などのデジタル機器を動かす心臓に当たるMPU(超小型演算処理装置)の設計最大手で、同社設計の半導体の出荷数は累計1000億個以上に達する。そんな同社は3~4年前から、自社半導体を搭載したデバイスだけでなく、すべてのデバイスや端末を含めたIoTビジネスにも取り組み始めている。

 今回、IoTに取り組む企業向けに提供する新たなIoT基盤サービスの名称は「アーム・ペリオンIoTプラットフォーム」。日本人が米国で創業し、日々50兆のデータを処理するなど世界有数の大規模データ管理技術を持つベンチャーであるトレジャーデータを買収。そのデータ管理機能を、それまでアームが提供してきたソリューションに組み込み、新たにプラットフォームとして提供した。デバイス制御に長けたアームと、データの管理・分析に秀でたトレジャーデータの組み合わせで競合他社との差異化を図り、親会社であるソフトバンクの力も借りて、IoTビジネスに力を入れる日本企業に向けて、普及を図る。

 アーム Iotサービスグループ プレジデントのディペッシュ・パテル氏と、トレジャーデータ創業者兼CEO(最高経営責任者)で現在、アーム IoTサービスグループのデータビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーを務める芳川裕誠氏、トレジャーデータCTO(最高技術責任者)で現在、アーム IoTサービスグループ テクノロジー担当バイスプレジデントを務める太田一樹氏に、今回のIoT基盤サービス提供の狙いやその強み、トレジャーデータの果たす役割などについて聞いた。

──今回、アーム・ペリオンIoTプラットフォームを提供し始める狙いは何か。

ディペッシュ・パテル氏(以下、パテル) ペリオンが最終的に目指すところは、IoTビジネスに関わるインサイトをいかに早く顧客の元に届けるか、だ。IoTビジネスに取り組もうとする企業の多くが今、これを実現しようとすると、2つの問題点に直面する。1つは、企業自らが多くのデバイスをネットワークに接続して制御し、管理するのには、時間がかかり過ぎること。もう1つは、ネットワークに接続されたデバイスからデータを集めた後、それを使いこなす体制が整っていないことだ。

アーム Iotサービスグループ プレジデントのディペッシュ・パテル氏
アーム Iotサービスグループ プレジデントのディペッシュ・パテル氏

 アームの既存のIoTソリューションで、既に最初の問題点は解決していた。今回、トレジャーデータの持つ機能を組み込むことで、後者の課題も同じソリューションの中でクリアできるようになる。デバイスや端末から生じる膨大なデータを収集・分析してIoTビジネスを進めたい企業は、アーム・ペリオンIoTプラットフォームを導入すれば、自前で膨大な開発費を投じなくても競合他社に対して優位が築けるようになる。

──ペリオンと類似のソリューションは既にいくつかある。競合相手に対してのペリオンの強みはどこか。

パテル 確かに類似のソリューションはいくつか市場に出回っているが、ペリオンの強みは2つあると思っている。1つは、扱えるデバイスの種類が多いことだ。競合するソリューションは大抵、特定のデバイスしか扱えず、そこから生じるデータしか収集できない。ペリオンは、アームの技術などを使って、あらゆるデバイスや端末をカバーすることを念頭に設計しているため、さまざまなデバイスや端末からのデータを収集・分析したい企業にとっては使いやすいはずだ。

アームは顧客の声に耳を傾け、開発を進める

 もう1つは、ペリオンという1つのソリューションで、多くのデバイスをネットワークし、制御し、データを収集・管理できるところだ。もちろん中に含まれるコンポーネントは、トレジャーデータの機能を取り込んだように出自が違うものもある。しかし、顧客からの声を反映させたロードマップを作成し、1つのソリューションとして摺り合わせながら開発を進めていくほうが、別々のソリューションとして開発を進め、現場でつなぎ合わせて使うよりも、使いやすいはず。そこが顧客企業から見た場合のペリオンの強みになる。

 何より、アームは大前提として、顧客オリエンテッドで、ペリオンをはじめとするソリューションの開発を進めている。顧客企業は、何か疑問があればアームに聞きに来てほしい。私たちも多くの顧客の声を聞くように努めている。

──データを管理し、使いこなすための機能の担い手としてトレジャーデータを選んだ理由は何か。

パテル 彼らの持つソリューションが、私たちの構想するIoTプラットフォームにとってベストだと確信できたことはもちろん、「世界一のデータ管理プラットフォームを作りたい」といった彼らの掲げるビジョンも、アームの気風と合致したからだ。

トレジャーデータ創業者兼CEO(最高経営責任者)で現在、アーム IoTサービスグループのデータビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーを務める芳川裕誠氏
トレジャーデータ創業者兼CEO(最高経営責任者)で現在、アーム IoTサービスグループのデータビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーを務める芳川裕誠氏

──トレジャーデータがアームの傘下に入る道を選んだ理由は何か。

芳川裕誠氏(以下、芳川) 私たちが創業した2011年は、世の中でビッグデータがもてはやされ始めていた頃だ。そのときに扱われていた主なデータはWebのデータやモバイルのデータであり、そこに焦点を当てた結果、私たちが今、顧客に提供している主なソリューションは、企業がデジタルマーケティングや顧客理解を進めるために、ユーザー一人ひとりのパーソナライズを可能とするCDP(Customer Data Platform、カスタマー・データ・プラットフォーム)になっている。

トレジャーデータのデータ基盤の領域を拡大する

 しかし、実は私たちが作っているデータ基盤は他の領域にも広げられるし、次にビジネスで必要とされるデータは何かと考えたら、それはデバイスから生じるデータになる。ならばDDP(Device Data Platform、デバイス・データ・プラットフォーム)を自分たちでつくり、CDPと連携させればよい。データの種類や量が増え、掛け合わせのパターンが増えるほどにデータの持つ価値は上がっていく。そう考えると、データの管理・分析に長けたトレジャーデータにとって、ネットワークの接続やデバイスの制御に長け、デバイスからのデータを収集しやすい立場にいるアームは、大きな相乗効果が見込める良い相手だと考えた。

 トレジャーデータとしては、これまでのCDPを軸としたビジネスは今後も続けると、既存の顧客と約束している。それを続けながら、アームと一緒になって、新たな領域に挑戦するというイメージだ。CDPを導入している企業がデバイスから生じるデータも統合してビジネスを進めたいと考えたら、ペリオンを薦めることになる。

──デバイスや端末から生じるデータは、Webデータやモバイルデータに比べて、量が膨大なうえにさまざまな種類やパターンがあり、これらを統合して管理するDDPをつくってペリオンに組み込んでいくのは、難易度が高いのではないか。

トレジャーデータCTO(最高技術責任者)で現在、アーム IoTサービスグループ テクノロジー担当バイスプレジデントを務める太田一樹氏
トレジャーデータCTO(最高技術責任者)で現在、アーム IoTサービスグループ テクノロジー担当バイスプレジデントを務める太田一樹氏

太田一樹氏(以下、太田) そこは技術的な挑戦になる。確かに課題は多い。大量のデータが1度に来たらどうするか、セキュリティーをどうするか、データプライバシーをどう保護するか、今はバッチ処理をすることが多いが、どのようにリアルタイムで判断し、学び、フィードバックするか……。加えて、サードパーティーのソリューションがその上に乗って顧客ができるように、プラットフォーム化することも重要になる。だが、顧客の声を聞きながら開発を進めていくことで、課題はクリアできると考えている。

──企業がペリオンをうまく活用する際のイメージを教えてほしい。例えば自動車メーカーなどは使いやすいと思うのだが……。

パテル その通りだ。これまで販売会社ごとにバラバラに管理していた顧客データを、メーカーがトレジャーデータのCDPを使って一元管理するようにしたとしよう。そのうえでペリオンを導入すれば、クルマに設置された各種センサーなどのデバイスからさまざまなデータを収集できる。分析すればドライバーの運転テクニックや運転する頻度、運転する平均的な距離なども分かる。これらのデータをCDPと連携させれば、自動車メーカーは顧客一人ひとりについて、今以上に詳細な情報を得られるし、それらを商品開発やアフターサービスの強化などに活用できるわけだ。それにCDPと連携して個人を特定しなくても、ペリオンを使えば新しいビジネスへの取り組みができるはずだ。運転技術の高低を考慮して保険料を定めるテレマティクス保険などが、その好例の一つになるだろう。

IoTは新しいビジネスを生み出す素地になる

芳川 今後、IoTは多くの企業にとって、新しいビジネスを生み出す素地になる。私たちはペリオンを使って、意欲的な顧客企業に貢献していきたい。具体的には、ペリオンを通じて顧客企業に多くの新しい技術や機能、データなどを示し、顧客企業がそこから気づきを得て、新しいビジネスが生まれるという形をつくっていきたい。そのためには、短期の収益に目を奪われず、顧客企業と一緒に長い目でIoTビジネスの発展に取り組みことが必要になる。アームがそういう度量を持った企業だと判断したことも、アームと一体化する道を選んだ理由の一つだ。

パテル アームとしては、IoTビジネスについては長い目で取り組む。孫(正義)さんが「35年に1兆を超えるIoTデバイスからデータが集まり、人類の進化を加速する」と言っているが、そのくらい先を見据えての取り組みになる。

芳川 ただし、目の前のペリオンの営業は頑張る。冒頭でパテルが話した通り、まずは多くの顧客からIoTビジネスについてさまざまな声を聞き、その声に耳を傾けてソリューションをつくっていきたいからだ。その姿勢はアームだけでなく、トレジャーデータのDNAでもある。

太田 アームの親会社であるソフトバンクの宮内(謙)さんが、ソフトバンク自身が年間1000打席立つ、IoTビジネスに関わる多くの企業と接する、そう表明してくれた。これでトレジャーデータが単独で営業をするよりも、はるかに多くの顧客と接する機会を得られる。アームが既に提供している、各種デバイスや端末をさまざまなネットワークで安定的につなぐソリューションを採用している顧客企業も500社以上あり、ここからもデータ管理やデバイスの管理などについていろいろな声が聞ける。

 このように多くの顧客と接することができることも、トレジャーデータがアームと一緒になったメリットの一つだ。もちろん私自身も顧客の元に頻繁に足を運ぶようにしている。CTOという立場の割には、オフィスにいる機会は極めて少ない(笑)。そうしてペリオンをより使いやすいソリューションにして、日本国内で、IoTビジネスによって成功する顧客企業を、早く誕生させていきたい。

(写真/新関雅士)

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