米国の公衆トイレのデザインが変化している。ジェンダー(性差)やダイバーシティー(多様性)に対応しているためだ。空港やイベント会場などの公衆トイレを見ると、男女共用の個室トイレが特別に設けられていたり、男女共用のトイレしかないといったりすることが多い。
こうしたトイレのほとんどは個室で、洗面台がある共用空間に個室のドアが並んでいる。中には便器と洗面台がセットになっているケースもある。公衆トイレのイメージと言えば、男女別に分かれ、女性の場合は会話や化粧、歯磨き、着替えるための空間にもなっていた。同性ならではの気楽な「場」だったが、今や公衆トイレは公共空間の延長にある。特に米国では、LGBT(性的少数者)の人々への社会的認知が広まる一方で、公衆トイレの問題が取り沙汰されてきた。
実際、性転換した女性がデパートで女性トイレへ入室しようとしてトラブルとなったり、男性に同一化している高校生が学校で男性トイレを利用しようとして父兄を巻き込んだ争いが起こったりしている。公衆トイレの問題には、LGBTに理解のある民主党と、そうでない共和党との政治対立も投影されているようだ。
2016年5月には、「その人自身が同一性を感じる性別のトイレ利用を許すべき」という判断が米司法省から下されたが、それがトランプ政権下で無効にされた。この問題では連邦政府、州、市民権活動組織が火花を散らしている。
新しい公衆トイレのデザインは、その解決策の一つと言えるだろう。進歩的な大学では、10年以上前から寮や校舎に男女共用のトイレやバスルームを設けてきた。今後は特別な公衆トイレを一部に作るのではなく、公衆トイレ全体が共用になる傾向が強まるだろう。
そうなると公衆トイレのマークも、時代の変化に対応せざるを得ない。既に「ジェンダー・ニュートラル」「オール・ジェンダー」などと書かれた公衆トイレでは、ピクトグラムにも工夫が凝らされている。公衆トイレという空間自体が、今後はオープンでありながらプライベートでもあるという、難しいバランスを表現する場として設計されるだろう。デザインにとっては大きなチャレンジだ。