企業も個人もビジョンが重要に

佐宗 私の書籍には「VISION DRIVEN(ビジョンドリブン)」というサブタイトルを付けました。田川さんの書籍と同様に、ビジネスとデザインをどうつなげるかがテーマですが、そこに私は個人の生き方まで含めて考えています。それらに共通する部分が、ビジョンの存在と言えるでしょう。

 今までにないものを具体化しようとする推進力は、最終的には企業や個人が持つビジョンに行き当たると思うからです。理想の社会や企業、理想の商品やサービスを定義し、そこと現状のギャップを知ることがポイントです。

 現状から積み上げて、ロジカルに企業戦略を立案する方法もありますが、戦略デザインファームである当社の立場から言えば、まずは理想の状態をビジョンとして定義し、それを形にしていくという起業家や社内変革者がもっと増えてほしい、という思いがあります。

 このためにはビジョンの解像度をいかに上げていくかが重要になり、それが企業にとっての新たな価値になると考えています。ビジョンをつくること自体がクリエイティブな活動と言えるかもしれません。ロジカルな方法論だけに頼るのではなく、クリエイティブな思考法も不可欠になる。だから当社にも、新しいブランドをつくるとか、新しいビジネスモデルをつくるにはどうすればいいか、といった依頼が増えてきています。

田川 スタートアップを見ると、他社にないようなビジョンを打ち出している方がたくさんいます。例えば世界中からゴミをゼロにしたいとか、データサイエンスを駆使して社会の無駄や無理を撲滅したい、さらには新しい貨幣システムを提案している企業もあります。そうしたビジョンを、ビジネス・テクノロジー・デザインの総合格闘技で落とし込んでいこうとするわけです。

 「デザイン思考」はデジタルサービスの構築や課題解決については大変よくできたフレームワークですが、ビジョンについては違ったアプローチが必要です。このビジョンをいかに可視化して具体性を帯びさせるか、そこにもデザインの使い所があります。ですので、ビジョナリーを自負する人は、タッグを組める優秀なデザイナーを探したほうがいい(笑)。佐宗さんは、なぜビジョンという考え方に行き着いたのでしょうか。

佐宗 過去の経験から前例のないプロジェクトが形になっていくときには、経営トップであれ、現場のリーダーであれ、自分のやりたいことを熱く語る人が必ずいるんです。経営トップが自分の思いをビジョンとして語ることは当たり前だと思われがちですが、意外に当たり前ではないんです。

 デザイナーなら自分が何をやりたいのかなど主観で考えて動くのは当たり前ですよね。自分の好き嫌いや、なぜこれをしたいのかを常に考えている。しかし大企業の経営トップとなると、何が最良の選択なのか、何が売り上げや利益につながるのかを考えています。主観で考えようとしても、自分の考え方を自然にブロックしてしまう。ビジネスの世界とクリエイティブの世界があるならば、その壁をいかに崩すか。それがビジョンになるのではと考えました。

 デザイン思考が課題を解決するための行為ならば、それだけではイノベーションは起こりにくい。自分のビジョンをさまざまな人と共有し、組み替えて表現を変えながら、いかに独創的にしていくかが重要です。日本人は自分のビジョンを打ち出す経験が少ないかもしれません。例えば、本来は自分の未来を決める就職活動にしても、相手の企業に応じて自分で“マーケティング”してしまい、企業に合わせてしまう。それで自分が望まない仕事に従事している人もいるでしょう。自分のビジョンが受け入れられ、成功体験を得られると、ものすごい自己肯定感が出てくる。自分自身への自信につながる。こういうことを育んでいければ、日本は変わっていくでしょう。