1973年のデビュー以来、数々のヒット曲を生み出してきたさだまさし氏。コロナ禍では「さださんの歌を皆に聴かせたい」とテレビやラジオの番組プロデューサーからの出演オファーが相次いだという。2021年4月21日に発売されたセルフカバーアルバム「さだ丼」には、時を経ても人々の心に響くドラマの主題歌やCMソングが並ぶ。さだ氏は歌づくりの際に、「伝わる言葉」をどう選んでいるのか。

2021年4月21日にセルフカバーのニューアルバム「さだ丼」をリリースしたさだまさし氏
2021年4月21日にセルフカバーのニューアルバム「さだ丼」をリリースしたさだまさし氏

 新型コロナウイルス感染症の拡大が続く2020年、テレビやラジオの番組プロデューサーらから、「コロナ禍で苦しんでいるときだから、さだまさしの歌を皆に聴かせたい」と出演依頼が続いたという。冗談交じりに「こんなオッサンつかまえて今さら俺の歌どうするの、って思ったけれど、彼らが選ぶ歌は『いのちの理由』だとか『奇跡』。ああ皆、閉塞感の中で苦しんでいるのだと感じました」とさだ氏は話す。

 コロナ禍だからというわけでなく、さだ氏の歌に励まされてきた人は多い。「人間は常に何かに悩み苦しみながら、毎日、毎年そのハードルを越えようと生きている。だから頑張ろうね、乗り越えようねという思いでずっと歌い続けてきた。僕としては最初から同じ歌を歌っている感じです」(さだ氏)

 1973年のデビュー以来、通算4450回以上のコンサートを開催してきた。その傍ら『解夏』『風に立つライオン』など小説家としても活躍し、多くの作品がドラマ化、映画化された。NHKの番組「今夜も生でさだまさし」では、パーソナリティーとしても人気者だ。

 さだ氏の言葉はなぜ人々に響くのか。長い間ファンの心を動かし続ける理由は何か。

聴きたい人に届けばいい

 作詞するときは「思っていないことは絶対に歌詞にしない」というさだ氏。例えば相手に元気になってほしいと願うときに出る言葉には、本人の持つ本質的なホスピタリティーが出る。心が伴わなければ、相手には薄っぺらい言葉に聞こえるだけだ。「自分のホスピタリティーが言語化したのが歌詞」(さだ氏)だから、心にないことは決して言わない。

 さらに、「知っている相手にかける言葉と、初対面の人にかける言葉とでは違う。さだまさしの歌は、不特定少数の『さだまさしを聴こう』と思ってくれる人に届けるという前提条件がある」と語る。聴きたくないと思っている人に歌が届くと思うと、切っ先が鈍るからだ。

 これらはさだ氏が歌をつくる順番からも分かる。(1)テーマを探す(2)メロディーをつくる(3)深層心理に語りかけるような歌詞を入れていく、という。

 同時期につくった2つの曲がある。「奇跡」と「風に立つライオン」だ。「ちょっと元気がなくて、自分に自信を失って生きている人の背中を押してあげる」という明確なテーマがあった。ちなみにテーマ探しは「さだまさしが歌うべきか否か」が判断の軸だ。

 相手を説得するのではなく、背中をポンと押してあげたい。だから「奇跡」では、「ながいながい坂道のぼるのはあなた独りじゃない」と書いた。そして「あなたの笑顔を守るために多分、僕は生まれてきた」と(恥ずかしげもなく)勇気を奮って歌ったのだそうだ。

 言葉にすると、気恥ずかしくなるような歌詞を正面切って入れたことにも理由があるという。自身のつらい経験だ。

「『精霊流し』が暗い、『無縁坂』でマザコン、『雨やどり』で軟弱、『関白宣言』で女性蔑視と批判されたたかれた。その上、戦争映画の主題歌というだけで『防人の歌(さきもりのうた)』では右翼と呼ばれた」(さだ氏)

 こんな受け取り方をされるのかと、深く傷ついた。世間からたたかれ続け、「いや僕は歌つくりなのだから、実生活では言えない言葉を代わりに言ってあげるくらいの強みを見せないと歌うかいがないだろうと自覚した」という。「風に立つライオン」や「奇跡」はその頃にできた歌だ。

深層心理に働きかけるような歌をつくる、とさだ氏
深層心理に働きかけるような歌をつくる、とさだ氏