カルビーの「Jagabee(じゃがビー)」のパッケージに描かれたじゃがいもや、「無印良品」店内POPの「不揃い バナナバウム」のイラスト。2021年3月に発売となった昭和産業の「まんまるおおきなホットケーキのもと」のパッケージは、フライパンいっぱいに広がるふっくらしたホットケーキのイラストとともにSNSで大きな話題を呼んだ。これらのイラストを手掛けたのが、彦坂木版工房だ。

彦坂木版工房(ひこさかもくはんこうぼう)
2010年に彦坂有紀(左)と、もりといずみ(右)が始めた木版工房。食品のパッケージや広告、雑貨のイラストなどを幅広く手掛ける。展示会や木版のワークショップなどを開催。著書に『パン どうぞ』(講談社)や『どうぶつクッキー』(学研プラス)など

 イラストはどれも、木版画という手作業による木版印刷で描かれている。木版画は、まず下絵を描き、描いた下絵を版木に写す。下絵に沿って彫り込んだ版木に絵の具を塗り、紙に刷るといった工程を経てようやく完成する。

 彦坂木版工房は、色の塗り分けや色の濃淡を表現するため、1枚の木版画につき5つほどの木版を作成する。すべて手作業のため、1カ月間に描くことができる木版画は数枚に限られるという。

彦坂木版工房の視点
  1. 対象物を観察して下絵を描き、木版を作って印刷。木目模様や紙の地によって、木版画にしかない雰囲気が出る。
  2. パッケージに使う木版画では、クライアントの意図を取り入れながら特徴を捉え、よりおいしそうに見せる。
  3. パッケージでは、消費者が「自分のもの」と感じる親しみやすさと、「少しぜいたく」な表現を両立させる。

ばらつきも木版画の魅力

 木版の絵の具によって紙に表れるイラストは、色などが均一とはならない。ランダムに出る木版の木目や紙の地も独特の風合いとなる。

『どうぶつクッキー』(学研プラス)は、木版画で描いた動物形のクッキーと、その動物の鳴き声を描いた絵本。表紙の牛形のクッキーに版木の木目がしっかり出ている
『どうぶつクッキー』(学研プラス)は、木版画で描いた動物形のクッキーと、その動物の鳴き声を描いた絵本。表紙の牛形のクッキーに版木の木目がしっかり出ている

 「こうした風合いは、ある程度コントロールできるが、それでもばらつきがある。それが木版画の魅力であり、作るほうも楽しめる」と彦坂木版工房の彦坂有紀氏。「絵の具の水分量を調整したり、バレンで紙をごしごしする際の力加減を変えてみたり、そういった試行錯誤によっても仕上がりは変わってくる」

 彦坂氏は、大学時代に木版画を学び、卒業後、会社に勤めながら作家活動を続けた。2010年にクリエイティブディレクターのもりといずみ氏と彦坂木版工房を設立。もりと氏は現在、木版を彫り、絵本制作では絵コンテを描くなど、木版画を軸にした創作に二人三脚で取り組む。

 木版画の下絵は、実物を用意して、観察しながら描く。例えば、同じじゃがいもでも、蒸したりゆでたり、クライアントごとの「バターたっぷりで」などの要望によっても絵柄は変わってくる。

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