「サードプレイス」として顧客に心地よい空間を提供してきたスターバックスコーヒー。新型コロナウイルス感染症の拡大など昨今の生活者の変化に合わせて、よりよい体験を提供しようと変化を続けている。スターバックス コーヒー ジャパンCMO(最高マーケティング責任者)の森井久恵氏に、スターバックスの今を聞いた。
スターバックス コーヒー ジャパンCMO
新型コロナウイルス感染症の流行拡大に見舞われた2020年でした。スターバックスにはどのような影響がありましたか。
日本でもコロナの流行が拡大し始めたころ、皆が不安を抱えている中で会社、ブランドを運営していく、特にお客様に直接サービスを提供している飲食業という点では緊張が走りました。当時、弊社では部長クラスの40人近くが、連日政府や自治体の動向を確認しながら、リスク対策を考えていました。何が正解か分かりませんでしたが、一つ決めていたのは、安心安全を最優先すること。中長期的にブランドとして成長することが何より大事なので、お客様やパートナー(従業員)を守ることを優先し、20年4月からの緊急事態宣言中は約8割の店舗を休業しました。
実はこの判断は、難しいものではありませんでした。スターバックスは企業のミッションとして「人々の心を豊かで活力あるものにするために――」を掲げ、毎日実践しようとしています。緊急事態宣言という不安定な時勢では、パートナーも安心して働けないし、働かせたくありませんでした。そのため店舗を閉めるという判断は迷いませんでした。
結果的にはよかったなと思っています。20年5月19日に営業再開できたとき、「スターバックスのコーヒーはエッセンシャル(必要不可欠)だよね」「街が明るくなったよね」と言っていただき、本当に泣いてくださったお客様もいました。短期的なビジネスの影響は当然ありますが、中長期にブランドとして得られたものは大きかったですし、判断は間違っていなかったと思いました。
十分な安全対策ができたため営業を再開したわけですが、季節ごとに実施しているキャンペーンなどで“密”になってしまっては安全とは言えません。まずは営業を再開したという日常を提供することに注力しました。そうして、(コロナが一旦)落ち着いてきた20年秋以降に実施したプロモーションでは、予想を上回る形で多くのお客様にご来店いただきました。
コロナ禍での消費者変化をどう感じていますか。
コロナ禍では物理的に人に会うといった、これまで当たり前にできていたことが難しくなりました。仕事に限っても、多くの人とつながりながら仕事をしていたことを、テレワークで感じたと思います。営業を再開して店舗に来てくださったお客様は、本質的な人とのつながりを求めていると感じました。地域の中で人々のよりどころとして集う場所でありたいという、原点に戻る、再認識する機会となりました。
一方で、デジタルツールを使うことで意外と何でもできることも発見でした。買い物も、人とのつながりを作ることも、ある程度のところまでは可能です。デジタル化はコロナ禍前からあった変化ではありますが、より加速しました。そこに合わせる形で、スターバックスでの体験も本質は維持しながら進化させていきました。
デジタル上でも「スタバらしさ」を提供
「デジタルでの進化」について詳しく教えてください。
大きく4つあります。1つ目はモバイルオーダー&ペイ(MOP)。店舗では商品を受け取るだけでいいので、コロナ禍では非接触で待ち時間もなく安心で便利という価値を提供できました。20年11月末からは全国のスターバックスで展開しています。自分のペースでカスタマイズを選択することができるので、MOPにおけるドリンクのカスタマイズ比率は3割以上と店頭での注文よりも多くなっています。
2つ目はデリバリーです。フードデリバリーサービス「Uber Eats」や「Wolt」のアプリを通じて、自宅など好きな場所でスターバックス体験をしていただけるようサービスエリアとメニューを拡充しつつあります。21年3月時点、約700店舗で利用でき、人気メニューのセット提案などデリバリーならではの展開も増やしています。
3つ目はオンラインストア。新しいタンブラーやマグカップなどが出るとき、初日などは朝から並んで買いに来てくださるお客様もいました。コロナ禍では人が殺到し、密になってしまっては安心を提供できないので、オンラインでも購入できることを意識的に告知しました。休業中には自宅用のコーヒーを注文する人が多かったですが、グッズ類やオンライン限定商品などラインアップを拡充した結果、利用者数はさらに伸びています。
4つ目はロイヤルティープログラムSTARBUCKS REWARDS(スターバックス リワード)です。17年から開始し、21年2月時点で会員は700万人を超えました。プログラムの基盤ができ、データも蓄積してきています。そのデータを活用した一人ひとりに合わせたメッセージやレコメンド機能などは、今後加速していく予定です。これまでパートナーが築き上げた接客にデータをうまく生かし、より一層付加価値を感じていただける体験を提供したいと考えています。
それらデジタル施策を打つ上で、「スターバックスらしい体験」になることも意識しています。デジタルツールを使用するときでも、ぬくもりを感じていただけるようなデザインを意識したり、バリスタとつながっているような言葉遣いにしたりと、店舗同様人と人とのつながりを感じられる体験を届けたいと思っています。例えば、マニュアル化しているわけではありませんが、店舗ではカップにパートナーがメッセージやイラストを描くことがあります。デリバリーであっても、受け取ったとき心がちょっと温かくなるような体験を届けたい。「お仕事頑張ってください」「すてきなディナーになりますように」といったメッセージを忍ばせるなど、パートナーが主体的に工夫してくれています。
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