2018年6月8日~10日、米アドビ システムズはサンフランシスコ市内のギャラリーを借り切り、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)をテーマにしたユニークなイベント「Festival of the Impossible」を開催した。16人のアーティストやデザイナーがAR/VR作品を披露し、今までにないクリエイティビティーに富んだ出展が目立った。仮想空間のゲームや体験といった一般的な作品とは異なり、表現手法が大きく広がることで、AR/VRのさらなる可能性を感じさせた。

米サンフランシスコのギャラリー「ミネソタ・ストリート・プロジェクト」で開催された「Festival of the Impossible」での作品
米サンフランシスコのギャラリー「ミネソタ・ストリート・プロジェクト」で開催された「Festival of the Impossible」での作品
マイクに向かって叫ぶと出てくるバーチャルな文字を、ぶら下がった靴に当てるもので、ニール・メンドーサ氏が手掛けた

 アドビは6月4日、アップルの開発者向け会議「WWDC 2018」でARのオーサリングツール「プロジェクト・エアロ(Project Aero)」も発表している。今回のイベントの狙いは、アーティストやデザイナーに使いやすいAR/VRツールを提供し、これまでの表現手法がどこまで変わるのかを実際に見せることにあった。イベントのオープニングに参加したアドビのCTO、アベイ・パラスニス氏は「AR/VRやMR(複合現実)は、体験するためのデバイスや消費するコンテンツは多いものの、クリエイターがつくるにはまだ多くの課題が残っている。使いやすいツールを提供し、そうした状況を解決したかった」と説明する。イベントに展示したAR/VR作品は、アドビの新しいツールで開発したものも多かった。

 パラスニス氏は、AR/VRはまだ草創期にあると言う。「だが、使いやすいツールが生まれることでAR/VRが進化し、予想もつかない展開が起こる」と語る。

 イベントの展示ではないが、アドビは名刺にAR/VRを活用した例をブログで示していた。一見、普通の紙片だが、スマートフォンのカメラを向けると、バーチャルな画像が立ち上がるといった仕掛けだ。写真を印刷したり、デザインに凝ったりしている名刺は多いが、それらと異なる表現が可能になり、驚きも演出できる。アニメーションも加われば、紙という媒体に制限されない創造性を発揮できるだろう。アドビがアーティストやデザイナーにツールを提供し、作品づくりを支援する体制を整えているのも、そのためだ。表現手法を模索しようとする努力をツールの開発に生かすことで、さらに優れたツールが生まれる可能性が高まる。今回のイベントでも、アドビのレジデントプログラム(専門家研修課程)の参加者が何人かいた。

 イベントではゴーグルを着けて仮想世界に埋没するような作品が少なかったのが印象的だ。空間や見る人の体とのインタラクティブ性を利用して、タブレットや裸眼で見られるものがほとんど。ゴーグルを装着する苦しさがない。それだけでもAR/VRのイメージが大きく変わった。

顔の表情によってスクリーンをインタラクティブに操作できるキャン・バユクバーバー氏の作品
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「Photoshop」の生みの親の一人、ラッセル・ブラウン氏は、雨と風と火がバーチャルに舞う作品をつくった
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ガブリエル・バルシャ=コロンボ氏の作品では、小さなベッドの上に小さな人が現れる
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