2021年12月10日に開催される日経クロストレンドと日経MJ共同の無料オンラインセミナー「2025年 ヒット商品の条件は」にクリエイティブディレクターの辻愛沙子氏が登壇する。今後の消費の鍵を握るといわれるZ世代の価値観をいかにして把握し、どうアプローチしていくべきか。そのヒントを提示する講演に先駆け、辻氏に話を聞いた。
arca CEO/Creative Director
──2021年9月にオープンした西武渋谷店のOMO(オンラインとオフラインの融合)ストア「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベースシブヤ)」で、辻さんはコンセプト策定や空間ディレクションなどを担いました。「意味に出合い、意志を買う」と掲げ、半年ごとに注目すべき編集テーマを設ける“メディア型”の新しい売り場です(関連記事:「西武渋谷店、Z世代『なぜ百貨店に行く?』に回答 3つの課題克服」)。
第1弾のテーマは「タイムリミット」。サステナブルな商品やD2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)ブランドを扱う小売店は出てきていますが、チューズベースはどこか違う印象です。今回、「アンサー(答え)」ではなく、選択を意味する「チューズ」を標榜した背景は何ですか。
「答え」を提案するより、「問い」を立てたいと考えました。今はサステナブルなモノを一つとっても、まだまだ選択肢が少なく、価格帯も高め。少し豊かな人たちの選択肢という感覚が、まだ強いと思います。また、世界観やクリエイティブの観点でも、まだ選択肢が少ないように感じています。
例えば、オーガニックと聞くと「生成り(きなり)」や「丁寧な暮らし」といったイメージがどうしても先行しがち。消費者が購買においてエシカルな選択を大事にしようとすると、世界観と価格に縛りが出てしまうというのが現状だと考えています。
今はまだ時代の過渡期。そこで、サステナブルな購買における価格や世界観の多様性を少しでも広げていくことや、既にあるけれどまだ知られていない選択肢を届けていくことが売り場として大事なのではないかと考えました。だからこそ、売り場が「これを選ぶべきだ」という上から目線の説教臭いお薦めをするのではなく、1つのテーマに対してブランドや消費者とともに考え、それぞれが意志を持ってそれぞれの選択をする、という体験が重要なのではないかなと。
つまり、みんなで考える、自らの意志で選ぶことが重要です。社会課題を拾い上げるようにして点(実践するブランド)を線でつないで面(売り場)にし、時代を変える空気をつくっていきたいという思いから「チューズベース」としました。
また、店舗がメディアのような存在になることも意識しました。未来の社会や消費にとって必要な、あるいは今考えていかなければいけない編集テーマを中心に、半年ごとにMD(マーチャンダイジング)やクリエイティブが変わっていく、雑誌の特集のようなイメージです。デモグラフィック的な訴求ではなく、社会に対する価値観軸での訴求を目指しています。
その時代だから切り取れる感覚を大切にし、さらにこれから先に求められるものを提示しながら作っていくのがメディアの役割。渋谷を1つのメディアとして捉えたとき、購買体験を通して何を伝えたいのか。そこでチューズベースでは半年に1回コンセプトを変えて、「この先にどんな未来があるのか」を提案したいと思いました。
初回のテーマを「タイムリミット」にしたのも、「サステナビリティー」というキーワードで規定されるよりも、すべての人が当事者意識を持ち、人によってさまざまな解釈ができる言葉だからです。そこには、人それぞれが考える余白があります。
店舗のレイアウトも渋谷のスクランブル交差点をイメージして、一方通行にはしませんでした。好きなところから入って、好きなところに出られる。興味がない売り場は見なくてもいいし、深く知りたいと思えば、陳列台に並ぶQRコードからWebサイトに飛んで、いくらでもその世界観に“潜れる”ように設計しています。
消費者の属性ではなく「価値観」で考える
──チューズベースは普段、あまり百貨店に接点がないZ世代もターゲットにしています。この世代に共通する消費傾向はありますか。
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