自動運転社会に向け、中心市街地をリ・デザイン

 米国の専門家の間では、シェアリングと自動運転が融合した「SAV(Shared Autonomous Vehicles)」が、将来のモビリティサービスの本命として有望視されている。しかし、SAVの車両やサービスが技術革新したとしても、専用の空間に見知らぬ人同士が乗り合うという習慣、公共的な交通サービスを利用する習慣は、一朝一夕には根付かない。有人運転でもバスに乗っていない人が、無人運転になることでバスを利用するようになるとは、筆者には到底思えないのだ。

 また、SAVがどれだけ高機能化したとしても、自転車や一般の車両、歩行者との接触の機会、リスクを最小限にするインフラ側の協力が必要不可欠ではないだろうか。その意味では、シアトルはこの10年間で、路線バスなどの特定車両だけが走行できる専用レーンを街中に拡充してきた。街路空間の再編には地域や沿道施設、ドライバーなどの理解が必須であり、非常に時間を要する取り組みを着実に進めてきたのだ。これら特定専用に対する空間の確保を先行的に進めてきた努力があって初めて、将来普及するであろうSAVの車両に優先権を与えることが可能となり、安全安心な自動運転社会が幕を開けていくと筆者は考えている。

 加えてシアトル市では、短時間駐車は「路上」、長時間駐車は「路外」という政策を長年採用している。補助幹線的な街路には歩道の一部を切り込む形で、沿道特性に合わせて30分や1時間、2時間など、短時間用の有料駐車場を確保している。将来普及が見込まれるSAVは、オンデマンドで車両を呼び出すことになるだろう。その際、車両が待機する短時間の停車空間が非常に重要となることは言うまでもない。

3車線の街路をバス専用(左)、一般車(中央)、自転車専用(右)にリ・デザイン
3車線の街路をバス専用(左)、一般車(中央)、自転車専用(右)にリ・デザイン

 これまで解説してきたように、近々到来するであろう本格的なモビリティ革命に先行し、人々に新たな移動の機会をもたらし、柔軟に対応できるインフラの整備を戦略的に進めている都市がシアトルである。翻って日本では、車両の技術開発や法制度の議論は先行しているものの、モビリティ革命の到来によって起こるライフスタイルや都市像の変化、そのための先行投資の議論がほとんどされていないのではないだろうか。

 18年6月に閣議決定された政府の成長戦略の基本方針を示した「未来投資戦略2018~『Society5.0』『データ駆動型社会』への変革~」においては、次世代モビリティ・システムの構築が重点分野とフラッグシッププロジェクトに位置付けられた。なかでも、まちづくりと公共交通の連携、新たなモビリティサービスのモデル都市・地域構築が柱の一つとなっていることは、かなりの前進と言える。

 ともあれ、百聞は一見にしかず。モビリティ革命の足音を感じるために、先行しているシアトルの訪問をお勧めしたい。(※次回、牧村氏による米ロサンゼルスのMaaSリポートも近日公開)

「『日本版MaaS』の実現に向けて」(第2部)
計量計画研究所の牧村和彦氏らが登壇
計量計画研究所理事 兼 研究本部企画戦略部長 牧村和彦氏
計量計画研究所理事 兼 研究本部企画戦略部長 牧村和彦氏
さまざまな交通・移動手段を統合して次世代の交通体系を生み出す「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」。鉄道やバスといった公共交通や自動車メーカー、IT企業などが覇権を争い、欧米では、すでに社会実装に向けた具体的な取り組みが複数進んでいる。まだ号砲が鳴ったばかりの日本で、今後どのような社会インパクトが生み出されるのか。日本版MaaS実現に尽力する第一線の論客が解説する。第1部が好評をいただき、早々に満席となったため、第2部の追加開催を決定。第1部の内容を受け、さらに深掘りします。

日時 11月29日(木) 13:30~14:10
会場 東京国際フォーラム(東京・有楽町)
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