ライブ配信事業のSHOWROOM(東京・渋谷)は、3つの新規事業を加えた「エンタメテックカンパニー」に転換するため、デザイン重視の経営にかじを切った。狙いについて、取材に応じたSHOWROOMの唐沢俊輔氏と電通からSHOWROOMのクリエイティブディレクターとして参画している工藤拓真氏に聞いた。
SHOWROOMはなぜ、デザイン経営に取り組もうとしているのですか。
唐沢氏 SHOWROOMはDeNA(ディー・エヌ・エー)の新規事業として2013年11月に立ち上がり、20年内にも主要株主であるDeNAから独立する準備を進めています。19年11月には電通をはじめニッポン放送やドリームインキュベータ、GMOインターネット、アカツキなど複数の企業からの資金調達とDeNAが保有するSHOWROOMの株式の一部譲渡を行い、その対価は総額31億円になったと発表しました。現在は第2の創業期と位置付けて活動しています。
目指している姿は、これまでのライブ配信を軸としたサービスを手掛ける企業から、「エンタメテックカンパニー」と呼ぶスタイルへの転換です。エンタメテックとは我々の造語でテレビや映画、ラジオ、ライブ興業など既存のエンターテインメント産業に高速・大容量通信の5GやAI(人工知能)、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)など僕らの強みであるテクノロジーを掛け合わせることで、エンタメ産業をアップデートしようというものです。19年12月に発表した音楽・映画会社のジェイ・ストーム(東京・港)との資本業務提携も、その1つです。
SHOWROOMのライブ配信は1つの事業として継続しつつ、新たに3つの事業を立ち上げます。それが動画メディアと音声メディア、オンラインによるライブ興業で、合計4つの事業を統括するのが、エンタメテックカンパニーのSHOWROOMになります。プロ向けのコンテンツ制作を強化するため、既存のエンターテインメント業界の方々はもちろん、さまざまな企業と今後は協業していきます。新しいサービスを展開していくうえで、必須になるのが新規ユーザーの獲得です。そうなると今まで以上にユーザーと向き合う必要がある。そこでデザインの力が重要になると考えています。
僕らが考えるデザインとは「思いを形にする力」のことです。多くのメディアでSHOWROOMの思想や価値を伝えるため、出資企業の1社である電通に所属する工藤拓真さんに、19年10月からSHOWROOMのクリエイティブディレクターとして参画してもらっています。外部のアドバイザーではなく、半分は社内の人という立ち位置です。色や形を決める協議のデザインではなく、コーポレートのブランディングやマーケティング、事業プランの他に、新サービスのUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)など広義のデザインをSHOWROOMの一員として一緒に考えてもらっています。
具体的に何から始めたのですか。
工藤氏 コーポレートブランディングから取り組んでいます。その核として「すべての人生に、夢中を」というスローガンを決めました。よくあるのが、外部のデザイナーやコピーライターが経営陣とだけ話し合って決定し、「これで行きます」と社内に通達するパターンでしょう。しかしSHOWROOMの前田社長も唐沢さんも、そういうふうにはしたくないと。トップダウンで決めることは簡単なのですが、社員の理解や温度感にずれが生じてしまう可能性があるからです。それは僕も同意でした。そこで、まず10人ほどのデザイナーやエンジニアに社内の声を拾ってもらい、彼らと経営陣が一緒になって、どういう言葉がふさわしいか議論をしました。
唐沢氏 創業当初から掲げている「努力がフェアに報われる世界を創る」というミッションはそのまま変わりません。ただ、課題も感じていました。努力が報われてハッピーになれるのは、SHOWROOMで配信するパフォーマーだけとも捉えられる点です。その課題意識を、みんなで共有し、議論しました。
応援しているファンも、パフォーマーの夢がかなったらうれしいはずです。サッカーのチームとサポーターの関係性と似ていて、みんなが「夢中」になることが理想だという結論に至りました。そうした思いを抽象的に表現したのが、「すべての人生に、夢中を」というスローガンです。「すべての人生」の中には、パフォーマーやプレーヤーだけでなく、パートナー企業やスポンサー、もちろん社員も含まれています。
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