Netflix(ネットフリックス)などのビデオオンデマンドサービスが隆盛を極める米国では、“テレビ離れ”の一因としてCM時間の長さが注目されている。そこで、米国のテレビ各局はCM放送時間の削減を果たすべく、CMの短尺化を検討中。最新調査で分かった短尺の「5秒CM」の広告効果とは?

テレビCMの視聴データを独自のテクノロジーで計測するTVISION INSIGHTS。同社による米国での調査で、従来より短尺の「5秒CM」の広告効果がコストパフォーマンスを考慮すると長尺CMと遜色ないことが確認された
テレビCMの視聴データを独自のテクノロジーで計測するTVISION INSIGHTS。同社による米国での調査で、従来より短尺の「5秒CM」の広告効果がコストパフォーマンスを考慮すると長尺CMと遜色ないことが確認された

 米国の大手テレビ各局が、相次いでCM枠の削減に動いている。これまで、視聴率の低迷に応じてじわじわと広告枠を増やしてきた経緯があり、現状、テレビ番組1時間当たりのCM放映時間は、実に約13分に達する。これを例えばFOXネットワークスグループでは、「2020年までに1時間当たり2分に減らす」という目標を掲げており、NBCユニバーサルも「CM枠の広告数を20%削減する」などとしている。

 この動きの背景には、Netflix(ネットフリックス)やHulu(フールー)、Amazonプライム・ビデオなどの「CMがない」ビデオオンデマンドサービス、短尺の6秒広告を中心とするYouTubeなどの台頭がある。ストレスの少ない視聴体験を提供するこれら動画サービスに対し、既存のテレビ番組の長過ぎるCM時間は視聴者の満足度を下げ、テレビ離れを引き起こす要因として問題視されているのだ。こうした動画サービスに視聴者の関心が向く現状は日本も同じで、決して「対岸の火事」ではない。

 そんななか、FOXが掲げた目標を達成すると、CMの放映時間は実に現状の6分の1。視聴者にとってはうれしい知らせだが、単純に広告枠を削減するだけでは放送局は大幅な減収に見舞われる。そこで米国では、いち早く10秒以下の超短尺CMの効果検証が進んでいる。従来の30秒、15秒のCMと同程度の効果が実証されれば、放送局はCMの放映時間を減らしても広告収入を維持でき、広告主も視聴者も満足する「三方よし」の状態をつくれるというわけだ。

カギを握る新データは「視聴質」

 そんな目論見で、17年12月~18年1月に調査を行い、3月に開催された米広告調査協会(ARF:Advertising Research Foundation)のイベントで発表された興味深いデータがある。調査を担ったのは、日米で事業を展開するスタートアップ、TVISION INSIGHTS(以下TVISION)。同社は、協力モニターの自宅のテレビ上部に付けたモーションセンサーカメラを使って、テレビの前にいる複数の視聴者の目や表情をリアルタイムで計測し、独自のアルゴリズムで分析しているユニークな企業だ。

米国で2500世帯、日本で800世帯いるモニターのテレビに取り付けたセンサーから、視聴者の顔や人体のデータをリアルタイミングでトラッキング。顔認識技術を活用してリアルな視聴態勢データを取得している
米国で2500世帯、日本で800世帯いるモニターのテレビに取り付けたセンサーから、視聴者の顔や人体のデータをリアルタイミングでトラッキング。顔認識技術を活用してリアルな視聴態勢データを取得している

 この仕組みにより、従来のテレビのオンオフを測る「視聴率」ではなく、実際にテレビの前に誰がいるか、誰の顔がテレビに向いているか(見ているか)まで詳細に把握できる。このデータを同社は、「視聴質」と表現する。例えば今回の実験期間中、「ある広告をテレビで放映し、『テレビがついた部屋にはいたもののCMを見ていなかった人』と『実際にCMを見た人』で、その後のブランド想起率を調査すると、後者のほうが18%も高かった。ピザや洗濯用洗剤、ビールなどいろいろなブランド広告で試したが、同様の傾向」と、米国法人を率いる劉 延豊(Yan Liu)氏は言う。つまり、視聴者がCMを注視しているかどうかが、広告効果を大きく左右するということだ。

1回も広告に触れていない人のブランド想起率を100とした場合、「テレビがついた部屋にはいたもののCMを見ていなかった人」は97、実際にCMを見た人は18%高い114というスコアだった(出典:TVISION INSIGHTS)
1回も広告に触れていない人のブランド想起率を100とした場合、「テレビがついた部屋にはいたもののCMを見ていなかった人」は97、実際にCMを見た人は18%高い114というスコアだった(出典:TVISION INSIGHTS)

 この知見をベースに、従来からの30秒CM、15秒CMと、短尺の5秒CMの注視度を調べたのが、下のチャートだ。30秒CMを3~5秒注視した人の割合は「24.2%」、15秒CMなら「17.6%」、5秒CMは「6.3%」だった。この数字だけ見ると、注視度の高い30秒CMのほうが、他より広告効果が高いように見える。だが、一般的に30秒CMの広告単価は15秒CMの2倍に上るため、本来なら15CMで獲得した17.6%という注視度の2倍に到達してほしいところだが、現実はそうなっていない。つまり、「広告効果とコストのバランスで考えれば、30秒CMより15秒CMのほうが優れているということ」(劉氏)だ。

5秒、15秒、30秒のテレビCMを実際に3~5秒間注視した割合から考えると、これを100%の状態に持っていくには5秒CMで「15.8回」、15秒CMで「5.7回」、30秒CMで「4.1回」かかる。広告単価を考えあわせると、30秒CMが最も効率が悪いという結果(出典:TVISION INSIGHTS)
5秒、15秒、30秒のテレビCMを実際に3~5秒間注視した割合から考えると、これを100%の状態に持っていくには5秒CMで「15.8回」、15秒CMで「5.7回」、30秒CMで「4.1回」かかる。広告単価を考えあわせると、30秒CMが最も効率が悪いという結果(出典:TVISION INSIGHTS)

 より短尺の5秒CMは、すでに米国のテレビ広告市場で枠が売り出されている。現状は15秒CMと同じ単価で販売されているというが、「いずれ下がる見込み」(劉氏)だ。仮に5秒CMが15秒CMの3分の1の単価になった場合、前出の注視度を考えあわせると、5秒CMは実質「18.9%(6.3%×3)」となり、15秒CMの「17.6%」を若干上回るため、コストパフォーマンスは5秒CMのほうが高いと見ることもできる。「これまでは注視度に着目するなど、CM効果について科学的な検証がされていなかったため、慣習的に15秒、30秒CM枠だけが売られてきた。しかし、今回の調査で短尺CMの効果を初めて確認できた。CM放映時間の短縮という命題を前にした米国のテレビ各局は、今後一層、短尺CMの取り組みを強化するだろう」と劉氏は説明する。

 もちろん、これから5秒CMばかりが流れるわけではない。米国で放映された短尺CMでは、商品名を連呼する、印象的な音を流すだけといった簡素なものが多い。乾電池大手のDURACELLの6秒CMは、ブランド名が大きく書かれた商品を印象的に打ち出しながら、「This is NO.1 Trusted Brand」とアナウンスしている。極めて短いため、ストーリー性を持たせることはできず、工夫の余地は少ないのが実情だ。そのため、例えば1時間番組で2分のCM枠がある場合、そのうち30秒を5秒CMに振り分け(6本)、15秒CM×4本、30秒CM×1本といった組み合わせが現実的になるだろう。

 「短尺CMに適したクリエイティブの在り方は、まだ研究の余地がある。しかし、例えば視聴者が若い女性だったらその層に人気の男性タレントを起用すれば当然注視度は上がるし、スポーツ中継で流れるCMで応援するチームや選手が出ているなど、視聴者が求める文脈に沿ったCMづくりをすることが一つの突破口になる」(劉氏)という。

 いち早く米国で巻き起こるテレビCMの短尺化の流れと、それを補完する新たなデータ活用のトレンド。その余波は今後、日本にも訪れるかもしれない。これまでのように経験則でCM枠を確保したり、CM制作を続けるのではなく、テレビの施策にもネット広告並みのデータドリブンな発想が必要になる。

米DURACELLの6秒CM