シリコンバレーには1万社以上のスタートアップ/ベンチャー企業が存在するとされ、そのなかから事業の連携先を探し出すのは至難の業だ。米国にネットワークのない企業であればなおさらだ。そうした課題に対し、100万社以上の企業ビッグデータからAI(人工知能)を活用して支援する米データ分析企業が日本市場の開拓を本格化する。

100万社以上の企業ビッグデータから、取り組んでいる分野などの相関を分析し可視化できる
100万社以上の企業ビッグデータから、取り組んでいる分野などの相関を分析し可視化できる

 ビッグデータ分析ベンチャーのザ・ディシジョン・プラットフォーム(TDP、カリフォルニア州パロアルト市)は、米国のスタートアップから適切な連携先を探し出したり、新しいビジネス分野を見いだしたりするコンサルティングサービスを提供している。

 対象は、米国を中心とした世界の100万社以上の企業である。データソースとしては、国などの公的機関が公開しているオープンデータや米クランチベースなどの企業データベースサービスなど、である。各スタートアップのサイトなどからも情報を収集し、ビッグデータとして解析・整理して保有している。日本のスタートアップ/ベンチャーは、コンテンツなど「クールジャパン」に関連した企業を中心に約4000社が登録されているという。

 TDPのジム・ベドウズCEO(最高経営責任者)は「我々の分析サービスは人間のバイアスが入らないのが特徴。様々な角度で絞り込んだ客観データを提供することで、日本企業で課題とされている意思決定にかかる時間を短縮できる」と説明する。

 TDPは3段階で企業ビッグデータを絞り込んでいく。

 まず第1段階として、興味のあるキーワードを入れていく。その際にポイントとなるのが、同じ領域を表している違うキーワードの把握である。「分析によって、ブロックチェーンとビットコイン、AIとディープラーニングと機械学習のように、本来近い関係にある用語を見いだして、対象としている企業の母集団をしっかりと把握する」(アナリティクス部門のジョン・チョウ責任者)。

 TDPのサービスでは、100万社以上のスタートアップなどの各企業が取り組んでいる分野や特徴を機械学習によりビッグデータ分析し、キーワードごとの相関を3次元空間で見いだしていく。同意語だけでなく、「フード」と「デリバリー」のようなキーワードも近くに表示されている。最近増えているスーパーから食材などを配達するスタートアップの状況を反映していると考えられる。

ビッグデータ解析によって相関の高いキーワードが近くに表示される。「フード」と「デリバリー」をハイライトした
ビッグデータ解析によって相関の高いキーワードが近くに表示される。「フード」と「デリバリー」をハイライトした

「生き残り」や「実行力」も独自指標で評価

 第2段階として、それらとキーワードを掛け合わせていく。例えば、AIとディープラーニングと機械学習の母集団に対して、睡眠関連に取り組んでいることを分析するため「Sleep」との重なりを見つける。図の例では約50社に絞られた。

AI関連と睡眠(Sleep)の両方に取り組んでいる企業を絞り込んだところ
AI関連と睡眠(Sleep)の両方に取り組んでいる企業を絞り込んだところ

 最後の第3段階として、絞られた企業群を独自の指標で評価する。なかでも「サバイバビリティスコア」が興味深い。

 サバイバビリティスコアは資金調達の実績などから各企業の保有しているであろう現預金などを推定。運営コストを予測したうえでビジネスをどの程度の期間継続していけるかを分析・評価するものだ。市場規模や規制環境なども考慮する。スタートアップが実際に事業を続けているかどうか、各企業のWebサイトやソーシャルメディアの更新も定期的にチェックし、情報を更新するという。このほか創業者などボードメンバーの能力などを分析した「実行力」の指標もある。

 これらの絞り込みや分析を行うツールはWebベースで開発しており、契約によって顧客企業が自由に利用することも可能という。

分析ツールの画面。絞り込んだ企業を一覧表示したところ。指標を示したカード形式での表示も可能
分析ツールの画面。絞り込んだ企業を一覧表示したところ。指標を示したカード形式での表示も可能

 TDPは顧客企業の現在の事業に直結する企業の絞り込みだけでなく、ビジネスモデルを変革するための「エコシステム」のマップを提供することもある。対象企業にとって有望な新分野を3次元空間のキーワード分析などを活用して複数見いだして、それぞれの分野のスタートアップ企業などを提示する。

日本向けのサービスに注力

 ベドウズCEOが日本での勤務経験があり、米ゼロックスグループの研究所であるPARCでも日本企業を担当していたことから、日本の企業や官公庁を中心にサービスを展開している。現時点で、味の素、ダイキン工業、JSR、日産化学、ルネサスエレクトロニクス、明電舎などと契約している。TDPのサービスを利用しているある日本メーカーの担当者は、「解析の結果提示された企業と提携することもあるだろうが、まずは我々が検討している分野にどのような企業がいて、どのような研究開発が行われているのかを把握するための“頭の体操”として活用している」と説明する。

 TDPは同社の日本オフィスと連携し、日本企業へのサービスを提供している。TDPの松橋祥司 日本マネージングディレクターは「研究開発部門は特定の企業を探したい、経営企画部門は今後のビジネス分野を調査したいといったニーズが多いようだ」と言う。日本で公的機関と連携した案件に取り組んだり、サービスの説明会を開催したりするなどで浸透を図っている。

 一連のサービスの提供料金はコンサルティングがベースとなっており、対象企業によって個別に設定する。ここ3年間で日本のメーカーを中心に約10社の顧客を獲得したが、2019年中をメドに20社まで倍増させたい考えだ。米国企業へのサービス提供にも取り組んでいく。複数の企業が連携するのを支援することなどが決まっているという。