「日経クロストレンド」は2018年6月19日、創刊記念イベント「日経クロストレンド FORUM 2018」で「オープンイノベーション成功への3つの壁」と題したパネルディスカッションを実施した。セブン銀行(東京・千代田)常務執行役員 セブン・ラボの松橋正明氏、ライオン 経営戦略本部事業開発部の藤山昌彦氏、Creww(東京・目黒)取締役 Managing Directorの水野智之氏が登壇し、オープンイノベーションの成功の鍵を議論した。

まず、モデレーターである日経クロストレンド開発長兼副編集長の杉本昭彦が、オープンイノベーションを進める上でぶつかる典型的な3つの壁を示した。1つ目の壁は、「最適な組織と人材」、2つ目が「投資予算の確保と決裁」、最後が「事業プランの評価軸」だ。各社はこれらの壁に対してどのような対応をしているのか、プレゼンを交えながら議論を進めた。
スタートアップ企業への支援サービスを展開するCreww。大手企業とスタートアップをプログラム単位でマッチングするサイト「crewwコラボ」の運営や、オフラインでもコミュニティーを活性化させる場としてのコワーキングスペース「docks」の運営など、さまざまな側面から支援をしている。

crewwコラボを始めた理由について、水野氏は「スタートアップがどうすれば成長を加速できるか考えた結果、大手企業が持つ顧客基盤やデータ、資金などの資産にアクセスできる環境をつくることが重要だという結論に達した」と語る。
crewwコラボでは、大手企業が実現したいテーマにスタートアップが企画を提案する形で両者をつなぐ。3カ月のマッチング期間と3カ月の事業化期間にスケジュールをきっちり区切るのが特徴だ。これまでの6年間で、106回のプログラムを完了しているという。
「やりたい人にやりきってもらう」
セブン銀行は、コンビニエンスストアに設置したATMを中心にさまざまな金融サービスを提供する。スタートアップと組み、新サービスの事業化も数多く進めている。
ドレミング(福岡市)と組んで開発した、働いた分をすぐ給料として支払うことができる「即払い給与サービス」や、建築業の仕事の受発注アプリを提供する助太刀(東京・渋谷)と組んだ、職人が報酬をすぐ受け取れる「即日受取サービス」など、セブン銀行の基盤を利用したサービスが事業化されている。

当初は有志で進めてきたオープンイノベーションの活動だが、得られた実績から「セブン・ラボ」というチームを発足させた。「やりたい人にやりきってもらうことが大切だ。新規事業は、企画はいいが事業部に移った瞬間に消えてしまうケースも多い。セブン・ラボは何をやってもいいチームとして試行錯誤を続けている」と松橋氏は語る。
松橋氏はオープンイノベーションを成功させる秘訣として、スタートアップによる社会課題解決への取り組みに対する共感、短期間でやりきること、そして、社内とは異なる価値観を持つ外部組織と継続的に連携することを挙げた。
アイデアのある人が集まる組織
ヘルスケア製品を開発・販売するライオンは、120年以上の歴史を持つ老舗企業。2030年に向けた経営ビジョンでは、新しい価値を創造することを第一に掲げ、その取り組みを始めている。
スタートアップ企業のユニロボット(東京・渋谷)とは、同社が提供する家庭用ロボット「unibo(ユニボ)」を使い、生活者と直接つながるチャネルを築くことを目指す。「uniboを介することで、お客様の声を集めて新しいインサイトを見つけたり、新製品の情報を直接お客様に提供したりするなど、新しい価値が生まれることに期待している」と藤山氏は語る。

別の会社とは、舌の上の舌苔の厚みを画像解析し口臭レベルを表示するアプリを開発するなど、オープンイノベーション活動を積極的に進めている。
「今年の初めから、イノベーションラボという組織を研究開発本部の中に作った。こうした象徴的な部署があることでアイデアのある人が集まってくるという副次的な効果が現れてきている」と藤山氏は説明する。
3つの壁への対応
オープンイノベーションを成功に導くため、各社は3つの壁にどう取り組んでいるのだろうか。
組織と人材の最適化について、水野氏は、「組織ありきではなく、やりたい仲間を集められるかどうかが重要だ。しかし、そうした新しいことをやろうとする人たちは、社内の理解をなかなか得られないジレンマに陥りやすい。役職のある理解者を見つけて引っ張ってもらうのがいいだろう」と語る。
第2の壁、まだ成果を見通せないプロジェクトの予算をどう確保するかについては、松橋氏が次のように語った。「世の中をこういうふうに変えたいんだという思いを経営者に真剣に話して、毎回予算を取っている。私はここに長けていて、それぞれのメンバーの能力を補う役割分担が重要だと思う」。
また藤山氏は、「新規事業に大きな投資をするかどうかは、どうしても判断が難しい。スピーディーにスモールスタートできる仕組みを作っているところだ」と話す。
そして3番目の壁、オープンイノベーションへの提案で多数集まるプロジェクトを選択するための評価規準をどうするかについては、「人ありきだと思っている。その人たちのチャレンジにおいて何を成功と取るかは、各企業バラバラだろう。そこをしっかりと見極め、その上で何が良かったのか悪かったのかのフィードバックを社内に残していくという継続性が重要だと考えている」と水野氏は説く。
「企業は変革しないと滅びる。挑戦する姿勢を見せていきたい。その結果、若手が活躍して、新しいことが生まれ、社会が変わっていく。こんな楽しいことはない。どんどんやり続けていきたい」と松橋氏はオープンイノベーションへの期待を語った。
(写真/志田彩香)