技術ドリブンの経営から脱却せよ

森岡 もう一つ重要なのは、商品開発をするための根幹とも言える「技術」の捉え方です。技術とは、消費者の求める価値を実現するための装置だと私は考えています。

 技術を消費者に届ける価値に転換することを「ベネフィット化」と呼んでいます。ここで忘れてはならないのは、消費者にとっては、商品の価値が自分の求めるものに繋がれば、技術が何であれ関係ないということです。

 これは、技術者の皆さんを軽んじて申し上げているわけではありません。技術は非常に大切ですが、消費者が商品の価値を実感できるのであれば、技術を千差万別にしておく必要はないということです。逆に言えば、消費者の価値を見出せないのであれば、技術があっても何の意味もなくなってしまう。技術者にこの認識が浸透していないことは、大きな弱点となっているのです。

身振り手振りを交えて、情熱的に話を進める森岡氏(写真=吉成 大輔)
身振り手振りを交えて、情熱的に話を進める森岡氏(写真=吉成 大輔)

 そしてマーケターにも、日本人特有の悪い癖が見られます。商業化において、世界の成功事例にアンテナを張っておかなければならないのは当然のことですが、日本のマーケターは基本的に「何でも自分でやりたがる」という特徴があるのです。

 米国人や中国人は、他者の成功事例からヒントを得て、そのアイデアをそのまま使ったり、少し手を加えたりして、より速いスピードで、より高い確率で商業化を成功させます。

 しかし、日本人はこれを積極的にやりません。職人気質で、全部自分でやろうとする。まず自社開発という苦労するところから始めます。しかし実際は、過去を振り返れば、世界中のどこかで同じ問題に直面した企業は必ずあるのです。自社でやろうとするよりも、世界にベストプラクティスを探しに行くほうがはるかに効率的で、速くて、成功確率が高い。何でも自分でやりたいと思うことは、マーケターのエゴに過ぎません。

マーケターとは、技術と消費者の間を繋ぐ翻訳者のような仕事ですね。

森岡 おっしゃる通り。作った商品に対して「どう売ろうか?」というところだけ考えるのが狭義のマーケティングです。例えば、キャッチコピーを何にするか、テレビCMをどうするか、店頭の販売価格をどのように設定しようか、ということ。一方、消費者が欲する価値を起点に、それを技術者に翻訳し、売れるものを開発してもらう、もっといえば市場価値を創造する仕事全般を意味するのが、私の考えるマーケティングの定義です。

プロダクトから消費者へのベクトルよりも、消費者からプロダクトへのベクトルが重要だということですね。しかし、多くの製造業には、そのベクトルが足りない。

森岡 そうです。本当に強い企業は、消費者から技術へのベクトルがちゃんとあります。

 すでに開発した商品をヒットさせることは、非常に困難です。しかし、消費者をよく理解しているマーケターが、技術者の皆さんにニーズを明確に示し、そこで創造力と熱意を発揮すれば、売れる商品は作ることができるのです。

 しかし、多くの日本企業では、自分自身の技術からしか発想できません。日本が世界から「マーケティングが下手だ」と言われるゆえんは、ここにあります。日本は素晴らしい技術力があるがゆえに、その成功体験が、自身の発想を完全に縛っているのです。

では、技術者はどういったマインドセットを持つべきでしょうか。

森岡 私がUSJ時代に、技術やクリエイティブの皆さんに伝えていたのは、「あなた方が磨いてきた技術は、今この消費者を喜ばせるためにある」ということです。消費者の誰を、どのように喜ばせるのかというところを、常にチェックし続けなければならない。

 自分の技術に誇りを持つと同時に、自分は世界一主観的であるということに対する恐れを持っていてほしいのです。その上で、消費者のニーズを客観視できる専門家としてのマーケターの声に耳を傾けてほしい。

しかし、日本の技術者の中で、そういった意識を持っている人は少ないのではないでしょうか。

森岡 少ないですね。今までは、技術力の高さからある程度成功してきましたから、そのマインドを変えることはあり得ないというのが、多くの日本企業の姿です。

 しかし、マーケターの力と技術を合わせれば、もっと成功できるのです。もちろん、マーケティングの責任者と技術の責任者との間で激しい議論をせざるを得ないこともあります。ここは健全な対立が起こるべきです。

 そこで社内には、この対立を消費者目線で調整する強力なパワーが必要です。それがCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)という存在です。USJでもCMOを置いています。この役割を担う人物は、技術の消費者的価値をちゃんと理解した上で、この技術をどうブランディングしていくかという点でのマーケターとしての研鑽が必要です。