「日経クロストレンド」は2018年6月18~20日、創刊記念イベント「日経クロストレンド FORUM 2018」を開催した。同イベントに登壇した資生堂ジャパンのブランドマネジメント部デジタルフューチャーグループの川崎道文ブランドマネージャーが「資生堂のIoTをベースとしたパーソナライズソリューション~新しいスキンケアサービス“オプチューン”開発~」と題して講演。IoTを活用して顧客一人ひとりの肌状態に適した化粧品を提供する、新事業の開発背景を語った。

IoTを活用した新たな事業について講演した資生堂ジャパンのブランドマネジメント部デジタルフューチャーグループの川崎道文ブランドマネージャー
IoTを活用した新たな事業について講演した資生堂ジャパンのブランドマネジメント部デジタルフューチャーグループの川崎道文ブランドマネージャー

 資生堂が開発したのは、IoTをベースにしたパーソナライズ・スキンケア・システム「オプチューン」。製品名は最適化の意味を持つ「オプティマイズ」と、調律の「チューン」を組み合わせた造語だ。スマートフォン向けの専用アプリと、専用機器「オプチューン ゼロ」を連携して利用する。18年3月から一部の顧客向けにβ版の販売を始めたばかりだ。

 オプチューン ゼロを利用する場合、利用者は事前にアプリで肌を撮影する。その写真を基に、資生堂が現在の肌状態を解析。肌状態に合わせて選ばれた、セラム(美容液)とモイスチャライザー(乳液)を組み合わせた5本のカートリッジが届く。届いた5本のカートリッジをオプチューン ゼロにセットして利用する。

 利用者は朝晩のスキンケア前にスマホアプリで肌を撮影するだけで、キメ、毛穴、水分量などが測定される。それらの肌データに、その日の気温や湿度などの環境データ、アプリ経由のアンケートで取得した生理、気分・コンディションといったデータを掛け合わせて分析。1000以上の抽出パターンの中から最適な量や組み合わせに調整された、セラムとモイスチャライザーがそれぞれ、カートリッジから抽出される。

 オプチューンの開発背景を川崎氏は「女性の肌状態は外部環境やストレス、体調などに応じて日々変化するため」と説明する。多様化するライフスタイルに合わせて、パーソナライズされた化粧品が求められると考えた。従来の製品以上の付加価値を提供することで、新たなビジネスチャンスになると見込んだ。

川崎氏はオプチューンはデータを活用したCRM施策も実施しやすいと説明する
川崎氏はオプチューンはデータを活用したCRM施策も実施しやすいと説明する

 事実、資生堂は近年「パーソナライズド・ビューティー」「パーソナライゼーション」をキーコンセプトに掲げ、積極的にグローバルでの企業買収や、新規事業開発を進めている。例えば、スマホで肌色を計測し、カスタムメイドのファンデーションをオンライン注文できる米国発の「MATCHCo(マッチコー)」や、メークをした顔の画像を解析して、素顔に戻す画像解析技術を保有する米国の「Giaran(ギアラン)」などが挙げられる。

 また、自社では、その時の気分に合わせたフレグランスを噴霧するアロマディフューザー「BliScent(ブリセント)」を開発して、米国のテクノロジーイベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」に出展した。オプチューン ゼロもこうした戦略の下で開発された。

データ活用で継続利用を促すモデル

 ビジネスモデルにも新規性がある。オプチューンは機器自体を無料で貸し出すのが特徴だ。カートリッジは1本2800円×5本で購入する。いわゆるカートリッジで稼ぐモデルになっている。これまで資生堂が展開してきた小売りを通じて販売する事業モデルは、1~2回だけ購入するライトユーザーが多く、繰り返し購入するロイヤルカスタマーが少なかった。これでは安定収益を見込みにくい。

 一方、オプチューンは使えば使うほど化粧品の最適化の精度が高まることで離れられなくなり、顧客の囲い込みにつながる。結果的にロイヤルカスタマーを多く抱えられる可能性がある。さらに機器の利用状況など、顧客のデータを精緻に収集できるため、そうしたデータに基づき「使い続けてもらうためのCRM(顧客関係管理)施策を展開しやすい」(川崎氏)。

 例えば、「使用頻度が低い顧客」「毎日使っていたものの利用が止まった顧客」「毎日、欠かさずに使っている顧客」など、さまざまな顧客層に対して継続利用を促すコミュニケーション施策を実施する。こうして、ロイヤルカスタマーを増やしていくことが、オプチューンのビジネスモデルの核になるわけだ。

 今後はオプチューンでこれらのサービスとの統合を目指すほか、肌状態の分析技術を自宅の洗面台へビルドインしたり、スマホを使わずマシンに触れるだけで肌解析を行ったりするなどのサービス拡張も検討していく考えだ。

(写真/新関 雅士)

■修正履歴
当初、カートリッジは初月無料としていましたが、初月から有償の誤りでした。[2018/07/10 13:30]
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