若手が魅力を感じる企業に

田川 僕の知り合いに、大企業のエンジニアだったけれど、スタートアップとして独立した方がいます。彼はデザインも好きでセンスもあった。デザインとエンジニアリングの越境が自然とできていた方です。その方が、自分が開発したい商品を手掛けたいと、大企業から飛び出した。独立してからは、マーケティングや戦略立案、そして営業も自分で学ぶようになったそうです。大企業の中にとどまらず、ビジョンを持った若い人はどんどん、外に出ていく可能性があります。

佐宗 今の時代、特に20代の若いエンジニアやデザイナーの中には、自分で絵を描いたり開発できる人が多いようです。まさしくデザインとエンジニアが融合した発想の人でしょう。しかし大企業の中では表現の場が与えられず、腐ってしまう例もある。そういう世代は横断型で新しいものを形にしていく創造力は強い。そんな20代が大企業にはたくさんいるはずです。そうした人たちに向けて、やる気を解放したり、引き上げたりする道を作ることが求められます。

 私は以前、ソニーに在籍して社長直轄で新規事業を生み出す仕掛けづくりを担当しました。新しいことに挑戦したいと潜在的に思っている人は組織内にたくさんいました。そういう中でデザイン思考やイノベーションの方法論を実践するには、どうするべきかを考えました。そこで新規事業を支援する場やプログラムを立案したのです。イノベーターは自分自身の考えや行為を周囲から理解されない場合が多い。そうしたイノベーターを企業がいかに支援していくかが問われています。人材の登用に策がない企業は、やる気のある若手の流出を招くかもしれません。

 デジタル時代が進展するなか、海外の大手企業は数年かけて組織を見直しています。特に今後は、ユーザーの中心がミレニアル世代になるでしょう。そうした層に向けて何を打ち出せるのか。新しい時代に応じて日本企業もシフトしないといけません。

田川 新規事業のアイデアを生み出せるクリエイティブな人材をいかに育てるか、さらにアイデアをどうビジネスに仕立てていくか。構造と順序をよく考えていかないと先に進みません。日本の大企業が抱えるカルチャーを前提とした上で、そこに変化を生み出す仕掛けや人材を考える必要があると思います。

佐宗 ものを作ることに価値がある時代と、情報・知識やアイデアをつくることに価値があるデジタル時代は組織のモデルが大きく異なります。これまでのデザインはものの価値を高めてきましたが、情報・知識やアイデアは物理的な場所に依存せず、世界中に広がります。市場はどこにあるのか、誰がユーザーなのかも明確ではありません。だからこそ、自分たちが考えていること、自分たちが何をしたいのかを不動点として発信していくことで自分たち自身を定義し共感を広げていくコアの経営活動になります。

田川 ものの良しあしに加え、誰のために何を作るのかといったビジョンにユーザーの注目が集まるようになる時代になりつつあります。当然、企業自体の魅力の強弱もそこに出てきます。ビジョンをしっかり示す企業は、採用の面でも優秀な人材を引き付けるかもしれませんね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

(写真/丸毛 透)