サントリーが飲料の自動販売機を使った弁当販売の新サービス「宅弁」を開始した。といっても、自販機から弁当が出てくるわけではない。自販機で飲み物を買う要領で、日替わりの宅配弁当が予約購入できる。

 やり方は簡単。宅弁に対応した専用自販機にお金を入れてボタンを押すと、注文が完了する。注文可能時間は午前8~10時。12時には自販機近くの指定場所に弁当が置かれるシステムだ。さらに注文が完了すると釣り銭の受け取り口から100円硬貨に似た形状の「購買証明コイン」が出てくる。それを使って同社自販機での飲料が10円引きで購入できる。

 サービスの対象は法人で、弁当は設置場所の近くにある飲食店が作り、配達も行う。提携する飲食店との交渉は飲食店の販促支援や情報サイトを運営するぐるなびが担当している。

宅弁に対応したサントリーの自販機。飲料を買うのと同じ要領で、お金を自販機に入れてボタンを押すだけで弁当の予約購入ができる。2018年7月から東京都中央区、千代田区、品川区の一部でサービスを開始
宅弁に対応したサントリーの自販機。飲料を買うのと同じ要領で、お金を自販機に入れてボタンを押すだけで弁当の予約購入ができる。2018年7月から東京都中央区、千代田区、品川区の一部でサービスを開始
予約が完了後に出てくる「購買証明コイン」を使うと10円引きで飲料が購入できる
予約が完了後に出てくる「購買証明コイン」を使うと10円引きで飲料が購入できる
提供する弁当の一例。1個税込み700円だが、サービスを提供するエリアによって価格が変わる可能性もある
提供する弁当の一例。1個税込み700円だが、サービスを提供するエリアによって価格が変わる可能性もある

自販機は「働く人の一番身近にある売り場」

 ただ、設置場所近くの飲食店の従業員が徒歩で配達することを前提にしており、現時点で自販機1台あたりの販売上限は20個まで。法人を対象とした弁当宅配事業を本格的に始めるのであれば、もっと別のやり方もあるだろう。なぜ自販機なのだろうか。

 その理由は、サントリーが自販機を「働く人の一番身近にある売り場」と考えているからだ。サントリービバレッジソリューション事業戦略本部の吉川和秀課長は「働き方にもよるが、出勤直後と夕方など1日複数回自販機を利用する人は少なくない」と話す。飲料を買うだけであれば、わざわざ外に出てコンビニに行くのは手間だと考える人は多い。オフィスが高層階にあればなおさらだ。同じように、昼食を買うためだけにエレベーターを待ったり、コンビニの行列に並んだりしたくない人もいるはず。そこで目をつけたのが、自販機を使った弁当の販売だった。

ぐるなびが都内で働く男女約2000人を対象に行った調査によると、職場の周辺に飲食店が少なかったり、あっても常に混雑していたりなどで昼食に関する不満を抱えている人が43%、月1回以上昼食を取れないという人が36%いたという
ぐるなびが都内で働く男女約2000人を対象に行った調査によると、職場の周辺に飲食店が少なかったり、あっても常に混雑していたりなどで昼食に関する不満を抱えている人が43%、月1回以上昼食を取れないという人が36%いたという

 一方、導入する企業側にとっても、最初に専用自販機を設置するだけでいいのは魅力だろう。弁当発注の取りまとめや機械のメンテナンスなどの手間を省けるからだ。また、提供可能な弁当の個数は1台につき20個だが、「近隣の飲食店数店でローテーションを組むので、自販機が2台あれば40個、3台あれば60個と提供数を増やすことができる」(サントリー広報)。従業員からの反応が良ければ、台数を増やそうと考える企業も出てくるかもしれない。

付加価値のある自販機でシェアを伸ばしたい

 宅弁の狙いについて、サントリービバレッジソリューションの土田雅人社長は「付加価値のある自販機を提案し、自販機市場におけるサントリーのシェアを拡大したい」と話す。

 飲料市場で自販機での販売が占める割合は約3割。「世界でもこれほど自販機が普及している国はほかにない」(土田社長)というが、スーパーやコンビニエンスストアに押されて販売数は年々少しずつ減少している。そんななか、同社は自販機専用商品や自販機を使ったキャンペーンを導入。さらに、15年にジャパンビバレッジを買収したことによって、売り上げを伸ばしてきた。

飲料市場で自販機が占める割合は約3割。スーパーやコンビニとの競争に押されている
飲料市場で自販機が占める割合は約3割。スーパーやコンビニとの競争に押されている

 だが自販機の稼働台数は44万台で、シェアトップの日本コカ・コーラの79万台と比べて約半分。コンビニやスーパーというライバルもいる。そこで同社が取り組んだのが、法人向けサービスの強化だった。

 16年秋に法人を対象に始めた「GREEN+(グリーンプラス)」は、スマートフォンアプリと自販機を連動させたサービス。オフィス内に設置した専用のIoT自販機で飲料を購入するとアプリ内にポイントがたまり、同社が扱う特定保健用飲料と交換できる。一定期間内に規定の歩数を歩くとポイントが付与されることもあり、従業員の健康を促進するプログラムとして訴求してきた。「18年7月現在、専用自販機を導入している企業は約4500社、設置台数は約1万台と好調に推移している」(サントリー広報)。日本コカ・コーラやダイドードリンコも同様のアプリを提供しているが、対象は幅広く、全ユーザー向け。それに対してサントリーはサービスの対象をオフィスワーカーに絞ることで、法人に対するロイヤリティーを高める作戦を取ったというわけだ。今回の宅弁はこのサービスの延長線上にあるといえるだろう。

20年までに1000台の設置を目指す

 18年7月にスタートしたばかりの宅弁だが、「すでに17台の導入が決まっている」(サントリー広報)。20年までに1000台を目指すという。

 弁当の価格は近隣の昼食相場を参考にして決めるため、エリアによってはもう少し高い値段での提供になる可能性もあるという。だが、「福利厚生の一環として、企業側が一部金額を補助することも想定している」と吉川課長は話す。買いに行く手間の軽減や混雑回避というニーズを考えると高層のオフィスビルや大型複合ビルでの導入が中心になりそうだが、食堂を持たない地方の工場などにも隠れたニーズはありそうだ。

発表会に登壇したサントリービバレッジソリューションの土田雅人社長(写真左)とぐるなびの久保征一郎社長(写真右)
発表会に登壇したサントリービバレッジソリューションの土田雅人社長(写真左)とぐるなびの久保征一郎社長(写真右)
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