元サッカー日本代表の鈴木啓太氏がセカンドキャリアとして選んだのは、「アスリートの腸内環境の研究」。約500人のアスリートから集めた便の研究で生まれた独創的なサプリメントを発売する。アスリートの腸内細菌に着目した経緯と開発秘話を鈴木氏に聞いた。
腸内環境はアスリートと一般人で違う?
鈴木氏が社長を務める、アスリートの腸内環境を研究するスタートアップ、AuB(オーブ、東京・中央)は、2019年12月上旬にサプリメント「AuB BASE(オーブ ベース)」を発売する。一般人に比べてアスリートが約2倍保有しているという酪酸菌をメインに29種類の菌を配合した商品で、そのエサとなるオリゴ糖、食物繊維なども加えることで腸内環境を整えやすくしている。
同社は15年10月に創業し、約4年かけて「アスリートと一般人の腸内環境の違い」を研究してきた。その結果を基に商品化されたのが、今回のサプリだ。だが、なぜ元サッカー選手である鈴木氏が、腸内環境の研究を始めたのだろうか。
「腸内細菌」に着目した理由を教えてください。
もともとは、栄養士だった母が常々「人間は腸が一番大事」と口にしていて、「自分の体調を知るために便の様子を見なさい」とも教えられてきました。高校時代は、「コッカス菌」という腸内環境を整えるサプリを母親から渡されて飲んでいたのですが、周りにそんなケアをしている友達はいなくて、気恥ずかしかったですね(笑)。
浦和レッズの現役時代も、腸から体調を整えることを習慣にしていました。具体的にはヨーグルトを食べたり、海外遠征に梅干しを持って行ったり。他にも、食後に温かいお茶を飲む、お灸をすえるなど、お腹を冷やさないように日々気をつけていました。それが、良いコンディションにつながることを実感として持っていましたね。
また、私はチームメイトと同じものを食べても、明らかに太りにくい体質。同じものを食べても、太る人と太らない人がいたり、同じようなケガをしても治りが早い人と遅い人がいたりします。それを観察するうち、「人間の体」の面白さに興味がわいてきたんです。健康に効くといわれているものを食べても、一向に体調が良くならないという経験をした人も多いでしょう。自分の経験から「腸に何かヒントがある」とは思っていたので、それを解き明かしたかった。
2015シーズンに現役を引退する少し前、世間では「腸内フローラ」という言葉が知られるようになり、これまで腸のことを考え続けていた自分のストーリーと重なった気がしました。これは自分がやるしかない。そう思いましたね。
以前からビジネスをやりたいという思いはあったのでしょうか?
実は20歳ごろから、引退後のキャリアを考えていました。「サッカーは30歳まで続けられればいい。その先の人生も長い」と思っていて。当時はサッカー以外の世界を知らなかったのですが、ビジネスをやっている友人と知り合い、いろいろな話をするなかで起業に興味がわきました。
サッカーの指導者になる選択肢はなかったのですか?
サッカーって夢があるように見えますよね。浦和レッズというチーム名は、日本なら2人に1人は聞いたことがあるかもしれない。でも、それだけ知名度があっても、営業収入は約75億5000万円(18年度)なんです。スタートアップでも100億円超え企業があるなかで、サッカークラブの知名度と売り上げには大きなギャップがあると感じていました。
それで、今サッカー界に必要なのは選手の育成だけではない、マーケット自体を広げることではないか。そう考えました。そのために私は一度外に出て、ビジネスを通してサッカー界に貢献したいと思っています。
「便をください!」。アスリートの反応は?
アスリートの腸内細菌に着目したのはなぜでしょう? 「便をください!」と依頼したときの反応も気になります。
アスリートは健康でないと続けられません。だから、便を集めて腸内細菌を調べてみたら何か見つかるんじゃないかと。しかも、腸内細菌の研究は多くの大学で行われていますが、アスリートに特化したものはほとんどありません。ブルーオーシャンだったんです。それで、知り合いのアスリートに片っ端から声をかけることにしました。
最初に便を提供してくれたのは、ラグビー日本代表の松島幸太朗選手です。瓶に詰めた検体を待ち合わせ場所で受け取って、保冷剤を入れた発泡スチロールに入れて持ち帰りました。そこからは北から南まで、私が直接取りに行ったり、(AuBの拠点がある)日本橋付近に来たときに寄ってもらったり。現在までに500人以上のアスリートに協力してもらっています。コンディショニングに気をつかっていて感度が高い人ほど、この研究の意義に共感してくれる印象があります。
AuBが定義する「アスリート」の基準を教えてください。
プロもしくはプロに準じたリーグがある競技や、そのリーグに入れそうな人が対象。日本のトップレベルの選手たちです。競技はサッカー、ラグビー、陸上の長距離、ハンドボール、バスケットボール、バレーなど、全部で27競技。チームメイトづてに依頼できることもあって、チームスポーツのほうが多いですね。男女比は6:4です。
また、年齢層も幅広く、上は最高100歳のマスターズ陸上トップクラスの選手まで。マスターズに出場する選手も、「お腹が空いた」と言って我々のブースに来る人が多かったんです。より長く現役でプレーするためには腸内環境をどう整えたらいいのか。それを知るためには、マスターズのデータも欠かせません。協力してくれた全てのアスリートの名前は公表できないのですが、青山学院大学時代に「三代目山の神」と呼ばれた陸上の神野大地選手や、プロ野球の嶋基宏選手なども検体を提供してくれました。
検体をもらう際、便の状態に基準は設けているのでしょうか?
(腸内細菌を減らす原因になるといわれる)抗生物質を飲んでいるなど、スクリーニングはします。でも、基本的には「自分の出したいタイミングで出して」と依頼しています。シーズンによって体調も変化するので。また、定期的に検体を提供してもらうことで腸内環境を定点観測している選手もいます。この検査はまだサービスとして確立されたものではないのですが、協力してもらった分、できる限りフィードバックしたいと考えています。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー