6月18日、「日経クロストレンド」創刊記念イベント「日経クロストレンド FORUM 2018」にて、「Amazon Goの衝撃~その先にある新たな買い物の世界~」と題し、オイシックスドット大地 執行役員の奥谷孝司氏、ABEJA マーケティングディレクター 小島英揮氏、リノシス代表取締役 神谷勇樹氏の3人によるパネルディスカッションが行われた。議論を通じて「ビジネスの根幹が変わる可能性があることが衝撃の本質だ」と指摘された。

モデレーターを担当した日経クロストレンド副編集長の山下奉仁、パネリストのオイシックスドット大地 執行役員の奥谷孝司氏、ABEJA マーケティングディレクター 小島英揮氏、リノシス代表取締役 神谷勇樹氏(左から)
モデレーターを担当した日経クロストレンド副編集長の山下奉仁、パネリストのオイシックスドット大地 執行役員の奥谷孝司氏、ABEJA マーケティングディレクター 小島英揮氏、リノシス代表取締役 神谷勇樹氏(左から)

 Amazon Goとは、米シアトルのアマゾン本社にある、レジがないコンビニだ。スマートフォンの専用アプリにアマゾンの会員IDを登録し、入り口でQRコードをかざして店舗に入る。ディープラーニングを活用した画像認識技術などを使って客が何を買ったのかを判断する。天井には約5000台ともいわれるカメラとセンサーが設置されているが、買い物をしていてその存在が気になることはない。特徴的なのは入り口がかなり広く取られている特殊なレイアウトだ。また、ゲートを入ってすぐに弁当、飲料が置かれているのも日本とは真逆の発想である(参考記事「Amazon Go“驚異的買い物体験”の秘密 ランチ調達10秒」)。

 「テクノロジーの理由からだけではなく、人の導線も考えたレイアウトなのだと思う。不思議な形ではあるが、これはこれでちゃんと理由があるはずだ」と小島氏は語る。

ABEJA マーケティングディレクター 小島英揮氏
ABEJA マーケティングディレクター 小島英揮氏

体験して分かった気持ち良さ

 驚くべきは、画像認識の精度の高さだ。神谷氏は現地でいろいろな実験をしてみたという。例えば前日買ったチョコレートを棚に戻し、また抜くといった行為だ。これは商品を補充したと間違われたり、購入したとみなされるのではないかと考えたが決済されることはなかった。また、人物の認証の精度を測るため、マスクをしてコートを着て店舗に入り、店舗内でそれらを取ってみた。それでもきちんと人物を把握できていたという。

 また、実際に体験してよかったのは、決済プロセスのない気持ち良さだ。もともとアマゾンウェブサービスのマーケティング本部長だった小島氏は次のように語る。

 「アマゾンは昔から支払い行為の極小化をずっとやっている会社だ。特許を持っているワンクリックボタンやワンプッシュで注文できるアマゾンダッシュもそういう思想から来ている。なので、レジをなくすという今回の発想も、昔からやっていることをやっているのだなと驚きはなかった」

 さらに、想像と違っていたのは、普通のコンビニに比べてスタッフが多いという点だ。スタッフが頻繁に品出しをしたり接客をしているのだ。

 「テクノロジーでレジをなくして効率化した分、違うところに人の価値を使うということを念頭に置いているのだろう。レジより接客にリソースを使ったほうが価値は高い」と神谷氏。

入り口でIDを把握する利点

 小島氏は入り口でIDを把握できることの意味の大きさを指摘する。

 「IDが分かっている人しか入れない。これが今までの店舗とは完全に違う。レジがなくなるよりもこちらのほうが重要だ。悪さをする人はアカウントを凍結してしまえばいい。万引きをチェックする必要もなくなる」

 返品がアプリ内で完結できるのもその一例だろう。アプリで返品処理をしたにもかかわらず、商品を持って帰ったとしたらすぐばれてしまう。

 また、IDがひも付けられることで、誰が何を買ったのか買わなかったのかの行動が把握できるようになる。これらのデータを使って、ECでは普通に行われている個々の顧客に対してのアプローチがAmazon Goでは可能となるのだ。買われなかったのは値段が悪いのかパッケージが悪いのかなど、改善点を探しだしそれを改善していく。

 「こういったことはネットサービスの発想だ。小売店舗がテクノロジーを使うというのとは発想が全く違う。お店の形や場所は変えられないという制約がある中で、多様化するお客様に対し、デジタルを使ってどう最適化していくかが重要になってくるだろう」と神谷氏は指摘する。

リノシス代表取締役 神谷勇樹氏
リノシス代表取締役 神谷勇樹氏

Amazon Goの衝撃の本質

 小島氏は最後に次のような問題提起をした。

 「実際に体験するととても楽でいいものだと分かる。日本でも取り入れられたらそのお店に自分も行くだろう。もし、アマゾンが同じシステムを提供しますと言ったらどうなるか。流通のトランザクションや顧客のIDが全てアマゾンに持っていかれてしまう。このようにビジネスの根幹が変わる可能性があることが衝撃の本質だと考えている」

 主なテクノロジーは画像認識技術だ。ソフトウエアの進化とともに、導入コストも飛躍的に下がる可能性がある。これについていけるのかいけないのか、もしそうなったときにどうするのか、そのシナリオ考える必要があると小島氏は指摘した。

 「実際に行ってみて体験したほうがいいと思う。アマゾンの人に話を聞くと『ネットにおける素晴らしい買い物体験をリアルにやりたいんだよね』と普通に言う。リアル店舗の運営者のみなさんはネットの買い物体験に素晴らしいものがあると考えているだろうか。それを認めて、発想を変えていく必要があると思う」と奥谷氏は語り、パネルディスカッションを締めくくった。

オイシックスドット大地 執行役員の奥谷孝司氏
オイシックスドット大地 執行役員の奥谷孝司氏

(写真/新関雅士)