ニューノーマル時代の急激な変化の中で、未来のデジタルはどこへ向かうのか。本連載では、IT評論家の尾原和啓氏が先駆するキーパーソンに問いかける。第1回は、塩野義製薬と中国平安(ピンアン)保険グループが設立した合弁会社のトップに就任した吉田達守 董事長に聞く。

塩野義製薬は中国の平安(ピンアン)保険グループと合弁会社を設立。新たなヘルスケアサービスのプラットフォームを構築を目指す(写真/shutterstock)
塩野義製薬は中国の平安(ピンアン)保険グループと合弁会社を設立。新たなヘルスケアサービスのプラットフォームを構築を目指す(写真/shutterstock)

 中国平安保険は、中国・深センに本社を構える保険会社だ。中国の四大保険会社の1つで、保険事業だけでなく、銀行や投資、金融などをはじめ、医療や住居といった生活サービスまで事業を拡大しており、株式の時価総額は20兆円を超える。そんな平安保険と塩野義製薬が、塩野義51%、中国平安保険49%の出資比率で合弁会社「平安塩野義」を香港で2020年8月、上海で同年11月に設立した。24年度には売上高700億円超を目標と掲げる。このタッグにはどんな意味があり、何を目指すのか。ベストセラー『アフターデジタル』の共同著書であるIT評論家の尾原和啓氏が、平安塩野義の吉田達守 董事長兼CEO(最高経営責任者)にインタビューした。

平安塩野義の吉田達守 董事長兼CEO(最高経営責任者)。1995年に塩野義製薬入社、生産技術研究所製剤研究部の主幹研究員、薬粧事業部製品企画部門長を経て2016年1月にシオノギヘルスケア取締役副社長。18年4月に塩野義製薬の海外事業本部グローバルビジネス部長、20年4月に執行役員。20年8月に現職
平安塩野義の吉田達守 董事長兼CEO(最高経営責任者)。1995年に塩野義製薬入社、生産技術研究所製剤研究部の主幹研究員、薬粧事業部製品企画部門長を経て2016年1月にシオノギヘルスケア取締役副社長。18年4月に塩野義製薬の海外事業本部グローバルビジネス部長、20年4月に執行役員。20年8月に現職
『アフターデジタル』の共同著書であるIT評論家の尾原和啓氏。オンライン会議のZoomを通してインタビューした
『アフターデジタル』の共同著書であるIT評論家の尾原和啓氏。オンライン会議のZoomを通してインタビューした

製薬業界のビジネスモデルに問題意識

尾原氏 製薬のメーカーである塩野義が、プラットフォーム構築の新ビジネスを展開するという話を聞き、かなり冒険的だと、正直驚きました。改めて、合弁会社をつくろうとした背景や狙いを教えていただけないでしょうか。

吉田氏 「外部環境の変化」が大きいですね。デジタルの技術の進歩が社会を大きく変えていますが、ここ2年ほど、特にアジアや中国などでその変化を見せつけられてきました。製薬業界のようなサイエンス中心の世界にいると、どうしても従来のビジネスモデルにとどまり、デジタル化の流れと大きく離れてしまう傾向があります。

 例えば製薬業界では、新薬を開発した後に特許が切れ、後発医薬品(ジェネリック)に替わると市場の独占状態が終了し、特許で得ていた収益が激減するというパテントクリフ(特許の崖)を繰り返すビジネスモデルが主流です。すると、1年間で数百億、数千億円の売り上げが吹き飛びます。その対策の1つとして特許が切れる段階でM&A(合併・買収)を行い、次の大型新薬を所有する企業を買収する手もありますが、これもパテントクリフ同様に持続性があるビジネスモデルとは言えません。

中国で生保や金融サービスを展開する平安保険グループと、多彩な医薬品を開発してきた塩野義の強みを生かして新たなサービス基盤を開発する。資料は20年10月の報道向け説明会のもの(以下同)
中国で生保や金融サービスを展開する平安保険グループと、多彩な医薬品を開発してきた塩野義の強みを生かして新たなサービス基盤を開発する。資料は20年10月の報道向け説明会のもの(以下同)

 そこで、社会から求められる価値を提供しながら持続させていくモデルの開発が必要だという結論に達しました。トップの手代木功社長がパテントクリフのリスクを何度も経験してきたという過去があり、持続性のあるビジネスに対して深い問題意識を持っていた部分も大きかったと思います。

 技術が進んでいく中で新型コロナウイルスの感染症が拡大したことで、社会全体のデジタル化を加速しています。今まではメーカー目線で物事が進んでいましたが、これからはお客様=患者様が主体となり、患者様に求められているサービスを提供しなければならないと強く感じています。

尾原氏 とはいえ、製薬会社は新薬をつくることに誇りを持っていますよね。新しい製品をつくるというメーカーの目線から、ユーザー目線で価値のあるものを、と視点を転換するのは簡単ではないと思います。 おそらく、他のメーカーさんも驚かれたのではないかと思います。それがうまくいくと考えた筋書きはどんなものなのでしょうか?

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