ソニー発ベンチャーのambie(アンビー)が2017年に発売し、「ながら聴きイヤホン」として話題になった「ambie sound earcuffs」のワイヤレスバージョン「wireless earcuffs」が登場した。18年4月の発売後、好調なスタートを見せている。
このイヤホンは、耳を完全に塞いでしまわずに、耳たぶを挟む形で装着するイヤーカフ型。音楽を聴いているときも生活音や人の声が遮断されないため、「ながら聴き」が可能となる。ワイヤレス化により、着けていることを忘れるような装着感を目指した。
プロジェクトリーダーとして、開発からマーケティングまで中心となって進めてきたのは、ambieの三原良太ディレクター。「コンセプトは『人生にBGMをつける』。どこから音楽が聞こえてくるかを意識しない状態をつくり出し、音楽に没入するのではなく、生活に音楽を添える楽しみを新しい体験として生み出したかった。ワイヤレスモデルではこのコンセプトをより強調できている」と話す。実は三原氏はambieに出向しているが、ソニーの社員。このプロジェクトのユニークさは、商品だけでなく、開発経緯や組織にもある。
ソニーとWiLのジョイントベンチャー
ambieはベンチャーキャピタルのWiLとソニービデオ&サウンドプロダクツの出資を受けて17年1月に設立されたジョイントベンチャー。ここ数年、ソニーは社内ベンチャーを数多く立ち上げているが、社員がベンチャーに出向する例は珍しい。勤務規定などをどうすべきか、誰も分からない状態から始め、三原氏らがソニーの人事部や所属部署の上司らと話し合って手探りで進めてきた。ソニー側も新しいケーススタディとして後押ししてくれたという。
技術的にもソニーの資産をうまく利用している。ambie sound earcuffsが搭載するスピーカーユニットはソニーの音響技術を活用し、今回のワイヤレスモデルもソニーが培ってきた構造設計手法や技術を踏襲している。しかし、逆にマーケティングやPRは独自に動き、有線モデルの発売時は蔦屋家電やBEAMSなど、ライフスタイル系ショップだけで展開した。「ベンチャー的な動き方もできるし、ソニーの技術者やデザイナーに相談できるのも強み」と三原氏は言う。
自ら切り拓いた「ながら聴き」市場
今回発売したワイヤレスモデルは、ambieが当初から狙っていた着地点だった。実は三原氏が初めて出資元のWiLへプレゼンテーションしたプロトタイプがワイヤレスモデル。しかし、それをいきなり市場に出すことには、いくつかの障壁があった。
まず、初期投資リスクの問題。有線モデルに比べるとワイヤレスモデルは倍以上の価格設定になり、未知数の市場にいきなり1万円台の商品を開発して投入することには、WiLもリスクを感じていた。もう一つは、「ながら聴き」というコンセプトをユーザーへ伝える難しさだった。プロトタイプによるユーザー調査では、ワイヤレスモデルは「無線」という点にユーザーの目が行き、有線モデルよりも「ながら聴き」のコンセプトが理解されにくかったという。
そこで、先に有線モデルを発売。その体験価値をユーザーがSNSなどで発信することで話題が拡散した後、ワイヤレスモデルを投入することにした。ワイヤレスモデルは、有線モデルを既に購入した人が購入したり、ユーザーの口コミを見た人が購入したりする例が多いという。
「ワイヤレス自体は技術として特に新しいものではないが、ユーザーにとっては『ながら聴き』のメリットを一番感じられるもの。今後もambieとしてはハードウエアやソフトウエアなどの形にこだわらず、生活に彩りを添えられるものを発信したい」と三原氏は話す。
2010年ソニーに入社。17年、ソニービデオ&サウンドプロダクツとWiLのジョイントベンチャーとしてambieを立ち上げる。ambie sound earcuffsの開発から流通、マーケティングまでリーダーとして担当