帝国データバンクは、企業が取引先とどう結びつき、どのような商圏を形成しているかを日本地図上で見せる可視化サイトを2018年6月に公開した。一見すると天気図に近く、300社弱の企業の取引の形が直感的に把握できる。同社は今後も可視化コンテンツを順次追加していく。可視化がもたらす、企業活動の意外な姿を感じ取ってほしい。
帝国データバンクは18年6月、経済産業省が「地域未来牽引(けんいん)企業」として選んだ2148社のうち279社の取引を可視化したマップ「LEDIX(Local Economy Driver Index)」を公開した。企業ビッグデータを基に可視化に取り組んだ最新の成果物だ。
地域未来牽引企業(以下、牽引企業)は同省が17年12月に発表したもので、企業情報のビッグデータを基にして算出した、地域経済へ貢献しているなどの定量的指標によるものと、自治体や商工団体などからの推薦という2つの方法で選んだ。選定には帝国データバンクの全国の調査員が調べた企業データが活用されている。
1社ずつ見ていた紙の調査データの数字から、その背後にある取引が見えるのがビッグデータの力だ。
LEDIXは、企業が本社を置く都道府県(域内)およびその他の地域(域外)の取引先とどう結びつき、商圏を形成しているかを日本地図上で見せる。一見すると天気図のようで、直感的に把握できる(動画を参照)。地域に根差す企業でも、域外からかせぐ力が強いのか、域内へお金を回す力が強いのかなどのビジネスモデルの違いや、個別企業の取引とほかの企業との結びつきから経済が循環する形も見える。帝国データバンクの取締役の後藤健夫氏は「企業は1社だけでは活動できない。可視化した、地域の1次、2次請けの企業がお金を得て成長していけば、ほかのたくさんの域内企業も成長する」と語る。
LEDIXが生まれた背景には、地域データを可視化して誰もが使えるようにしたシステムの先駆けといえる経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供する「地域経済分析システム」(RESAS、リーサス)がある。RESASを機にタッグを組んだ帝国データバンクと、デザインとエンジニアリングの両分野を手掛けるTakram、RESASから着想を得て牽引企業の政策を取りまとめた政治家が一堂に会する機会に、可視化のインパクトについて聞いた。
「台風」で企業を特徴付け
LEDIXのマップ上で任意の企業をクリックすると、その企業の域外からの受注と、域内への発注の2種類のデータを基に、域内経済への貢献度を表す形が表れる。その形はあたかも「台風」の勢力圏のようだ。
要素は5つ。台風のような赤い線、雨のような青い線、星のような白い丸、山のような等高線そして陸地に広がる黄色い光だ。読み取りのカギは赤い線と青い線、そして等高線だ。

赤い線はそれぞれが、域外企業からの受注額を示す(1本の線は額の大きさ)。額が大きい線(実線)は、「台風の目」の位置にある牽引企業に近い位置に引き込まれ、額が低い線(破線)は周囲を回る。なお、回転の速さに意味はない。
青い線は、牽引企業の域内企業へ対する年間の発注取引を表す。等高線は、牽引企業の域内に対する経済効果を表現したもので、ヒートマップを盛り上げたイメージだ。
白い星で表されるのは域内企業で、白い星同士のつながり(取引関係)の有無も分かる。陸地に広がる黄色い光は、帝国データバンクが保有するBtoB取引企業約80万社をマッピングしたもの。夜景をイメージしたデザインで、1社1社に明かりがともり活動しているという意味を込めて浮かび上がらせたという。

一つひとつの企業は「企業特性マーク」という、4つの指標で構成されているマークが付与されている。この一覧をながめるだけでも個々の牽引企業の特徴が分かる。例えば赤いギザギザが一番外にあるなら、域外の企業群から、域内のそれらよりもより多くのお金を取ってきている企業で、青い線が一番外なら、域内により多くのお金を支払っている企業と言える。

可視化は新たな発見をする装置に
LEDIXは、帝国データバンクがTakramに委託して開発した。
同社の田川欣哉代表は、LEDIXについて「個別の企業の業績だけ見るときと比べ、企業が持つネットワーク構造を通して関係性が見える」と言う。企業の見方の新たな切り口として「融資や社長の年齢を掛け合わせても企業の個性は出るだろう。(関係性が見えることで)例えば知財のデータを基にして企業同士の相関を分析し、企業が本当に知財から収益を得ているかが確認できるかもしれない。業種ごとの分類もあり得る」と話す。
さらに田川氏はビッグデータの可視化において、コンピューターの処理能力が向上したことの意義は大きいと指摘する。なぜなら、ビッグデータが可視化されたときに、利用者が成果物上で気になる線をどんどん拡大する、今まで知らなかった対象物をすぐに見つけるなどの画面操作を続けることを可能にしたからだ。
同氏は可視化が「利用者にとって、データ提供者やシステム設計者の意図を超え、桁違いに新たな発見をする装置になる」と言う。
LEDIXで表される企業の商圏の「勢力図」がこうしたデザインに落ち着いた理由を、開発を担当したデザインエンジニアの松田聖大氏は「例えば等高線なら、データ(数値)の点と点をつなぐと線がたくさんでき、面になる。面を経済的な影響やボリューム(という特性)で見せるとどんなビジュアルが必要かを議論すると、等高線に行き着いた。ただすぐには思いつかず、非常に苦労した」と振り返る。
可視化が施策立案に一助
LEDIXのルーツは内閣官房が15年に提供を開始したRESASにある。同システムは主に自治体の行政担当者や住民の利用を想定している産業連関表で、人口動態や人の流れなどのビッグデータをデザインされた形で可視化して浮かび上がらせる。RESASのプロトタイプでタッグを組んだのは、帝国データバンクとTakramだった。
「地域未来牽引企業」の名付け親であり、成長戦略の内容の1つとして取りまとめた自民党の平将明衆議院議員は、RESASのシステムを地方創生担当の内閣府副大臣として開発を推進してきた経緯がある。
帝国データバンクがLEDIXのデータ提供者、Takramがそのデータを可視化した設計者とすると、平氏はRESASをきっかけに、可視化物からアイデアを地方創生など経済活性化政策に生かそうとしている政策立案者の代表と言える。
RESASでの可視化が政策立案者にとって革新的だったと評価する。
平氏は「(RESASを)見て刺激を受け、地方創生に対する想像がわいた。実は地域未来牽引企業という名前にある“牽引”は私がつくった。地域経済があって、地域とつながりの強い中核企業の売り上げが上がると、取引企業の売り上げがすべてつられて上がる――上に引っ張り上げられるイメージだ」と話し、ビジュアルがなければ「牽引」はイメージしなかったと述べた。
現在、平氏は自民党の成長戦略立案のなかで地方経済の活性化に継続して取り組んでおり、「可視化によりさまざまにアイデアがわく。こうしたアイデアを取り入れれば政策作成プロセスにもイノベーションが起こり得る」と語る。
帝国データバンクは、今後LEDIXに新しいビジュアライゼーション表現や地域分析コンテンツを追加していく。無料での公開を前提としており、有料化はしない考えだ。