アパレル「チャオパニック」「ガリャルダガランテ」や雑貨「スリーコインズ」などの専門店を全国に935店舗展開するパルが2018年3月17日、和歌山県白浜町にアウトドア型のサバイバルゲーム(サバゲー)施設をオープンした。サファリランドや温泉、海水浴場などがそろった、関西の人気行楽地である白浜に新たな観光スポットとして登場。サバゲーは数年前にブームになり、都心にも気軽に楽しめる施設が増えた。しかしなぜ今、アパレル企業がサバゲー施設を運営するのか、現地に潜入して探った。

サバゲーは敵と味方に分かれて銃を撃ち合うゲーム。体に弾が当たると退場しなければならない
サバゲーは敵と味方に分かれて銃を撃ち合うゲーム。体に弾が当たると退場しなければならない

ガンマニアから初心者、女性も

 JR新大阪駅から「特急くろしお」に乗って約2時間半、さらにJR白浜駅から路線バスで約10分。有名な白良浜海水浴場や三段壁などの観光スポットに向かう途中に、近畿大学水産研究所が所有する養殖実験場がある。その横道を少し山あいに向かって歩くと、パルが運営するサバイバルゲーム施設「イコラパークス」のエントランスが見えてきた。

 施設全体の総面積は約3万坪。小高い山の谷間に広がる自然のままの広大な土地を利用したアウトドアの複合レジャー施設だ。サバゲーだけでなく、エアソフトガンのシューティング場とBBQ場、キャンプ場(夏季限定オープンの予定)を設け、サバゲー未経験者も気軽に遊べる内容になっている。

 オープン2日目に集まった参加者は、ほとんどが迷彩服で決めたサバゲーマニアの男性客だった。ゲームに必要なエアソフトガンも自前のものを持参して参加。年齢は中学生から40代くらいまでで、カップル客もちらほらいる。この日は予想以上にマニアの参加が多かったが、オープン以来、初心者や女性チームの参加も増えているという。

アパレル企業のパルグループが初めて展開するアウトドアレジャー施設「イコラパークス」は白浜ICから車で15分、JR白浜駅からは車で約10分。意外とアクセスしやすい立地にある
アパレル企業のパルグループが初めて展開するアウトドアレジャー施設「イコラパークス」は白浜ICから車で15分、JR白浜駅からは車で約10分。意外とアクセスしやすい立地にある
山間の約3万坪の広大な敷地に複合レジャー施設を開発。サバイバルゲーム(サバゲー)場のほかに、シューティング場、BBQ場、キャンプ場がある
山間の約3万坪の広大な敷地に複合レジャー施設を開発。サバイバルゲーム(サバゲー)場のほかに、シューティング場、BBQ場、キャンプ場がある
アウトドアのサバゲー施設の場合、完全装備で参加する男性マニアが圧倒的に多いが、最近では若い女性や会社のレクリエーションで参加する人が増えている
アウトドアのサバゲー施設の場合、完全装備で参加する男性マニアが圧倒的に多いが、最近では若い女性や会社のレクリエーションで参加する人が増えている
サバイバルゲーム未体験者でも本格的なシューティングゲームを楽しめる「シューティングパーク」。上級者向けの実践演習エリアも用意。30分コースはハンドガン、電動アサルトライフルなどのレンタル料込みで300発800円
サバイバルゲーム未体験者でも本格的なシューティングゲームを楽しめる「シューティングパーク」。上級者向けの実践演習エリアも用意。30分コースはハンドガン、電動アサルトライフルなどのレンタル料込みで300発800円
遠方から来た観光客や初心者も気軽に参加できるよう、銃やウエアのレンタルも豊富に取りそろえている。アサルトライフル2000円、ウエア1000円など
遠方から来た観光客や初心者も気軽に参加できるよう、銃やウエアのレンタルも豊富に取りそろえている。アサルトライフル2000円、ウエア1000円など

店舗づくりのノウハウ生かしたリアルな演出

 サバゲーはエアソフトガンを使って撃ち合う“大人のゲーム”だ。2チームに分かれて勝敗を決める。敵陣のフラッグを取る陣取り合戦が基本で、敵に弾を命中させて全員倒すと勝ちなどといったさまざまなルールがある。

 イコラパークの場合、ゲームは1回15分。参加人数は最低4人から80人まで。休憩をはさんで1日何回もゲームがあり、途中参加も可能だ。知らない者同士がチームになって戦うこともあり、他人と交流できるのも楽しみの一つといえる。

 陣取りが繰り広げられるフィールドを見学すると、そこにはちょっとした映画のセットのような空間が広がっていた。トタン板の古びた民家や歓楽街、蚤の市に秘密基地、諜報室……。映画『スワロウテイル』に登場する無国籍風の架空の街のようだ。

 間取りや小道具などへのこだわりように、地元・和歌山から参加したカップル客は驚きを隠せない。「ツイッターで公開している製作過程を見たが、ここまで凝ったフィールドは初めて。屋外施設の場合は風の向きまで考えて攻めないといけないし、いままでと違うリアルな感覚を体験できるのが良い」。

 イコラパークスのPRを担当する同社の白井亮氏は、その点についてこう説明する。「非現実を楽しんでもらうためには、いかにリアルな仮想空間を作り出すかがポイント。巨大迷路のような区画のなかに部屋のセットを作った。すべて自分たちの手で製作。ずっとアパレルや雑貨の店を作ってきたので、店舗演出のノウハウを生かせた」という。

 実際にフィールドでの接近戦を間近で見ると、「ダダダダダッ」というエアガンの迫力ある銃声が耳に響いてきて臨場感たっぷり。場内ではイスラム音楽のBGMがいっそう雰囲気を盛り上げる。「緊張感があり、ドキドキしながらも遠くから狙ってヒットするとすごくうれしい。これはゲームだけど、適度に動くのでスポーツでもある。日ごろのストレスも発散される」と、さきほどのカップル客が話してくれた。2人は約3年前から社内の同僚ら数人とサバゲーを始めたという。「これまでは休業日に大阪・泉佐野のアウトドア施設に行っていたが、ここだと仕事が終わってからでも来られるので毎週でも来たい」と、かなり気に入った様子だ。

山あいの空き地に出現したサバゲーフィールド「ジャングルベースパーク」。基地と市街地での攻防戦を楽しめる。基本料金は土日祝日の場合、10~16時、一般3500円、女性・中高生2200円、小学生以下無料
山あいの空き地に出現したサバゲーフィールド「ジャングルベースパーク」。基地と市街地での攻防戦を楽しめる。基本料金は土日祝日の場合、10~16時、一般3500円、女性・中高生2200円、小学生以下無料
このボタンを押すと敵の陣地を奪ったことになり、ゲーム終了に
このボタンを押すと敵の陣地を奪ったことになり、ゲーム終了に
市街地のセットには蚤の市や民家があり、巨大迷路のような空間のなかにキッチンやリビングなどの舞台セットを用意した
市街地のセットには蚤の市や民家があり、巨大迷路のような空間のなかにキッチンやリビングなどの舞台セットを用意した

なぜパルグループが白浜でサバゲーなのか

 パルグループは2018年2月期決算で好業績を発表しており、低迷するファッション業界の中で珍しい勝ち組だ。

 トレンドをいち早く発見し、事業に育てることを得意としてきた。50近いブランドを展開し、トレンドに左右されない安定した企業経営を強みとしている。最近では300円ショップ「スリーコインズ」がプチプラ雑貨ブームで急成長し、240億円規模のブランドに成長した。しかし、ファッション業界が先行き不透明な今、パルグループがアパレルや雑貨以外の分野での新たな事業として白羽の矢を立てたのがサバゲー施設というわけだ。

 かつては一部のマニアだけの遊びだったサバゲーが一般に広まったのは2006年。銃刀法の改正で規制が厳しくなり、野山や空き地でできなくなったのがきっかけだ。代わりに、有料の専用フィールドが相次ぎ開業し、サバゲー人口が急増した。5年ほど前まで関西には十数軒しかなかったが、都心のインドア型施設も含めて続々とオープン。一時のブームは収まったが、アニメやゲームの影響でサバゲーにハマる女性や、メイド衣装などのコスプレを楽しむサバゲー女子が増えている。「サバゲーはマニアだけのものではなくなっている。全体の人口はここ数年横ばいだが、レジャーとして成長するポテンシャルは高い。まずはシューティングを経験してもらい、気軽に楽しめるスポーツだということをアピールしてサバゲー人口を増やしていきたい」と白井氏。

 入場者数はオープンから3カ月で600人程度。大々的な告知はしておらず、ほぼサバゲー愛好者の口コミによるものだという。海水浴場のメインシーズンとなる夏に向け、来場客はさらに増える見込みだ。

 同社はもともと障害者雇用を目的に取得した宿泊施設を白浜に所有しており、地域を巻き込んだ地域振興事業に育てていきたいという思惑もある。「白浜には年間330万人の観光客が訪れる。外国人観光客も増えているにもかかわらず、この何年も観光スポットが生まれていない。白浜で成功モデルを確立できれば、全国で進む観光地の過疎化に対応した地方振興事業として本格的に拡大していきたい」(同)。そのために施設内のイベントはもちろん、宿泊施設とのパックツアーやレンタル自転車での周遊プランなど、街全体の活性化につながる企画を積極的に打ち出していく計画だ。

 県内唯一の空港である南紀白浜空港では近い将来、格安航空会社(LCC)を就航させる構想が動きだしており、インバウンド(訪日外国人)も含めた観光客数はさらに増加すると見られている。手探りで始まったレジャー観光事業だが、アパレルで培ったノウハウを生かして軌道に乗せられるのか。その手腕が試されている。

アニメがきっかけで銃が好きになり、3年前から友達とサバゲーを楽しんでいるという女性は自前の銃で参加
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白浜は温泉地としても有名で、香港などアジアからの観光客が増えている。インバウンド向けの新しいスポットとしても期待できそう
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三段壁や千畳敷といった観光名所にも、路線バスで行ける。他の観光施設と連携することで、街全体の活性化を目指している
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