日経クロストレンドが開催した「日経クロストレンド FORUM 2018」の2日目には、九州でスーパーを展開するトライアルカンパニーと、同社が中心になって立ち上げたリテールAI研究会のメンバーが登壇。「リアル店舗の逆襲、仕掛け人が明かす流通業のAI活用」と題し、同研究会で実施してきた店舗におけるAI活用の結果を基に、次世代店舗に向けた戦略を明らかにした。

 リテールAI研究会は、リテール分野におけるAIテクノロジー活用に関する情報の共有や知識の獲得、企業の垣根を越えた連携を目的に発足した研究会である。「Amazon Goの登場を機に、流通のAI化の流れは加速している。1社ではアマゾンにはかなわないが、企業が連携してシステムを作ることで戦えると考えた」とリテールAI研究会代表理事の田中雄策氏は力強く語る。現在、正会員は34社、賛助会員は77社と広がっており、この8月にはリテールAIの導入方法に関する講座も開始する予定だという。

田中氏。1980年電通入社。東京ミッドタウンなど都市開発を担当。2016年4月にRemmoを設立。17年5月にリテールAI研究会を設立して現在に至る
田中氏。1980年電通入社。東京ミッドタウンなど都市開発を担当。2016年4月にRemmoを設立。17年5月にリテールAI研究会を設立して現在に至る

リテールにおけるAI活用はすでに始まっている

 同研究会ではリテールにおけるAI活用について、①商品・在庫管理(需要予測、自動発注、棚管理、防犯など)、②接客・対人サービス(案内、販促、翻訳など)、③オペレーション(検品や棚卸し、商品陳列など)、④カスタマージャーニー、⑤全体を最適化(リテールAIプラットフォーム)という5つの分野があり、すでに国内でも導入事例が登場している。

 福岡を拠点にスーパーやディスカウントストアを運営するトライアルカンパニーはその一社だ。同社では今年の2月、福岡市のアイランドシティに最先端のスーパーをオープン。その店舗に約700台のAIカメラを設置した。「AIカメラでは、商品の前を通過する人の人数や商品に触れた人の数などが取得できる。それにPOSデータを組み合わせることで、商品陳列と売れ行きの関係を数値化できる」とトライアルホールディングス執行役員グループCTOの松下伸行氏は語る。AIカメラのビジネス活用はそれだけではない。「お客さま向け、メーカー向け、他の小売り向けという3つの軸でシステム開発を行っている」(同氏)という。

松下氏。1998年ソニー入社。デジタルカメラの「Cyber-shot」、スマートフォンの「Xperia」の戦略、研究、開発に従事。ベンチャーでの事業立ち上げを経験し、2016年より現職
松下氏。1998年ソニー入社。デジタルカメラの「Cyber-shot」、スマートフォンの「Xperia」の戦略、研究、開発に従事。ベンチャーでの事業立ち上げを経験し、2016年より現職

 第1の「お客さま向け」とは、インストアプロモーションの高機能化。これまで誰が見ても同じだった張り紙をタブレットに変え、AIカメラで認識した年齢や性別などの情報を基に、出すCMを切り替えるというシステムだ。これにより「究極のピンポイントマーケティングができるようになる」と松下氏。第2の「メーカー向け」は、eコマースでは当たり前のように行われている来客者のトラッキングデータの分析である。「お客さまの通過、注目、接触、購買という一連の流れを数値化できるので、メーカーにとってより効果的なマーケティング施策を打てるようになる」(同氏)。第3の「他の小売り向け」は棚の欠品・補充指示で、AIカメラで常に商品の陳列の状態を数値化し、欠品する前に店長にアラートを出すという仕組み。従来は、店長が定期的に店舗内を巡回する必要があったが、その工数が不要になるという。現在、同社が導入しているAIカメラは約700台だが、2021年には20万台・全店舗に導入を計画している。

 「AIを活用して効率化を進めなければ、日本の小売りは滅びてしまう。メーカーの中にもそれを危惧し、リテールを変える取り組みをしている企業、人材が出てきている。今村さんはその一人」と語り、次の登壇者であるリテールAI研究会 日用品分科会 テクニカルアドバイザーの今村修一郎氏を紹介した。

大きなコストをかけずにリテールAIは始められる

今村氏。P&Gジャパンに入社し、ビッグデータ分析や機械学習関連の開発に従事。17年にリテールAI研究会に参加し、IT技術を駆使した小売流通業の改革に取り組んでいる
今村氏。P&Gジャパンに入社し、ビッグデータ分析や機械学習関連の開発に従事。17年にリテールAI研究会に参加し、IT技術を駆使した小売流通業の改革に取り組んでいる

 続いて登壇した今村氏は、メーカー視点で「この1年間でリテールAIは大きく進化した」と説明。同研究会では、リテールAIがすぐに始められるようクラウド環境を構築。またAIによる店頭実験を実施し、現在は「AIによる棚割生成の開発に注力している」(今村氏)。すでに事例もある。一つはAIクラスタリング分析の活用だ。スペースに限りのある棚のどこに、どの商品を置けばより効率的に売り上げられるのか、またどの商品と商品がバッティングしているのか、それを把握するのは難しい。そこでカメラやPOSで蓄積したデータを活用してAIクラスタリング分析を行い、将来買う人やSKU(Stock Keeping Unit=ストック・キーピング・ユニット)を予測するというものだ。「より精度向上を図り、結果が出ればどこかで披露したい」と今村氏は意気込みを語る。

 またもう一つ、今取り組んでいるのが「AIがトレードアップに最適な棚位置を提案してくれる仕組み」である。「これまではカテゴリーごとに必要だった専任の棚割担当が不要になるだけではない。最強の棚割が作れると期待している」(今村氏)という。リテールAIは効率化を進めるだけではない。提案や営業活動というこれまで人が行っていた活動も変えていく可能性があるというわけだ。

 「リテールAIは大きなコストをかけずに取り組むことができる。小売りはもちろんメーカーもいち早く取り組み、先行者利益を確保することが大事だ」と強調した。

(写真/稲垣純也)

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