ココナツオイルブームを牽引した食品メーカーのブラウンシュガーファースト(東京・渋谷)。現在は、ココナツオイルに加え、アップルソースやコーヒー、飲料、菓子などさまざまなオーガニック食品の企画、製造、販売を手掛ける。2011年に20万円の元手で立ち上げた会社は、年商7億円にまで成長。現在は、他社も巻き込み、フードロス問題にも取り組む。ココナツオイルなど日本ではなじみの薄かった食品をどのように普及させ、女性を中心に同社の知名度やブランド力を上げてきたのか。荻野みどり社長に聞いた。キーワードはストーリーとデザインだ。

ブラウンシュガーファーストがココナツオイルの販売を手がけた当初、ココナツオイルは日本では非常に知名度が低い食材でした。目をつけたきっかけは?
荻野みどり社長(以下、荻野社長) ブラウンシュガーファーストはもともと、子供に食べさせても安心なお菓子を販売するところから始まったんです。そのための食材などを探しているうちに、巡り合ったのがココナツオイルでした。その時期、バターが不足していたこと、トランス脂肪酸の健康への悪影響が問題になっていたこともあり、バター代わりに使える良質な油としてココナツオイルに目をつけました。
当時はミランダ・カーなどのハリウッドセレブ、日本では道端ジェシカさんなど健康や美容への意識が高いモデルが利用している程度でした。

そこからココナツオイルの知名度を上げ、ブームにまで結びつけるにはどんな取り組みをしたのでしょう?
荻野社長 ココナツオイルについて知ってもらうために、主に2つの軸から取り組みました。一つは美容のアプローチからのPR。興味を持ってもらうには、やはり雑誌など大きな媒体に露出しないとダメです。そこはPRプランナーの力を借りて、売り込みました。
もう一つは、販売ルートの確保です。雑誌などで露出しようにも、ごく普通に手に入る、一般に売っているものでなければ取り上げてはもらえませんし、せっかく知って興味を持ってくれた人の手にも届きません。そのため、スーパーマーケットに納品することを目指して、アジア最大級の食品・飲料専門展示会「FOODEX」に出品したり、ココナツオイルの食べ方や良さをメディア関係者や食品業界の人たちに知ってもらうために試食会なども頻繁に行いました。
そのときに意識したのは、目的と用途を絞り込んで具体化すること。ココナツオイルって栄養面でも用途の意味でもいいところがたくさんあり過ぎるんですよ(笑)。あれもこれもとアピールすると分かりにくくなってしまうので、最初は「今使っているバターやマーガリンの代わりに使ってみませんか」というメッセージだけを発信しました。トーストに塗って食べるとか、そんな用途ですね。
商品を買ってもらうためには共感が必要
自社の製品をブランディングしていく上で、荻野社長が重視していることは何でしょう?
荻野社長 まずは、商品の背景にあるストーリーをきちんと掘り下げて伝えることですね。今はよく「モノ」より「コト」の時代といわれます。私たちにとって「コト」を掘り下げたものがストーリーです。その商品を販売している私たちの理念や、背景にある思い、顧客の皆さんが抱えている疑問、不便さ。そういったものをきちんとすくい上げ、伝えることで、共感が得られる。
SNSはそれと相性がいいツールです。共感が拡散されやすいですから。ただ、SNS映えするかどうかは非常に表面的な問題。ストーリーがあって初めて効果を持つのだと思います。
もう一つがデザインです。私たちと理念を共有してくれる人にはストーリーはとても伝えやすいのですが、皆さんがそうではありません。例えば、健康や食の安全に関心がある人には私たちが発信するストーリーは伝わりやすいけれど、興味がない人もいる。そういう人たちに知ってもらうためにデザインがあると思います。
一般に、健康にいいといわれる食品は、パッケージにこれでもかというくらい情報が書き込まれていることが多いのですが、当社のパッケージはそういった要素よりもデザインに重きを置いています。「かわいいな」「おしゃれだな」「キッチンに置きたいな」と感覚的に共感するところから入って、まずは手に取ってもらいたい。そこから、商品に込められた理念を理解してもらいたいと思っています。
ブラウンシュガーファーストの食品は高級スーパーなどにも並び、オーガニック食品のブランドとしての立ち位置を確立してきました。今後、取り組んでいきたいことは?
荻野社長 オーガニックの食品をもっと手軽においしく楽しんでもらえるようにしたいですね。最近は当社のブランドを信頼して、小売店から売り場の棚を1つ任せるから、オーガニックのコーナーを作ってほしいという依頼を受けることも増えてきました。良質な食品を作ってくださる生産者や製造業者は多数いらっしゃるので、そういう方たちと組み、当社が企画やPR、パッケージデザイン、営業などを手掛けて商品を提供していけたらと考えています。