「チームラボ 学ぶ!未来の遊園地」(以下、未来の遊園地)は、2018年8月、全世界の入場者数が700万人を突破した。この展示は、チームラボが「共創(共同的な創造性)」を育むことを目的に展開しているもの。13年、沖縄のデパートリウボウで開催されて以来、160カ所以上で展示してきた。日本国内にとどまらず、オーストラリア、ハンガリー、南アフリカまで巡回している。
未来の遊園地は近年「ららぽーと富士見」や「キャナルシティ博多」、シンガポールの「マリーナベイ・サンズ」、そして今年6月にオープンした「エプソン チームラボ ボーダレス」などに常設会場が作られ、その勢いは止まらない。未来の遊園地が世界中から誘致され、人気を博す理由はどこにあるのか。
今回、話を聞いたのは、チームラボキッズの代表であり、未来の遊園地を中心に、全世界での興行を担当している松本明耐氏。松本氏は、「まず一番大きいのは、展示物がデジタルであること」と言う。「通常の物を並べる展示は1カ所でしか見せられないけれど、デジタルの強みは、世界中で展示ができること。未来の遊園地のテーマは『共創』だから、なるべく多くの人に体験してもらいたい。教育熱心な家の子供だけが見られるのではなく、世界中のあらゆる人に届けたいと思ったのがきっかけ」(松本氏)。
パッケージ化し、機材はすべて自前
大都市のみならず、地方会場で開催できる大きな理由の一つは、展示をスムーズにするための、綿密な設計にある。まず、チームラボは未来の遊園地をパッケージ化している。作品構成、展示にかかる費用、広報素材などをあらかじめまとめており、場所さえ決まれば、最短3カ月で展示が可能だという。誘致する側としても、予算感や展示内容などの概要が見えているため、取り入れやすい。
さらに、必要な機材はすべてチームラボ側が施設に貸し出す。デジタルアートの展示の場合、大量のプロジェクターやモニターなどが必要になるが、美術館や商業施設側が、一つの展示のためにそれらすべてを購入するのは難しい。そこで、チームラボは自社倉庫で機材を保管・管理し、展示の際には必要な分をレンタルする。設営も社内の担当者が現地に赴いて調整するため、誘致する側の負担が少ないのだ。
全国各地のパートナーと協業
そして最も重要なのが、現地の「パートナー」だ。全国各地の企業とパートナー関係を構築し、協業して展示を開催している。各地の会場探しや広報、人員の確保は、現地に詳しいパートナーが担当し、作品制作や設営はチームラボが担う、という役割分担ができている。「パートナーとの関係性は、非常に重要。チームラボの作品を好きでいてくれて、新しい教育事業を一緒に作りたいと考えてくれる人たちと取り組みたいので、実際に現地に行って、話して、関係を作る。コンテンツだけでなく、パートナーと一緒に取り組む部分も大事にしている」と松本氏は言う。日本の多くの美術展が同じ方式で巡回展を行っているが、出展者自らがこの枠組みを設計できるのも、チームラボの強みだろう。
そもそもデジタルアートは、多くの美術館にとっては、まだまだ手を出しにくい分野でもある。「デジタルアートは、絵画などとはまったく展示方法が違う。美術館の学芸員の方々も、まだどのように対応したらいいか分からない場合も多い。電気工事が通常の展示よりめちゃくちゃ多いし、そもそも会場は真っ暗だし(笑)。作品は空間そのものだから、会場内のレイアウトまで考える。僕らがきちんと干渉しないと、前に進まない。だからプロデュースまでしっかり絡んでいく」と、松本氏は話す。
多くの美術展、特に現代アートの展示は、東京と大阪を中心とした大都市で開催され、地方巡回するものは少ない。「地方も、良い現代アートの展示を求めている。もっと色々な展示が、各地でできるようになったらいいと思う。僕らは、自分の子供の未来がこうなったらいいな、ということをずっとやってきた。今後も新しい業態を含めて、進めていく」と松本氏は話してくれた。