なぜ退任後もUSJは業績が落ちないのか

森岡さんがUSJを再建し、退任してからも同社はまだ伸び続けています。それは、組織改革によって成し得た成功ではないかと思います。

森岡 私は6年半という時間をかけて、USJにマーケティングを一連のシステムとしてインストールすることを最上位の課題に掲げて取り組んできました。私がUSJを辞めた後も、好調を維持すべくスタッフの皆さんががんばっている点は、非常にありがたく思います。

 私がUSJにいた当時、サステナブルな組織を実現しなければならないと意識していました。例えば、カリスマ性のあるトップや、特殊な才能のあるマーケター、すごいアイデアを持つクリエイターなどがいたとしても、ずっと成果を出し続けることは不可能です。続いたとしても、せいぜい30年程度でしょう。

 このような「天才依存型」のビジネスモデルは、一人の人間のライフサイクルにビジネスリスクを懸けてしまっていますから、継続性に問題が生じます。しかも、これは資金調達にも影響が出るのです。

 特に映画などは、当たるか外れるか博打のようなビジネスですから、多くの企業がスポンサーになるのが怖くて、複数社で少しずつ出資をします。これが、エンタメ業界です。USJのようなテーマパークもその一つです。私は、それを変えたかった。一人の天才に依存するのではなく、組織の力で、高い確率でヒットを打つことによって、テーマパークを投資可能案件に変えたかったのです。

 博打では、資金は集まりません。やはり予測可能でなければならない。資金が集まってくれば、エンタメ業界も活気づくでしょう。これを変えるためには、マーケティングというサイエンスの力で、再現性のある形を追求すべきだと思ったのです。

 ですから、私が得意とする高等数学を駆使した需要予測のモデルを他の人でも扱えるようにしてきましたし、テレビ広告も誰かの感覚で作るのではなく、戦略から消費者理解をつむぎ出し、どこに焦点を合わせて消費者が求めている価値を絵にするかを突き詰めるようにしました。これはノウハウであり、再現性があるのです。

 同時に組織構造も消費者視点で会社全体が機能する“マーケティング・ドリブン”なものに変革しました。つまり、マーケティング戦略の下で商品開発を機能させるということです。加えて、意思決定も、誰か一人が決めるのではなく、多くの情報が集まるような仕組みを作りました。ユーザーの情報を多く持つ現場スタッフからの情報を、より広い視野を持つ上層部へと繋ぎ、活発な情報交流が起こりやすくする。こうした全社を消費者視点でドライブできる組織への変革と、マーケティング・ノウハウの移植をセットで行ったことが、USJのV字回復の原動力になったのだと確信しています。

 今やUSJは世界一EBITDAマージン(利払い、税金、償却前利益)の高いテーマパークになっています。これは、オリエンタルランドを超える水準です。

最後に、昨年設立したマーケティング精鋭集団「刀」で、これからどのようなミッションを遂行していくか、教えてください。

森岡 当社は、「日本社会をマーケティングの力で元気にする」ことにコミットしていますから、日本社会の活性化に資する事業をされている企業の応援をしたいと考えています。

 当社がやりたいのは、私たちが生きている間に、日本の社会にマーケティングを普及させて、日本を活性化させることなんです。日本社会に寄与する会社に、我々の持つ持続可能なマーケティングのノウハウを余すところなく開示し、身につけてもらう。つまり、マグロを釣ってくるのではなく、マグロを釣れる船を用意し、その釣り方までを伝授していくということです。それには膨大な時間と労力を要しますから、我々が携われる企業はそう多くはありません。それでも持続可能なマーケティング力を一つでも多くの企業に移植できれば、50年、100年の価値があると思うわけです。

 私たちの寿命を超えたところに、日本社会を活性化させる上での価値をいかに残せるか。刀のミッションはそこにあります。

(聞き手 島津翔=日経ビジネス、森脇早絵=ライター)

書籍紹介
『マーケティングとは「組織革命」である。』(日経BP社)
USJ再建の森岡毅氏が指摘する「マーケターの悪癖」(画像)

最強マーケター・森岡毅氏が旅立った後も、なぜUSJは絶好調なのか?その裏には、マーケティング・ノウハウだけではなく、それを実行し、持続成長できる組織に変革する「森岡メソッド」があった。本書では、2017年にマーケティング精鋭集団の「株式会社 刀」を立ち上げた森岡氏が実戦で培ってきた、ビジネスで成功するために最も重要な「ヒトと組織」の本質と、一人のサラリーマンでも「組織」を動かす起点になるための秘訣を初めて明かす。

日経ブックナビ
アマゾン