業績不振のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を劇的なV字回復に導いた、戦略家・マーケターの森岡毅氏の新たな挑戦の一つが明らかになった。舞台は、沖縄本島北部で計画が進む新テーマパーク。同氏が率いるマーケティング精鋭集団「刀」は、沖縄県内の有力企業3社(オリオンビール、ゆがふホールディングス、リウボウ)と協力し、新テーマパーク構想を実現するための準備会社の設立へ向けて動き出した。「沖縄には、観光においてハワイを超えるポテンシャルがあり、この地は近い将来必ず日本の宝になる」と意気込む森岡氏。なぜ、沖縄に可能性を見いだしたのか。同氏が日経クロストレンドの単独インタビューに答えた。

刀 代表取締役CEO 森岡 毅氏
刀 代表取締役CEO 森岡 毅氏
1972年生まれ。96年P&G入社。ブランドマネージャーとして日本ヴィダルサスーンの黄金期を築いた後、2004年P&G世界本社(米国シンシナティ)へ転籍、北米パンテーンのブランドマネージャー、ヘアケアカテゴリー アソシエイトマーケティングディレクター、ウエラジャパン副代表を経て、2010年にUSJ入社。12年、同社CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、執行役員、マーケティング本部長。USJ再建の使命完了後の17年、マーケティング精鋭集団「株式会社 刀」を設立。近著に『マーケティングとは「組織革命」である。』(日経BP社)がある

──沖縄のテーマパーク開発は、USJ時代にも構想がありました。今回は2度目の挑戦になりますね。

森岡毅氏(以下、森岡) 私は2010年からUSJの改革に取り組み、最終的にUSJをアジア最大のエンターテインメント・カンパニーにすることを目指していました。

 これを、どうすれば実現できるのだろうか。例えば、ディズニーリゾートは2つのテーマパークで年間3000万人以上を集客していますが、私が入社した当時のUSJは来場者数が年間730万人と伸び悩んでいました。今では、USJはたった1つのパークで1500万人の水準まで大きく躍進しているものの、そもそも関東エリアは関西の3倍の商圏人口を抱えているので、USJ単体ではオリエンタルランドを抜くことは難しい。つまり、アジアのナンバーワンになるためには、いずれ他の拠点が必要になることは自明だったわけです。

 他拠点にテーマパークを建設するためには、資金力が必要です。私は、「3段ロケット構想」と呼ぶ大戦略を立案し、1段目は長年の弱みであったファミリー層の集客を強みに変えるため、ファミリー向けキャラクターを集結した「ユニバーサル・ワンダーランド」を12年に開業。そして2段目は関西に7割も依存していた集客体質から一気に脱却するために、「ハリー・ポッター」の一大エリアを14年にオープンしました。こうしてトップラインを大きく伸ばしてキャッシュを稼ぎながら、ロケットの3段目である「パーク経営ノウハウの他拠点への水平展開」につなげる計画でした。

 そして、どの拠点に展開するかを考えたとき、新パークの成功確率が最も高いのは沖縄だという結論を出しました。この理由は、後ほど詳しく述べます。

──しかし、最終決定の一歩手前で突然USJの株主陣が変わってしまいました。

森岡 そうです。この構想自体は、国と沖縄県の両方の強い力添えがあり、最終決定の一歩手前までこぎ着けていました。しかし、調印の直前に予期せぬ出来事が起こったのです。USJの株主資本の51%が、ゴールドマン・サックスを中心とする旧株主から、米国メディア大手のコムキャストに売却されました。

 そして、新たなマジョリティを握ったコムキャストは、結果的に「世界戦略として考えると、沖縄進出は決してベストな選択ではない」と判断しました。すでにユニバーサル・パークは大阪、シンガポール、北京(建設中)に展開しています。地理的な中間地点にある沖縄で、しかも別ブランドのパークを独自開発で造ることは、コムキャストの世界視点で見れば効率的に思えない。USJにとってベストな戦略も、ユニバーサル全体で見れば必ずしもベストとは言えないということです。

 私自身、新経営陣に理解してもらえるように精一杯粘りましたが、力が及びませんでした。このコムキャストの決断は個人的には非常に残念でしたが、私のプロとしての理性では、1つの判断として冷静に受け止めています。

 しかし、私は一企業の戦略のためにというより、「日本の将来のためにこそ沖縄の観光地化を早く推進すべき」という強い想いを持ち続けています。V字回復を果たしてUSJでの使命を完了し、17年にマーケティング精鋭集団の「刀」を設立した後も、同じです。そんな中で新たな枠組みの沖縄パーク構想に関わる機会を得て、もう一度挑戦させてもらうことを決めました。

──そもそも、なぜ沖縄なのでしょうか。

森岡 端的に言うと、日本の観光業において最も大きな伸びしろを持つエリアだからです。

 例えば、今やハワイは世界を代表する観光地であり、開発によって坪単価が最も飛躍した土地の一つです。しかし、ハワイは最初から観光地として集客できる場所だったわけではありません。1960年代、米国が観光産業を伸ばすために、莫大な投資を呼び込んで戦略的に開発してきたからこそ、世界有数のリゾート地に発展したわけです。

 つまり、最初にハワイのポテンシャルを見抜いた人たちが、観光インフラが何もないところに勇気を持って資本と知恵を投じ、現在のハワイに変えたのです。この変化の源には、「人の意志」がありました。

 そして沖縄には、ハワイを超えるポテンシャルがあります。その理由の1つは、巨大なマーケットです。実は3時間を超えると、人間は移動するのが心理的に大きな負担になります。沖縄を中心に飛行機での移動3時間圏内の円を描くと、その内側には東京はもとより上海や香港、ソウル、台北、東南アジア各国まで、2億6000万人の巨大商圏が存在します。しかも、その中の富裕層の数は、日本にいる富裕層よりもはるかに多い。この地理的メリットを考えると、ハワイよりも沖縄に人を呼び込むことの方が、明らかに簡単です。ハワイの周りの3時間圏内には、巨大人口圏がありませんから。

 USJ時代に沖縄パーク構想を発表した際、あるメディアに「沖縄県の人口は約140万人しかいないのに、テーマパークを造ると採算が合わないのでは」と指摘されたことがありました。これは、あまりにも不勉強な話です。私が見ているのは、県内の140万人だけではありません。3時間圏内に広がる2億6000万人のマーケットなのです。

沖縄のビーチは世界に誇れる美しさ(写真/Shutterstock)
沖縄のビーチは世界に誇れる美しさ(写真/Shutterstock)

──地理的メリット以外で、沖縄がハワイに“勝てる”要素は何でしょうか。

森岡 沖縄が持つポテンシャルの2つ目は、観光資源です。沖縄にはハワイよりも美しい海がある。大自然、空、風、文化……、それらが相まって、何とも心地いい独特の時間の流れがあります。観光資源としての奥行きの深さは計り知れません。この沖縄が、奇跡的にアジアの中心に位置しているわけです。

 そして3つ目は、「Japanブランド」との相乗効果が挙げられます。極めて清潔で、治安も良好。これらの要素は、観光客を呼び込むために重要な要素です。比較的ハワイも治安は安定していますが、日本はそれ以上です。

 こうした多くの利点があるにもかかわらず、なぜ、沖縄はハワイよりも稼げないのか。それは、米国には優れた「戦略」があったのに対し、日本にはほとんどないからです。だから、沖縄の観光開発には一刻も早く着手しなければなりません。

 日本がこれまでのように製造業に大きく依存して稼いでいく時代は、いつまでも続くわけではありません。急激な人口減少社会の到来が“確定”している中では、外貨を獲得する一つの手段として、観光を大きな産業の柱として育てていく必要があります。そう考えたとき、私が日本の中で最も成長確率が高い観光地だと見ているのが、沖縄なのです。

──すでに2017年度の沖縄県の入域観光客数は約958万人と過去最高を更新し、初めてハワイを上回っています。

森岡 今から6~7年前になりますが、USJで沖縄パーク構想を立案した際、私は多くの人に「2020年を待たずして、沖縄の観光客数はハワイを超える」と主張していました。しかし、当時はほとんど誰も信じてくれませんでした。

 でも、この話は現実となりました。私に先見の明があったわけではなく、数学で需要予測をすると、自然にそうなることが分かるのです。

 人が移動をする上で大きく抵抗感を生じる境界線は、先ほども述べた「3時間」です。移動時間が3時間以内であれば、「日帰り圏内」でもあり、多くの人はそれほど抵抗なく移動します。その3時間圏内の人口が2億6000万人に達すると、沖縄への観光客数がハワイを超えるのは必然です。しかも、アジアは今、高度経済成長期に入っていますから、これから富裕層の数も爆発的に増えていくでしょう。沖縄はアジアの中で最もブランド力のあるプレミアム観光地、「アジアのハワイ」に早く生まれ変わるべきなのです。

──アジアの人口が爆発的に増えて、経済的にも潤っている。それに比例して、沖縄への観光客数も順調に増えていると。

森岡 その通りです。しかし私は、それにとどまらず、沖縄に対するプレファレンス(消費者のブランドへの好意度)そのものを伸ばしていきたいと考えています。

 例えば10人のうち1人が沖縄に行きたいと思っているとします。この分母が100人になれば、単純に行きたい人は10人に増えるでしょう。現状の沖縄は、そういう成長です。この時に私は、100人中20人が沖縄に行きたいと思うようにしたいのです。消費者の頭の中で選ばれる確率を上げていくということです。

 そのためには何が必要か。それは、「コンテンツの充実」です。私が、なぜ今回の新パーク構想で、沖縄の中でも本島の「北部」に注目しているかという理由も、そこにあります。本島北部には、年間約378万人(17年度)もの人が訪れる「沖縄美ら海水族館」(本部町)をはじめ、美しい海や、ヤンバルクイナなど希少生物の宝庫である「やんばるの森」(国頭村など)といった大自然が広がっています。

 もし、本島北部にもう1つ強力な観光スポットを造れれば、沖縄を訪れた人の滞在日数を1日以上延ばすことも可能です。それによって現地での消費額も増加します。沖縄の観光客数が初めてハワイを超えたといっても、平均滞在日数で見るとハワイが8.95日(17年度)なのに対し、沖縄は半分以下にとどまっています。ここを改善することが、まさに沖縄観光のカギであり、私が関わる沖縄北部パーク構想の狙いなのです。

※後編「沖縄の大自然で興奮体験! USJ再建・森岡氏の新パーク戦略」に続く。

書籍紹介
『マーケティングとは「組織革命」である。』
(日経BP社)

最強マーケター・森岡毅氏が旅立った後も、なぜUSJは絶好調なのか? その裏には、マーケティング・ノウハウだけではなく、それを実行し、持続成長できる組織に変革する「森岡メソッド」があった。本書では、17年にマーケティング精鋭集団の「株式会社 刀」を立ち上げた森岡氏が実戦で培ってきた、ビジネスで成功するために最も重要な「ヒトと組織」の本質と、一人のサラリーマンでも「組織」を動かす起点になるための秘訣を初めて明かす。

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(写真/大髙 和康)

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