日経クロストレンド創刊記念イベント「日経クロストレンド FORUM 2018」の3日目、2018年6月20日の基調講演にプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)ジャパンのスタニスラブ・ベセラ社長が登壇。「当社のボスは消費者」というポリシーに貫かれているP&G流ブランディングの今とこれからについて語った。

「私たちの活動のすべてが消費者の生活を改善するためにある。私たちのボスは消費者だ」。ベセラ氏は講演冒頭でそう語った。
実際、P&Gの商品開発は、消費者を深く理解するところから始まる。ブランドマネジャーや開発担当者が消費者の家庭を訪問して、洗濯やひげそりのやり方を観察。なぜその商品を使うのか、商品を使うことでどんな気持ちになるのかなどを聞く。
P&Gが属する消費財市場の競争は激しい。差別化のためには「ポジショニングが重要」になる。まして人口減少で大きな成長が期待できない日本の市場では、イノベーションを起こし、漸進的にせよ成長につなげることが欠かせない。その実例としてベセラ氏は2つのブランドを紹介した。
ソファを“洗う”など、新しい生活習慣を訴求
1つは、新しいカテゴリーを創出した「ファブリーズ」である。市場投入の前に消費者調査を実施したところ、ソファカバーやカーテンのように、簡単に洗えない布製品の臭いを消したいという日本特有のニーズがあることが判明した。洗濯機には到底入らないソファの利用者などを想定し、CMなどを通じて「ファブリーズで洗おう!」というキーフレーズで商品の使い方を説明。新しい生活習慣を広めた。
当初は布製品が中心だったが、今ではトイレ、リビング、玄関から車の室内などに使っているケースが増えているという。
もう1つの事例は、歴史の長い「衣料用洗剤」カテゴリーで革新を起こした「ジェルボール」である。その昔はせっけん。1950年代になると粉末洗剤、そして2000年代に主力になっている液体洗剤を経て、P&Gは「ジェルボール」という新形状の商品を打ち出した。
ジェルボールの開発に当たり、P&Gが目をつけたのは「利便性」だ。汚れ落ちや洗濯の効率は当然として、今までの衣料用洗剤は重く、頻繁に買い物をする日本の消費者にとっては持ち運びに不便という点が課題となっていた。
さらに洗濯物の量に応じて、洗剤をその都度計量しなくてはならない。海外と違って日本の家庭は温水で洗濯する人は多くなく、洗濯の時間は短い。こうした日本特有のニーズを満たすために開発したのが、日本版のジェルボールだった。
ファブリーズやジェルボールなどを通じて同社は新市場の創造に成功したが、今後も新たなカテゴリーを作れる商品開発を続けていく。「カテゴリーの拡大は、自社のビジネス成長はもとより、競合他社の参入を促し、業界全体の成長を促進することにつながる」。そうベセラ氏は話す。
ジェルボールの発売もあり、成熟市場と言われていた日本の衣料用洗剤市場は成長に転じた。消費者が洗濯する頻度は変わっていないはずだが、それでも新しい価値を創り出すことができれば、カテゴリー全体を再び成長トレンドに戻すことは可能なのだ。
「P&Gのイノベーション、コミュニケーション、つながりの中心にいるのは消費者で、商品でもブランドでもない。そうしたことを理解している社員が新しい価値を創造できた時、ブランドは成長できる」とベセラ氏は述べ、講演を締めくくった。
(写真/稲垣純也)