ライブ配信事業のSHOWROOM(東京・渋谷)は、3つの新規事業を加えた「エンタメテックカンパニー」に転換するため、デザイン重視の経営にかじを切った。狙いについて、取材に応じたSHOWROOMの唐沢俊輔氏と電通からSHOWROOMのクリエイティブディレクターとして参画している工藤拓真氏に聞いた。

SHOWROOMでデザイン経営を主導する唐沢俊輔氏(写真/名児耶 洋)
SHOWROOMでデザイン経営を主導する唐沢俊輔氏(写真/名児耶 洋)
唐沢 俊輔氏
からさわ・しゅんすけ●慶應義塾大学法学部卒業後、日本マクドナルドに入社。28歳で部長に抜てきされ、経営再建中には社長室長やマーケティング部長の立場から、「チェンジ・エージェント」として組織内部からの変革を推進。 2017年9月よりメルカリへ。18年4月より執行役員 VP of People & Culture兼社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般や、カルチャーの浸透といった組織開発の責任者を務めた他、社長室長として成長戦略の立案・実行を担当。19年11月、SHOWROOM入社
電通からSHOWROOMのクリエイティブディレクターとして参画している工藤拓真氏(写真/名児耶 洋)
電通からSHOWROOMのクリエイティブディレクターとして参画している工藤拓真氏(写真/名児耶 洋)
工藤 拓真氏
くどう・たくま●SHOWROOMクリエイティブディレクター、電通ソリューション開発センター。大分県大分市生まれ。早稲田大学法学部卒(知的財産管理士・ロンドン芸術大学留学)。電通で広告制作・PR に従事した後、グローバル企業のブランド開発、老舗企業の事業再生戦略、官民協同の街づくり事業、スタートアップ上場前後のクリエイティブ支援などを担当。18年11月より電通に帰任し、「クリエーティブ・ストラテジスト」として活動。東京工科大非常勤講師、日本広告学会クリエーティブ委員会委員、NewsPicks アカデミアプロフェッサーなど兼任。自著に『勇者に学ぶ「戦略思考」』(日本経済新聞出版社)がある

SHOWROOMはなぜ、デザイン経営に取り組もうとしているのですか。

唐沢氏 SHOWROOMはDeNA(ディー・エヌ・エー)の新規事業として2013年11月に立ち上がり、20年内にも主要株主であるDeNAから独立する準備を進めています。19年11月には電通をはじめニッポン放送やドリームインキュベータ、GMOインターネット、アカツキなど複数の企業からの資金調達とDeNAが保有するSHOWROOMの株式の一部譲渡を行い、その対価は総額31億円になったと発表しました。現在は第2の創業期と位置付けて活動しています。

 目指している姿は、これまでのライブ配信を軸としたサービスを手掛ける企業から、「エンタメテックカンパニー」と呼ぶスタイルへの転換です。エンタメテックとは我々の造語でテレビや映画、ラジオ、ライブ興業など既存のエンターテインメント産業に高速・大容量通信の5GやAI(人工知能)、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)など僕らの強みであるテクノロジーを掛け合わせることで、エンタメ産業をアップデートしようというものです。19年12月に発表した音楽・映画会社のジェイ・ストーム(東京・港)との資本業務提携も、その1つです。

 SHOWROOMのライブ配信は1つの事業として継続しつつ、新たに3つの事業を立ち上げます。それが動画メディアと音声メディア、オンラインによるライブ興業で、合計4つの事業を統括するのが、エンタメテックカンパニーのSHOWROOMになります。プロ向けのコンテンツ制作を強化するため、既存のエンターテインメント業界の方々はもちろん、さまざまな企業と今後は協業していきます。新しいサービスを展開していくうえで、必須になるのが新規ユーザーの獲得です。そうなると今まで以上にユーザーと向き合う必要がある。そこでデザインの力が重要になると考えています。

 僕らが考えるデザインとは「思いを形にする力」のことです。多くのメディアでSHOWROOMの思想や価値を伝えるため、出資企業の1社である電通に所属する工藤拓真さんに、19年10月からSHOWROOMのクリエイティブディレクターとして参画してもらっています。外部のアドバイザーではなく、半分は社内の人という立ち位置です。色や形を決める協議のデザインではなく、コーポレートのブランディングやマーケティング、事業プランの他に、新サービスのUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)など広義のデザインをSHOWROOMの一員として一緒に考えてもらっています。

リニューアルしたホームページのトップ画面に掲載されているSHOWROOMの企業ロゴとスローガン
リニューアルしたホームページのトップ画面に掲載されているSHOWROOMの企業ロゴとスローガン
新しいスローガンが決まった瞬間の写真
新しいスローガンが決まった瞬間の写真

具体的に何から始めたのですか。

工藤氏 コーポレートブランディングから取り組んでいます。その核として「すべての人生に、夢中を」というスローガンを決めました。よくあるのが、外部のデザイナーやコピーライターが経営陣とだけ話し合って決定し、「これで行きます」と社内に通達するパターンでしょう。しかしSHOWROOMの前田社長も唐沢さんも、そういうふうにはしたくないと。トップダウンで決めることは簡単なのですが、社員の理解や温度感にずれが生じてしまう可能性があるからです。それは僕も同意でした。そこで、まず10人ほどのデザイナーやエンジニアに社内の声を拾ってもらい、彼らと経営陣が一緒になって、どういう言葉がふさわしいか議論をしました。

唐沢氏 創業当初から掲げている「努力がフェアに報われる世界を創る」というミッションはそのまま変わりません。ただ、課題も感じていました。努力が報われてハッピーになれるのは、SHOWROOMで配信するパフォーマーだけとも捉えられる点です。その課題意識を、みんなで共有し、議論しました。

 応援しているファンも、パフォーマーの夢がかなったらうれしいはずです。サッカーのチームとサポーターの関係性と似ていて、みんなが「夢中」になることが理想だという結論に至りました。そうした思いを抽象的に表現したのが、「すべての人生に、夢中を」というスローガンです。「すべての人生」の中には、パフォーマーやプレーヤーだけでなく、パートナー企業やスポンサー、もちろん社員も含まれています。

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