フルリモートで演劇を生配信する「劇団ノーミーツ」。世界初ともいえる本格的なオンライン演劇をつくり上げたキーパーソンインタビュー後編は、フルリモートでどのようにして公演をつくり上げていったのか、オンラインコミュニケーションについて直撃した。さらに、オンラインエンタメの今後についても聞いた。

劇団ノーミーツ主宰である、小御門優一郎氏(上段右端)、広屋佑規氏(下段中央)、林健太郎氏(下段右端)の3人に加え、テクニカル・ディレクターの藤原遼氏(下段左端)に話を聞いた
劇団ノーミーツ主宰である、小御門優一郎氏(上段右端)、広屋佑規氏(下段中央)、林健太郎氏(下段右端)の3人に加え、テクニカル・ディレクターの藤原遼氏(下段左端)に話を聞いた
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劇団結成から約4カ月、長編の2作目を終え、オンライン演劇をやったからこそ感じたことや、気づきは。

広屋佑規氏(以下、広屋氏) いろんな視点から語れることがありますね。プロデュースサイドからですと、キャパシティーがないということは改めてすごいことだと思いました。リアルの舞台では、お客さんがこの作品が面白そうだと思っても、席数に上限があります。特にコロナ禍の現状だと、再開している劇場でもソーシャルディスタンスを取るために席数を半減していますから、需要に対して供給が追い付いていません。一方、オンラインでは上限という概念がなく、いくらでも呼び込めます。お客さんは自宅からリラックスして見られるのも面白いと思います。

 興行面では、長編1作目が5000人、2作目は7000人以上の方に有料チケットを購入して見ていただきました。オンライン演劇には可能性しかないと感じました。

林健太郎氏(以下、林氏) 公演が終わって、脚本をもっとこうできたなとか、もっと企画を詰められたのではないかと悔しく感じた部分はあります。僕は普段、映画を制作しているのですが、悔しいと感じる部分が映画と近いなと思いました。演劇であり、映画にも近い。オンライン演劇は、演劇の単なる“オンライン版”ではなく、1つの娯楽ジャンルとして成立するのではないかと制作者サイドとして純粋に感じています。もっとオンラインでの制作活動が広がっていけばいいなと思います。

「舞台をオンライン化する」「既存のエンタメをオンラインで配信する」といったイメージで当初は捉えていたのですが、お話を伺うと新しいエンタメのジャンルという感覚なんですね。

林氏 もちろん企画を考えるときに「オンラインだから」とか「Zoomでやるから」という制限はあります。でもそれは、映画をつくるときに、どこの場所でロケするかという考え方と近いと思います。オンラインならではの表現も増えてきて、より新しいエンタメとして確立していくのかなと。予想ではありますけれど。

小御門優一郎氏(以下、小御門氏) 脚本・演出の立場から見ると、Zoom演劇では、「隔たりがあること、通信のラグがあること」が前提にあります。一見、ネガティブなことですが、この制約があることで新しい設定を生み出すことができると考えています。ストーリーを考えるときに、この制約を活用することで納得感が生まれ、感動を呼ぶものになるのだと思います。

 例えば、1作目の「門外不出モラトリアム」では、リモートでキャンパスライフを過ごした人たちが「すごく仲良くなったのに、俺たちの思い出ってスクリーンショットしかない。結局会ってないじゃん」というセリフがありました。2作目の「むこうのくに」でも、コミュニケーションのすれ違いが重要な要素になっています。直接会っていてもコミュニケーションに齟齬(そご)が生じることがあるし、完全に分かり合うことはできません。それが、オンラインであればより浮き彫りにしやすいという面もあります。

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