これと同じことです。実際、何のためにZOZOに入るかという仮説を紙に書きました。僕はそうした仮説をいつも紙に書き、その仮説は今も変わっていないかどうかを見返すべきだと考えています。そう考えれば、ZOZOが「ZOZOSUIT」やPB(プライベートブランド)に力を入れるタイミングで入社したものの、(収益悪化を受けて)19年の春ぐらいからフェーズが変わりました。入社時にやりたかったことがゼロベースになったため、進退を考えたというわけです。

 そもそも、なぜLINEを辞めて、ZOZOに入社しようと考えたのでしょうか。経緯も含めて教えてください。

 広告販売というセルサイドのビジネスを15年ぐらいやってきて、広告だけしかやってこなかったことに限界を感じていました。そんなときに前澤さんに声をかけていただきました。これまでなかった発注者サイドでの経験を得られると同時に、前澤さんとZOZOのブランドの関係を考えられるのが面白そうだと考えました。

 当時、前澤さんとは(LINE社長の)出澤(剛)さんを引き合わせて1、2度食事をした程度の関係でしかなかった。しかもLINE在籍時、ZOZOは広告主。それも上位5%に入るぐらいの太い顧客。その担当窓口だったマーケティング本部長(当時)の清水(俊明)さんから、ある日Facebook経由で「前澤さんが食事をしたいと言っている」と言われたことが転職のきっかけでした。その清水さんが会食には同席されないと言うので、ひょっとして、という思いはありました。

 それでも驚きましたよ。通常、この手の転職の話はヘッドハンティング会社から連絡がきて、根回しをするのが普通。まず、初っぱなから社長本人が出てくるのは珍しい。断ろうと思えば断れるし、その後に、「前澤さんに口説かれたけど断った」という“武勇伝”にもできたわけです。前澤さんはそういうことを気にしない、かっこつけないかっこよさみたいなところがあると感じました。その会食のとき、単刀直入に一緒にやろうと誘われました。

 入社の決め手となったのはZOZOSUITですか。

 前澤さんとは1週間に1回、3週連続でお会いしましたが、そのときにはZOZOSUITの無料配布や、宇宙旅行の計画を聞いたり、発表前のZOZOSUITを見せてもらったりしました。それまでの主要事業だったECモール「ZOZOTOWN」はブランドが主役のビジネスでしたが、PBをやることで、その当事者になろうとしていました。目先の損得ではない大義やビジョンを持ったブランドであることをアピールしたい。そうでなければ本物のブランドになれない。そんな思いを持っていました。世界進出も含めて本気だと感じましたし、ZOZOSUITを見せてもらったときに世界に打って出られる可能性を感じました。

 自分の役割について、前澤さんにも直接言語化しようと試みましたが、最後まで本心は分かりませんでした。ですが、振り返れば、前澤さんという個人をメディアにして、ZOZOSUITやZOZOを伝えていく役割を求められていたと思います。アップルと言えば、(スティーブ・)ジョブズを想起するように、ZOZOと言えば前澤さんというイメージです。個人をメディアにして、ZOZOSUITやZOZOを伝えていく役割を求められていたと思います。

前澤さんのフォロワー5倍がKPI

 入社時に、僕のKPI(重要業績評価指標)を教えてくださいと言いましたが、前澤さんもうまく言えない。最後に出てきた数字が、当時20万人程度だった前澤さんのTwitterのフォロワーを、まず100万人、500万人と増やすことでした。5倍は厳しいと思いましたが、そのKPIについてはある程度は達成できたと思います(前澤氏のTwitterアカウントのフォロワー数は現在383万人超)。

 Twitterの使い方についてアドバイスをしましたし、個別にツイート前に企画を伝えられて代筆をすることもありました。そういうことは意外と相談がきます。だからといって、それを全部そのままツイートをするわけではなくて、前澤さんが自分なりに言い換えることもありました。

 ネットでは一部「何から何まで二人羽織のように田端が前澤を操っている」というような声がありますが、そんな簡単な人じゃないですよ。それなら、もっと簡単だったと思います。人前に出たときの場の空気をつかむ能力はミュージシャンだった経験からか、ずば抜けています。ある程度の筋書きに沿いながら無視するのは前澤さんの勘。従う部分と無視する部分が絶妙で、それを横で見ながらうまい、面白いと思っていました。

 Twitterのフォロワー数では目標を達成しましたが、ZOZOSUITとPBは結果的にはうまくはいきませんでした。

 正直に言えば(ZOZOでの)2年の会社への貢献という点では、ダメだと思います。ネットでは田端のせいで株価が下がったとか、田端が辞めるから株価が上がるといったことも言われてますが、その評価は真摯に受け止めるべきだと思っています。

 ある意味、いい経験でした。前澤さんは株主総会で僕のネットでの炎上について、経営会議や取締役会でも事情聴取のうえ、議論していて、ガイドラインを作りそれにのっとって判断している。本人も頭を丸めて反省していると株主総会で説明していましたが、それを隣で聞いていて苦笑いするしかありませんでした。そんなユーモアが前澤さんらしいと思います。