長きにわたり、クックパッドが“巨人”として君臨しているレシピサイトの分野で、1分間のレシピ動画を武器に急速に頭角を現してきたのが「DELISH KITCHEN」を運営するエブリーだ。エブリー(東京・港区)の創業者の一人で、DELISH KITCHENの編集長を務める菅原千遥氏に同社の成長の理由を聞いた。


「DELISH KITCHEN」は、料理の一通りの手順を1分ほどの動画で見せるサービス。スマートフォンで見ることを前提に、見やすさ、分かりやすさを追求した動画と、Facebook、Twitter、InstagramなどのSNSでファンを集める拡散力で、20~40代の女性を中心に高い支持を集めている(関連記事:「レシピ動画成長の理由 プロが制作、視聴は1分」)。
DELISH KITCHENは2015年9月にサービスを開始しました。当初、サイトやアプリを持たず、SNSで拡散する分散型メディアとしてスタートしたのはなぜでしょう?

菅原千遥氏(以下、菅原氏) サービスをスタートしたのは、YouTuberが流行し始めた頃でした。とはいえ、多くの人はまだ動画を見慣れていなかったんです。動画を見るときはどうしても「動画を見るぞ」と構えてしまう状況でした。時を同じくしてFacebookなどSNSでの動画の自動再生が始まり、SNSだと自然に流れてくるので受け入れられやすいと考えたのがきっかけです。
それに、今、多くの人はスマートフォンを触っている時間の大半をSNSに費やしていると思います。一番早くユーザーに接触できて、しかもいいと思えば拡散してもらえる。SNSの強みだと思います。ユーザー数やレシピ数が増えてアプリも作りました。SNSはどうしても公開したレシピが流れていってしまいますから、公開済みのレシピを検索したりするのにはアプリが便利なんです。
社内の専門家が考えたレシピで味を担保
レシピサイトとしてはクックパッドが有名ですが、それとの差異化はどう考えていますか?
菅原氏 クックパッドは一般の人が自作のレシピなどを投稿するタイプのサイトです。レシピの本数や種類が多く、ユーザーが食材や作りたい料理から自分で検索して使えるのが強みです。一方で、おいしさやその料理に必要なスキルなどには差があります。
DELISH KITCHENは、社内の料理研究家や栄養士など、料理の専門家が考えたレシピを投稿しています。レシピ数はクックパッドのように多くありませんが、おいしく簡単なレシピを厳選し、提案する形です。今は結婚して子供ができても働いている女性が多いですから、通勤中の電車の中で、今日の献立を考える参考にしてもらえるように工夫しています。動画だけを売りにすると、クックパッドが動画を始めたら終わりと思っていたので、立ち位置の違いはかなり意識しました。

動画レシピを作るうえで意識していることはありますか?
菅原氏 一番重視しているのは、分かりやすいことです。おしゃれに撮りたい、かっこよく撮りたいという意識がないわけではありませんが、そうするとこちらのイメージの押し付けになりがちです。また、おいしく見えるようにと色味を整え過ぎると、料理が完成したとき、自分が作ったものと違うように見えて、「失敗したかな」と不安になるユーザーもいます。ですから、なるべく実際の色に近くなるようにライティングを工夫しています。そのために、動画撮影についてはたくさんのルールを作りました。
あとは、誰がどういう環境で見るのか。今はスマホで見ている人が多いと思うのですが、スマホの画面は縦の動きが多いんです。ですから包丁や材料を画面に映すときも、上下方向から出し入れするようにしています。動画によって、どこでユーザーが離脱しやすいかの分析も欠かしません。
Facebook、Twitter、Instagramなど、SNSによって投稿するレシピを分けているという話も聞きました。
菅原氏 SNSはそれぞれ利用している層が異なり、好まれるレシピも違います。例えば、Facebookなら30~40代が中心。栄養価なども高くボリュームもある、いわゆる“茶色い料理”が好まれます。Twitterは10~20代が多いですから、かわいいスイーツなどが人気。アプリでは副菜の人気が高いですね。同じレシピを投稿する場合でも、サムネイルの写真などはそれぞれのSNSの好みの傾向によって変えたりしています。
今後、新たに取り組みたいことはありますか。
菅原氏 今、注力しているのは付加機能の開発です。例えば、DELISH KITCHENのレシピと連動してスーパーマーケットの特売情報を配信したり、レシピから簡単に買い物リストを作り、足りないものはアマゾンフレッシュで注文できるようにしたりといった機能です。DELISH KITCHENでは、食品メーカーやスーパーマーケットなどの小売りとも連動してビジネスを広げていけたらと考えています。