さまざまな色覚の人がより区別しやすくなった新しい安全色
さまざまな色覚の人がより区別しやすくなった新しい安全色

 2018年4月、「安全色」と呼ぶ6色を定めた日本工業規格(JIS)が改正された。「多様な色覚を持つ人が識別できる色(ユニバーサルデザインカラー)」を採用し、訪日外国人を含め、多くの人々の安全の確保と利便性の向上を図るのが狙い。

 改正の背景には2020年の東京オリンピック・パラリンピックがある。一大イベントを間近に控え、交通機関や各種施設では、海外からの旅行者にも分かりやすくするための案内表示・安全標識の整備が進んでいる。中でも安全色は重要であり、一目で「安全」「危険・禁止」「注意」が理解されなければ、大きな事故につながりかねない。

 JISが定める安全色は主に標識などに使われ、危険を示す黄色、安全を示す緑など6色を指定するものだ。標識だけでなく、公共交通機関、一般施設などの案内用表示板、危険の程度を表す色区分といった日頃の生活の中で目にする表示や、製品の塗り分けなどでも多く使用されている。

 ところが、人間の色覚は一様ではない。遺伝的多様性によって、網膜上の色を感じる細胞の一部を持たなかったり、波長特性が異なっていたりする1型・2型色覚という人がいる。また視力が低かったり視野が狭かったりするロービジョンの人、白内障で水晶体が変色している人もいる。こうした人たちは日本だけで合計数百万人に上り、一般的な色覚の人にははっきりと識別できる2つの色が、見分けにくく感じられることがある。

 今回の改正では初めて、多様な色覚特性の人々に協力してもらって本格的な調査を実施し、その結果を規格に採用した。調査では、一般的な色覚、白内障、緑内障、網膜色素変性、1型・2型・3型色覚など、さまざまな色覚特性の持ち主に、実際のカラーチップを使って、色同士の見分けやすさを検証してもらった。その結果を基に、一部の人にとって見分けにくい色を区別しやすくするための色調整を行った。

 改正後の色の中から、見分けにくさを生じることが多い14パターンの色の組み合わせについて、さまざまな色覚の人132人に比較してもらったところ、「色の違いがすぐ分かる」という回答が旧JISの72%から85%に改善。「色の違いがとても分かりにくい」という回答は11%から3%へ大きく減少した。

現実の塗料などではブレが生じるため、色の許容範囲も規定し直した(左)。さらに信号に使われる光源の色についても1型・2型色覚、ロービジョンの人への配慮を盛り込んで色の範囲を見直した(右)。JIS規格番号は「Z 9103」
現実の塗料などではブレが生じるため、色の許容範囲も規定し直した(左)。さらに信号に使われる光源の色についても1型・2型色覚、ロービジョンの人への配慮を盛り込んで色の範囲を見直した(右)。JIS規格番号は「Z 9103」
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