デザインへの期待、デザイナーの役割が大きく変容しつつある。気候変動問題をきっかけにグローバルで広がりつつあるこの変化に、我々はどう対応すべきか。3年ぶりに来日した、デザイン思考の先導者でIDEOのco-Chair(共同会長)であるティム・ブラウン氏と、IDEO Tokyoの共同代表・野々村健一氏の特別インタビュー後編。

▼前編はこちら 時代の大きな変化の中でチャンスをつかむために、デザインが力を発揮できる
Tim Brown(ティム・ブラウン)氏(右)
IDEO 共同会長
戦略事業組織 kyu 副会長。デザインを通じて、企業の組織改革や、病院・大学・NPOのサポートなど、世界のさまざまな地域の社会問題の解決に取り組む。著書に『デザイン思考が世界を変える』など

野々村 健一(ののむら けんいち)氏(左)
IDEO Tokyo 共同代表
IDEOマネージングディレクター。D4Vファウンダー。トヨタ自動車で海外営業や商品企画を担当。米ハーバードビジネススクール、慶応義塾大学総合政策学部卒業

――変化の最大の要因は気候変動ということでしたが、ほかにも重要なトピックはありますか?

ティム・ブラウン氏(以下、ブラウン) デザインにも影響の大きい要因として、幅広い人たち(ダイバーシティー)に対する公平性(エクイティー)と包摂(インクルージョン)があります。

 これらは気候変動ともつながっています。というのは、気候変動で最も打撃を受けるのは、恵まれない人たちだからです。これは米国や日本のような富める国の中でもそうだし、世界の中で富に恵まれない国や地域についても言えることです。

1つの社会としての結合力を保つために

ブラウン 英国ではここ1年ほどで光熱費が2倍に上がりました。最も深刻な影響を受けたのは恵まれない人であり、ホームレスの人たちです。グローバル視点であれ、1つの国の中であれ、社会の最も脆弱な部分─この人たちのためにデザインをしなくてはなりません。

 比較的恵まれている自分たちの同類だけを見てデザインを続けていれば、ますます社会の分断に加担することになり、最終的には社会全体が結合力を保てなくなります。これは社会を構成する全員にとって良くない結果を招きます。

 デザインをより良い社会のために役立てたいと思うなら──私の場合はこれが常に根底にありますが──、可能な限り多くの人にとって良い社会をつくりたい。そのためには、最も恵まれない人たちのためにデザインをしなくてはならないのです。

――1つの国やコミュニティーの中でも、全世界の中でも、ということですね。

ブラウン そうです。私たちがデザインをするとき、とかく自分と似たような人を想定してデザインしがちで、それが問題を招くこともあります。ジェンダーの問題もそうです。女性が使うものなのに、デザインしているのは男性ばかりだったりしますよね。

 これが特に問題になるのが、例えばホームレスや病気の人のためのデザインです。自分たちと最もかけ離れた人たちを目標にしなくてはならないからです。

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