2017年のAndroid搭載スマートフォンの国内販売台数シェアで、ソニーモバイルコミュニケーションズを抑えてトップになったシャープ。18年6月には、好調のけん引役ともいえるフラグシップモデル「AQUOS R」シリーズの最新機種「AQUOS R2」を発売した。同機種の特徴は、「静止画用」と「動画用」にあえて分けた2つのカメラ。「流行りのデュアルカメラだが、メリットをより分かりやすくしたかった」と担当者は語る。

シャープの「AQUOS R2」。デザインコンセプトは「Warm&Technology」。フラグシップモデルでもあえてソリッドなデザインにせず、親しみやすさを重視しているという
シャープの「AQUOS R2」。デザインコンセプトは「Warm&Technology」。フラグシップモデルでもあえてソリッドなデザインにせず、親しみやすさを重視しているという

 全国の家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、17年のAndroid搭載スマートフォンの販売台数シェアはシャープが20.6%で、ソニーモバイルコミュニケーションズから首位を奪った。MM総研による調査では、17年の国内携帯電話端末のメーカー別出荷台数シェアではアップルに次ぐ2位となっている。

 躍進の原動力の1つが同社のスマートフォン「AQUOS R」シリーズだ。シャープでは、17年の夏モデルからスマートフォンのブランドを見直し、それまでキャリアごとに分かれていたフラグシップモデルの名称を「AQUOS R」に統一。テレビCMに女優の柴咲コウさんを起用するなど、ブランドとしての認知向上を図った。端末自体を見ると、有機ELやデュアルカメラ機構など、他社のフラグシップモデルのような目立った特徴はなかったにもかかわらず、着実に販売数を重ねたのは、こうしたプロモーションによるところも大きい。

AQUOS R2ではカメラを静止画用と動画用に分けた

 そのシャープがAQUOS Rの後継機として18年6月に発売したのが「AQUOS R2」だ。AQUOS R2の特徴の1つが2個のカメラからなるデュアルカメラ機構。前述のように、これ自体は既に採用しているスマホメーカーも多く、先進的とは言えない。ただ、シャープが新しいのは、その2つのカメラを「静止画用」と「動画用」にしたこと、そのうえで動画撮影の強みを前面に押し出したことだ。

「AQUOS R2」は静止画用と動画用のカメラを搭載している。静止画用のカメラは2260万画素、画角90度、動画用は1630万画素、画角135度
「AQUOS R2」は静止画用と動画用のカメラを搭載している。静止画用のカメラは2260万画素、画角90度、動画用は1630万画素、画角135度

 動画撮影に注力したのは、ユーザーの間で動画撮影のニーズが高まっていると判断したためだ。同社が10~50代のスマートフォン所有者6275人を対象に行った2018年3月の調査によると、全体の49%が月に1度以上はスマートフォンで動画を撮影、その約6割がSNSに投稿していたという。「今やSNSで写真を公開するのは当たり前になっている。今後は動画ももっと増えていくはず」とシャープの通信事業本部パーソナル通信事業部商品企画部の小野直樹係長は見る。

 そのうえで、2つのカメラを「静止画用」と「動画用」に分けたのは、ユーザーにとってデュアルカメラのメリットを分かりやすくアピールする狙いがあったからだ。デュアルカメラを搭載するスマートフォンはたくさんあるが、その使い方はメーカーによってさまざま。広角レンズと光学ズームレンズの組み合わせでズーム時の画質を落とさないようにするものや、カラーのセンサーとモノクロのセンサーの組み合わせで質感描写を高めたものなどがある。目的がバラバラなこともあり、「消費者にとっては、なぜ複数のカメラが必要なのか、どう使い分ければいいのか分からないケースが多い。いっそのこと静止画用、動画用と分けるほうがメリットが分かりやすい」(小野係長)。

 動画を撮影する際、AQUOS R2では2つのカメラが駆動し、一方が動画撮影を、もう一方が静止画撮影を担う。AI(人工知能)を使った「AIライブシャッター」機能を備えており、動画中に人物や犬、猫が検知されたり、適切な構図だと判断されたりすると、自動的に静止画のシャッターが切れる仕組みだ。従来のスマートフォンやデジタルカメラでも動画と静止画を記録できるものはあったが、動画から静止画を切り出すのが一般的。動画の解像度は静止画よりも低いことから、静止画単体で撮影するよりも画質が劣ってしまうのが欠点だった。AQUOS R2では、この欠点を克服し、動画と静止画を同時に、画質を落とすことなく残せるようにした。「動画で撮るか静止画で撮るかで悩んだ場合も、とりあえず動画を選んでもらえばいい」(小野係長)。 

 また、「静止画と動画では適切な画角やカメラに求められる機能が違う」とも小野係長は指摘する。例えば、子供の誕生パーティーの様子を撮影する場合。静止画は子供の表情をよりきれいに捉えたいが、動画はその場の雰囲気やお祝いをする家族の声、様子なども残したい。言い換えると、静止画では背景をきれいにぼかして被写体を際立たせる機能などが重宝されるが、動画ではより広い範囲を捉える超広角や手前から奥までピントを合わせられるディープフォーカス、強力な手振れ補正機能などが重要になるわけだ。カメラに求められる相反する条件を両立するためにも、2つのカメラの役割を分けるという選択をした。

 撮影だけでなく、動画や静止画を後から再生、活用するための機能にも工夫を凝らしている。その1つが「アルバム」アプリでのサムネイル表示だ。従来の動画のサムネイルは、その動画の最初のカットが表示される。最初のシーンは壁や地面などが写っていることも多く「動画が増えるほど、どれがどの動画か判別しにくい」(小野係長)。そこで、AIライブシャッターで最初に撮影した静止画を自動的にサムネイルに設定することで、動画の内容を認識しやすくした。

「写真も再生」にチェックを入れて動画を再生すると、動画を見ながら静止画のシャッターが切られたシーンを確認できる(写真左)。左の画面で「この動画の写真を見る」をタップすると、動画中に自動で撮影された静止画を一覧表示できる(写真右)
「写真も再生」にチェックを入れて動画を再生すると、動画を見ながら静止画のシャッターが切られたシーンを確認できる(写真左)。左の画面で「この動画の写真を見る」をタップすると、動画中に自動で撮影された静止画を一覧表示できる(写真右)

 個々の動画については、動画再生中にどこで静止画のシャッターが切られたのかを確認する機能や、動画撮影中に記録された静止画をまとめて表示する機能なども用意している。さらに、静止画を選ぶとその前後10秒を切り出したショートムービーを作れる機能も設けた。「撮影した動画が簡単に管理、編集できるようになれば、ユーザーはより気軽に動画を撮ったり、それをSNSにアップロードしたりできるはず」と同社同部の楠田晃嗣課長は語る。

 アップルをはじめ、サムスン電子やファーウェイといった海外勢が席巻するスマートフォン市場で、国内ブランドとしてシェアを伸ばしたシャープ。機能面では、動画撮影という身近なニーズに焦点を絞り、「静止画用」と「動画用」の2つのカメラという分かりやすいメッセージを押し出すことで、先進機能を売りにする海外勢に対抗する。

左から、シャープの通信事業本部パーソナル通信事業部商品企画部の小野直樹係長と楠田晃嗣課長
左から、シャープの通信事業本部パーソナル通信事業部商品企画部の小野直樹係長と楠田晃嗣課長
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