2021年8月24日の東京パラリンピック開会式は、「パラ・エアポート」を舞台設定とし、「風」と「エアポート」をモチーフとした一貫したメッセージで見る人を引きつけた。東京2020パラリンピック開会式 選手入場シーン クリエイティブプランナーの田中直基氏とセレモニープロデューサーの藍耕平氏に、企画や演出の舞台裏について聞いた。

選手団の入場後、会場に並んだ多彩な国の国旗から風が吹くようにさまざまな色が飛び出し、カラフルな花火が打ち上げられた。この演出も田中氏が手掛けている(写真提供/OLYMPIC INFORMATION SERVICES)
選手団の入場後、会場に並んだ多彩な国の国旗から風が吹くようにさまざまな色が飛び出し、カラフルな花火が打ち上げられた。この演出も田中氏が手掛けている(写真提供/OLYMPIC INFORMATION SERVICES)

――東京パラリンピックの開会式はテレビを通して多くの方が視聴し、SNSでも好感を持って受け入れるコメントが数多く見られました。演出する上で最も意識したことは何ですか?

田中直基氏(以下、田中) 開会式の演出によって、多くの人がパラリンピックを見たくなるといいなと思いました。つまり、選手や競技をいかに魅力的に伝えていくか。この思考プロセスはは広告制作にも通ずることで、結局「見る人がすべて」なんです。作り手のエゴは押し付けずに、あくまでも見た人の気持ちがどう動くのか、という点を意識しました。

 なかでも選手入場のパートは1時間半という長丁場なので、見ている人たちをいかに飽きさせずに、かつ選手が魅力的に見えるにはどうすればいいかを考えて演出しましたね。

藍耕平氏(以下、藍) 東京パラリンピック開会式全体のコンセプトとして「WE HAVE WINGS」があったので、選手入場パートでそのコンセプトをどのように表現したら前後の文脈につなげられるか考えていました。映像やプロジェクションマッピングなど、各演出が一貫したテーマに沿って作られているので、見た人に伝わったと思います。

田中 直基氏
東京2020パラリンピック開会式 選手入場シーン クリエイティブプランナー
1979年生まれ。上智大学大学院理工学研究科卒業。Dentsu Lab Tokyoクリエーティブディレクター。言葉、映像、デザイン、テクノロジーなど、課題に適した手段でニュートラルに企画することを得意としている。主な仕事にAI監視社会におけるカモフラージュ手段としての技術「UNLABELED」、アンドロイドタレント「マツコロイド」、NHKのAI野球解説システム「ZUNO」、Eテレ「デザインあ」、サントリー「話そう。」、YouTube「好きなことで、生きていく。」など。受賞歴に文化庁メディア芸術祭審査員特別作品、グッドデザイン賞、カンヌライオンズなど。

――開会式の選手入場パートを田中さんが担当することになった経緯を教えてください。

田中 もともと藍プロデューサーが開会式の演出に携わっていて、彼から声がかかりました。

 話が少し前後しますが、田中クリエイティブプランナーは「スポーツプレゼンテーション」と呼ばれる、観客が入場してから退場するまでの会場内の演出デザインを担当していて、その中で「Portrait Kit(ポートレートキット)」というアプリを使ったプロジェクトを進めていました。

 五輪とパラリンピックの会場では、選手が入場すると、会場のビジョンに選手の顔と名前が映し出されました。当初は、競技の前にカメラマンがグリーンバックで撮影する予定だったのです。ところが、撮影のために選手が列をつくることになるので、コロナ禍では実施が難しい。そこで、アプリを使って選手が自ら撮影できる仕組みをつくったのです。

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