マーケティング施策で人口増に成功した千葉県流山市で起業したスタートアップが、行政と市民の独立・自立を支援する独自のプラットフォームサービスを展開。地域における人材投資の手法を、WaCreation代表の手塚純子社長に話を聞いた。
WaCreation代表
千葉県流山市は、TX(つくばエクスプレス)開通に先駆けて2004年に全国で初めてのマーケティング課を設置しました。以来、市の統計によれば子育て世帯をターゲットに誘致して30~40代を中心に人口が右肩上がり、総人口は04年の15万706人から20年には19万7041人と、約1.3倍に増えています。近年は市内で独立・起業する方もいると聞きます。WaCreation(千葉県流山市)は、市内のタクシー置き場だった空きガレージを改装して観光案内所兼コミュニティースペース「machimin」を設置し、近隣住民を集めています。何を行っているのでしょうか。
地域資源には「ヒト・モノ・バショ」があります。人口増加は、住宅都市で実行した「ヒト」を資源とするPR施策が功を奏したのでしょう。同時に、まちの社会課題も発生しました。産休・育休中の人や専業主婦、定年後のシニアは日中、地域社会の中にいます。他者と関わりを持とうとボランティア活動や、地域活動を始める人もいますが、仕事やプライベートな時間で培ったスキルを生かせない人も決して少なくありません。
machiminではそうした人をスタッフに呼び、「もし、流山市が株式会社で、市民が従業員、そして私が“人事部長”だったら」と仮定して、まちの「人材研修」を行っています。お菓子作りや趣味のイラストレーション、Webデザインなど自分の“好き”や“得意”を発揮してもらい、併設のシェアキッチンやスペースを使って商品化します。食品や製作物を店頭やオンラインを通じて販売することで人的資源を活用し、「ヒト」と地域社会の営みを結びつけています。収益を出せるようになったら研修は終了してmachiminを“卒業”し、自立を目指します。
その際の商品化のルールが、流山に関するものをつくることです。machiminでは江戸時代に流通の要所として栄えて以来の旧市街地にある立地を生かし、流山で発祥したといわれる本みりんを使ったクッキーや、流鉄流山線というローカル線の路線図や車体のジオラマ、缶バッジを製作しています。転入者がよく知らない「モノ」「バショ」を観光資源にできました。
公共性と事業性を両立する
行政や教育機関との協業もされています。手塚社長は、リクルートで人事の企画を担当していたと聞きますが、machiminの実践に生かされているのでしょうか。
私は人事に関する業務に携わるうちに「経済活動をするためには、様々な参入障壁がある」と痛感しました。だからこそ壁を壊して、輪を創ることをミッションとしたWaCreationを設立し、まちをみんなでつくる=machiminを1つのテーマとして、まちづくり事業を始めました。始めは市や民間の無償のプロジェクトに携わり、事あるごとに関係ある課に顔を出し続けることでmachiminのスペースに使える賃貸情報を紹介され、現在につながります。また、工学部の研究とやりたいことが同じだと千葉大学の環境デザイン研究室からお声がけをもらいました。「地域共生」という一般教養のクラスで文理融合の一事例を伝える講義をしています。
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